光明ノ神子

 琥珀糖は、とてもきれいなお菓子だ。作り方を調べながら、光は、うっとりしていた。
「綺麗……」
 食べる宝石と言われるほどに美しい琥珀糖。贈り物やごほうびに人気な和菓子だ。
「寒天と……砂糖と……着色料……か」
 光は、家にある材料を思い出しながら、立ち上がるの、和室からキッチンに。棚にいれてある材料を確認すると、背中にぬくもりを感じた。
「光何してるの??」
 後ろを見ると、友美が背中にくっついていた。
「材料確認」
 光は、戸棚を閉めると、友美の方に体を向けた。
「材料確認?? なにか作るの??」
「琥珀糖をね」
 友美は、瞳を煌めかせる。
「琥珀糖!! 私好きよ!!」
「知ってるよ」
 光は、目を細めいう。今回初めて、彼が琥珀糖を作ろうとしている理由は、まさしく友美にある。
 先日久しぶりに琥珀糖を友美は、モアから貰ってきた。試しに作ったから食べてほしいと。
 家に持ち帰り、友美は、その琥珀糖を子供たちにたげ、自分は、少しだけしか食べなかったのである。しかしどこか寂しそうな顔もしていた。
 その顔を見て光は、もっと友美に琥珀糖を食べさせたいと思い、作ることにしたのだ。
「この前子ども達が好きだからってほとんどあげてたけど、俺は、見てたよ。もっと食べたいったいう友美の顔」
 友美は、視線をそらすと、苦笑いを浮かべた。
「だって久しぶりだったもの。それに買うにしても琥珀糖高いから……」
 安くて五百円前後、高ければもっとする琥珀糖。そのうえ量が少ない。 
 買えるといえば、買えるが、高いなと友美は、判断し、その後買おうとは、しなかった。
「確かに高いな……」
「でしょう?? でも光が作ってくれるなら、少しくらい多く食べれるし!! 楽しみにしてるわ!!」
 光は、この時何となく、友美の頬を両手を添えた。そしてむにむにと手でやると言った。
「全部食べていいんだ!! これは、友美の分で作るから!! 成功したら、今度子ども達の分も作る!! これは、いわば、実験だ!! 実験!!」 
 友美は、不服そうな顔をすると光の手を掴み、離した。
「この手は、要らない!!」
「つい……」
 友美は、ふんと鼻を鳴らすと、言う。
「光は、時々私を子供扱いする!!」
「つい……」
 実は、この行動、友美が八歳ごろに光がよくやっていた行動だ。  
 あの頃は、幼くも強い少女を可愛いなと少女を笑わすためにしていた行動だったのだが。今は、見事に少女は、大きくなり、彼の妻になった。しかし彼女を怒らす行動になってしまっている。
「ほら……友美が十歳になる前から知ってるせいか……時々出ちゃうんだよなぁ……あの時の友美これやったは、笑ってくれたなぁ……と……」
 友美は、遠い目をする光に呆れながら言った。
「私成人してるんだけど……なんなら、光の子供四人産んでるんだけど……」
「それとこれは、別だ!! 別!! もちろん友美を子供とは、おもってないから!!
この……懐かしさと愛おしさのあまりに……」
 友美は、この時自嘲している光を見ながら、しかたがないと思っていた。
「まぁしかたがないわね……」
「ごめん」
 友美は、微笑むとキッチンか、出ていってしまった。この様子からして、今回は、許してもらえたらしい。
「……成功させる!!」
 光は、密かに闘志を燃やし、さっそく買い物行き、足りない材料と夕飯の支度に必要なものなどを買いに行き、作ってみた。
「よし。冷めたから、バッドに広げ……着色料で色をつけると……」
 涼しげ水色から黄色のグラデーションがとけた寒天についた。
 後は、これで冷し数日かんそうさせるだけだ。
「結晶ができるといいんだが……」
 しかしここからが問題だった。数日たち、光は、冷やしていた琥珀糖を確認した。
「……透明だと!? 結晶化してない」
 まさかの事態に驚く。作り方に間違いは、ないと確認したのち、どう乾燥させるか光は、悩んでいた。
「うーん」
「光ちょっと!!」
 キッチンにかおを出した、楸に光は、何事かと彼を見た。
「なにやら、面倒なにおいがする……」
「ある意味正解!! ちょっと光手を貸してくれ!!」
「はぁ!?」
 楸に腕を掴まれ、光は、何処かにつれていかれた。

 ここまでぶちギレている光を見るのは、久しぶりかもしれない。
 楸は、飛んでくるあやかしの亡骸を避けながら顔をひきつらせていた。
「……まさに地獄絵図」
 襲い来るあやかしのなか一人立つ光は、深紅に染まっていた。
 一瞬にして、張られる白銀の鉄線は、あやかしの肉を引き裂き、辺りを血の海にしていく、そして飛んでくる肉片からは、血とは、別の清らか水が、流れ出していた。
「まったく!!!! 人の楽しい時間を邪魔したあげく!! 考える時間もくれないのか!!! この糞どもが!!!!」
「とうとう……糞っていっちゃったな……」
 あやかしたちも退きぎみでとうとう、尻尾を巻いて逃げ出した。
 楸は、これで終わりだなと光の所へいくと、なんと髪を掠めるようにクナイが飛んできた。
「え??」
「元は、と言えば、お前が一人で対処しないからだろ!! 神子ならしろ!!!!」
「私に水属性の術を使えと!? それは……出来るけど光程じゃないから……」
 楸が得意とするのは、炎属性の術であり、水属性も使えるが、よくて、ちょろちょろと水を出せるくらいだ。
 光は、苦虫を噛み潰したよう顔をすると、鋼の糸を片付けた。
「さすが……集団殲滅力がすごい……」
「楸もできるだろ」
「私がやるの火災になるし??」
 光は、荒神の神子も大変だなと思いながら、すこしばかり工夫すればいけるだろうともこの時思っていた。
「なんだそれは」
「まぁね。それより光、君は、何を考えていたんだい??」
 光は、ため息をつきながらこいつに話して解決することでは、ないと思いながらも話す。
「琥珀糖が結晶化しなくて……どうするべきか考えてたんだ」
 楸は、考えるようなそぶりをした。そして口角をあげる。
「それなら私が力になれそうだ」
「はぁ??」
 思わず光は、首をかしげた。こいつになにができるというかんじで。
「光。私が少しは、料理できることを知ってるよね??」
「そりゃな」
「ならお菓子を作れることも知ってたかい??」
 光は、驚いた顔をすると言った。
「楸がお菓子だと!?」
「私だってスイーツは、好きだからね??」
「で何を作れるんだ??」
「琥珀糖だよ」
「琥珀糖……」
 まさかの事実に光は、驚いた。
「でもそれしか出来ないけどね」
 楸の発言に光は、真顔になると、彼に背を向ける。
「帰る」
「なんでそうなるんだ!?」
 楸は、光の肩を掴んだ。
「他も作れたら、少しは、安心できるが、それだけって不安なんだが!?」
「でも琥珀糖ならお任せあれ!! それに手伝ってもらった対価にもなるだろ??」
 しばらく考えたのち、光は、ため息をつくと言った。
「分かった」
「よし!! ならさっそく帰ったらやろう!!」
「なんで楸が張り切ってるんだ……」
 二人は、急いで家に帰ると、さっそく琥珀糖の件について取りかかった。

 冷蔵庫の中から、琥珀糖を出すと、二人は、バットを確認した。
 上に乗せられた、キッチンペーパーを取ると、透明な琥珀糖が。
「うーん砂糖をかけるか、ドライヤーかな……」
「なるほど。水分を吸わせるんだな」
「そういうこと」
 さっそく二つに分けて、二人は、砂糖を一方にかけ、一方には、ドライヤーをかけ始めた。
「おっ!! ドライヤーなかなかいいな」
「だろ?? 光」
 しばらく乾燥させ、再び冷蔵庫に入れた。
「さて後日どうなってるかな」
「結晶化すればいいが……」
 二人でそんな会話をしていると、カウンター越しに、なんとも言えない顔をした友美が。
「光……なんで血まみれ??」
 光と楸は、首をかしげ、そしてハッとする。
 とたんに楸は、苦笑いをし、光は、頭を抱えた。
「琥珀糖の事で頭いっぱいで、シャワー浴びてくるの忘れてた……」
「光ずっと琥珀糖といってたもんね……」
「そうなのね……とりあえず男二人でなおかつ一人は、血まみれで、キッチンでわちゃわちゃしてるのは、なかなかシュールよ……」
 確かに言われたらそうだ。光は、急いで、お風呂場に行に。
「楸ありがとう」
「どうってことないよ」
 そんな光を見送ると、友美と楸は、微笑みあった。
「なら私も部屋に戻るよ」
「分かったわ」
 楸も部屋に戻り、友美は、一人リビングで楽しげに笑っていた。
「なんやかんな、仲いいのよね……光と楸って」
 仲のいい友がいることは、いいことだ。
「琥珀糖もどうなるんだろう……楽しみ!!」
 友美は、そういうと和室へと入っていった。
 
 数日後光は、恐る恐る楸ともに、冷蔵庫から琥珀糖を出していた。
 キッチンペーパーをあけ、中を見ると、無事に結晶化していた。
 パッと明るい顔を光は、する。
「やったー!!」
「よかったね光」
「ありがとう楸!!」
 これで友美にあげれると、光は、思ったが、その前にと分けていたタッパーを楸に差し出す。
「お礼だ」
「え?? いいのかい??」
「楸大好きなんだろ?? 琥珀糖」
 わざわざ手作りするほどだ光は、そうとう楸が琥珀糖が好きなのだろうと話を聞いたとき思った。その後確認のため、子供たちに聞いてみると、無事に裏がとれた。
 楸は、困惑しながらも素直にここは、受けとる。
「ありがとう」
「一先ず、実験だから、味は、保証出来ないぞ」
「それでも嬉しいよ」
 そう言いながらも光の作ったものなら食べられる。楸は、さっそく食べた見ると甘さが口に広がった。
「あれ?? これオレンジの味が……」
「水の代わりにオレンジジュースを入れたんだ」
「なるほど。なかなかいける」
 普通のも作ってみたが、すこし遊んだものもいい感じのようだ。
 さて友美に出来たと言いに行こうとしたとき、友美がキッチンに。
「琥珀糖!!」
「友美お待たせ」
 瞳を煌めかせる友美にどうぞと琥珀糖をだすと、友美は、さっそくたべる。  
 甘さにプリっとした感触と、このしゃりしゃり感がたまらない。
「美味しい~!!」
「それは、よかった!!」
「光ありがとう!!」
 友美は、そういうとそのまま何処かに行ってしまった。
「食べないのか??」
「たぶん光がまだ食べてないから遠慮してるんじゃないのかな??」
 光は、嬉しそうに微笑むと、琥珀糖を食べた。
「まぁいける」
「ならよかった」
 楸と光が話していると、友美が戻ってきたなにやら、箱をもって。
「はい二人に!!」
 差し出された、箱を二人は、受け取ると言った。
「開けても??」
「もちらん!!」
 さっそく中を開けると、楸の箱には、万年筆が。そして光の方には、ボールペンが。
「万年筆??」
「楸欲しいっていってたから!! いつものお礼もかねて!!」
「ありがとう友美」
 これは、大切にしなければと思い、楸は、箱を閉める。
「俺は……ボールペン……」
 寂しそうに言う光に友美は、いう。
「万年筆集めてる人は、うるさいし、なにより、ボールペンの方が光持ってないからあっても困らないかな?? と」
 友美なりに考えて、選んだのだが、万年筆の方が光は、よかったのだろうか。
「ありがとう」
 光は、微笑むと、嬉しそう揺れているので、これは、気に入った証拠だろう。
「光分かりやすいねぇ……」
「それが光だから!! 楸!!」
「なにが??」
「なにも!!」
 首をかしげる光に友美と楸は、そういうと、微笑む。
 琥珀糖も無事にでき、これで一件落着といえよう。
 まさか琥珀糖から最後は、ボールペンに行き着くとは。
 なにやらこそこそ話していると友美と楸にすこしばかり、モヤモヤしながらも、彼は、嬉しそうに微笑むのであった。楽しかったと思いながら。



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