光明ノ神子

 高天ヶ原にある水神の住まう屋敷。雨ノ宮。ここは、美しい季節の花が咲き、清らかな水に囲まれた屋敷だ。
「画竜なにかしら……」
 友美は、届いた文を読みながら、首をかしげた。
「友美どうしたのさ」
「白野威画竜からなんか呼ばれた」
 友美は、文を見せると、白野威も首をかしげた。
「茶だけ飲みにこい!?」
「そうなの。水郷に着いてきて貰おうかな……」
 水郷は、画竜の妹であり、雨ノ宮は、彼女の家でもある。
 しかし水郷に着いてきて貰うとなると、なかなか難しいかもしれない。
「そもそも光から離れる??」
「うーん無理だと思うわ……」
 水郷は、光に何時も憑いておる。理由としては、光を守るためといいつつ居心地がいいらしい。
「昔ならともかく離れてもいいのにね今は」
「たぶん十年近くもう光といるから、離れにくいのかもねー」
「居心地がいいってやつか」
「そうそう」
 実際に水郷は、この家でも日向ぼっこにでてきた後、光のところに戻っている。
「白野威ついてきて!!」
「心配しなくてもついていくさ」
  友美は、ほっとした顔をする。
「これで百人力!!」
「友美一人でもどうにかで来そうだけどね」
「精神的によ!!」
 といいつつ友美は、あの頑固者の画竜が唯一お願いを聞く人間だったりする。
「にしても友美が誰かついてきてというの珍しいね」
 友美は、気まずそうな顔をする。
「たぶん父関連のような気が……」
 白野威は、あきれた顔をする。
「画竜に色々頼んでるしね」
「そうそう。その流れで名乗れと言われたのかも??」
 友美としては、確かにそうしてほしい気持ちは、あるが生活に支障ないのでどうでもいいと思っている。
「友美けっこうどうでもいいんでしょう??」
「当たり」
 白野威は、本当に無頓着なんだからと思いながら、苦笑いしていた。
 昔からそう。友美は、自分の生活に関係することには、興味を持つがそうでなければ基本どうでもいい。
 食事に関してもとれればいい。栄養は、二の次だ。だから光が、とんでもない進化を遂げたともいえる。
「オモヒカネが友美が小さい頃から関わってたらともかく……今の友美にとっては、捨て置くことなんだろうね……」
 神としての冷酷な一面を友美は、持っている。白野威でも驚くほどに。
 切り捨てると決めれば友美は、躊躇など全くない。
「オモヒカネがその切り捨て対象になってなかったらいいが」
 高天ヶ原の為に日ノ本の為にと決断したオモヒカネさ、断腸の思いだったはず。
 げんに別れてからも彼は、何かと気をかけていたなのだから。
「とりあえず画竜には、いくって返信しとこ」
 友美は、そういうと文を出した。そんな彼女の顔は、どことなく切ない顔をしていた。

 神とは、時に我が儘で時に慈愛に満ち時に、暴虐武人になり、時に、冷酷だ。
 これは、神である白野威も思っていること。特に父親に関しては。
 雨ノ宮に来た友美と白野威。門番に話をするとすぐに中にとおしてくれた。
 綺麗はアジサイが咲く石畳をあるき、尊厳な佇まいの屋敷にはいると、画竜が出迎えてくれた。
「来たな友美」
「画竜お招きありがとう!!」
 優しく微笑む画竜は、白野威に気づくと頭を下げた。
「天照大神」
「白野威でいいつうの!!」
 毎度毎度説明するのは、めんどくさい。だが画竜は、きっちりしないといけないたちらしい。
 画竜は、溜め息をつくという。
「おうせのままに」
「よし!!」
「画竜今日は、その……」
「友美の好きな菓子が手に入ったからな。それで呼んだ。あとは、おまけの用件だ」
 画竜のこの嫌そうな感じ、間違いなくおまけは、オモヒカネの事だろう。
「おまけ……」
「まずそちらから終わらせよ。俺は、その間にお茶の準備をするさ」
 画竜は、愛おしそうに友美を見て微笑むと、優しく頭を撫でた。 
 彼は、いつもそう。友美が赤子の頃からこうして彼女の頭をよく撫でていた。
「分かったわ」
 画竜が屋敷の奥へ入っていくと、友美は、白野威をつれ、庭に。
 すると居た。オモヒカネが。
「神子姫」
 彼は、友美に気づくと少しだけ気まずそうな様子に。
「白野威は、いない方がいいですか??」
 友美なりに気を遣ったのだろう。白野威は、一応動けるようにしておこうとしたが、オモヒカネは、首を横に振った。
「天照大神には、居ててもらってくれ」
「あんたまでそう呼ぶの!?」
 白野威は、思わず突っ込むと、オモヒカネは、あきれた顔をしていた。
「本来は、貴女が天照大神なんですよ。そりゃ呼びます」
「白野威って呼べ!! ややこしいのに!!」
「まぁ天照が居る前では」
 本当に自由な神だなとオモヒカネは、思いながら、友美を見た。
「その……」
「なに?? お父さん」
 友美は、はっきりと言った。オモヒカネは、鳩が豆鉄砲をくらった顔をし、しだいに顔を青くした。
「何故知ってるんだ!!??」
「そりゃ、気配とお母さんの反応で分かるわ」
 友美は、呆れた顔をするが、オモヒカネは、この時思った。この感じ、同じだと薫に。
 不味い余計なことをいえばたぶん吹っ飛ばされる。己の感がそうつげていた。
「そうか……」
 オモヒカネは、そういうと、目を伏せた。
「すまない……ずっと名乗り出なくて……本当ならもっとはやく名乗るべきだった……」
 せめて娘が運命を変えた時に。しかしこの時オモヒカネは、天照の側を離れられずに友美のところに行けなかった。 
 その後もやはり名乗り出るわけには、いかないと悩む日々が続きずるずる来てしまった。
「神子姫恨むのなら恨んでくれてもいい。俺は、父親としては、なにもしてない……んだから……」
 後悔が滲み出ている。オモヒカネは、今更後悔しても自分には、意味がないのにと思いながら、恐る恐る友美を見ると、彼女は、どうでも良さそうにしていた。
「友美??」
「恨む?? なにもしてない?? よくいうわ!! 一方的に加護与えまくってたくせに!! それに私にばれないよう必死に色々根回しもしておいて!! なにがなにもしてないよ!! 確りしてるじゃない!! ここまでしてもらっといて恨むか!!」
 むしろ怒られた。オモヒカネは、きょとんと思わずしていると、白野威に突っ込まれた。
「なにきょとんとしてるのさ。あんたって昔から神々が知らんところで策をたててるし、ニギギについていったとおもったは、高天ヶ原に戻ってきてるし!! 突拍子ないこともしてるじゃないさ!!」
「白野威様なんか後半から脱線してませんか!?」
「確かにニギギにオモヒカネは、ついていっていたような……」
 友美も神話を思い出しいう。
「ニギギよりも天照の方が厄介だから高天ヶ原に戻ってきたんだ……」
 その後色々あり、イザナギの非道な策にはめられ、なくなく彼は、またナカツクニに降りることになったが。今度は、人として。
「友美」
「なに??」
「今更だが……友美を捨ててしまってすまない……あの時なくなく二人をおいて俺は、高天ヶ原に戻らなければならなかった……もし神としてすぐにでも降り、二人を守れていれば……」
 オモヒカネは、高御産巣日神の息子だ。神格としても高いうえ力も強い。
 だがイザナギ相手となればそうと言ってられない。
 相手は、ナカツクニを産んだ神なのだから。 
 友美は、言った。
「後悔するなとは、言わないけど、後悔してもしかたがないわ。それにイザナギが困ったやつなのも今にはじまった話じゃないもの」
「友美……」
「まぁとりあえず名乗る気になってくれてよかったわ」
 友美は、微笑むという。
「分かっていても名乗ってくれるのと、くれないのとでは、違うもの」
 オモヒカネは、目を細める。
「そうだな……」
「あとお父さん無理して男らしい話し方しなくてもいいのでは??」
 普段のオモヒカネは、もう少し柔らかい口調だ。
 オモヒカネは、無意識だったらしく驚いた。
「していたのか……無意識だったよ……」
「そっか!!」 
 友美とオモヒカネは、微笑みあう。
「友美そのこれからは、堂々と父として頼って!!」
「うーんそれはいいかなぁ……」
 オモヒカネは、ガーンとショックを受けた。
「何故!!??」
「光いるし……なんなら、高御産巣日神いるし……」
 オモヒカネは、この時にっこり微笑む父の顔を思い浮かべ、悔しそうに言った。
「まったく父上は、自由すぎだー!!!!!」
「まぁまぁ……」
「母上なら……」
「その母も自由だけどな」
 白野威の突っ込みが入るなか、オモヒカネは、何故両親揃って自由なんだと思ってしまった。しかしその自由な両親がいなければ友美は、いないわけで。
 母に関しては、しかたがないと思ったが、やはり父に関しては、少しムカついていた。
「でも時々は、会いに来るかも」
「友美……」
「それに私の事よりお母さんのことを優先して。独身でずっと、待ってたんだから」
 オモヒカネは、目を細める。
「そうだな。ありがとう友美」
「いえいえ!! じゃ私画竜とお茶するから!!」
 友美は、そういうと去っていった。
 それを見送ると白野威は、いう。
「一応友美のなかで色々思うところは、あったみたいだよ」
「だと思いますよ。白野威様。でもあの子は、いつもそう。それを隠して、事がいい方に進むようにする」
「よく知ってるじゃん」
「当たり前です。見てきたんですから。しかし今回は……」
 娘なりに本心を出してくれていた。オモヒカネは、それがとても嬉しかった。
「くっそ……小さい頃に可愛がりたかった……」
 そして悔しかった。ちび友美に父と言われたかった。
 白野威は、ここにも馬鹿がいたと思いながら、オモヒカネを見ていた。
「画竜」
「友美もういいのか??」
 白野威がそうしているころ、友美は、画竜の所に。 
 頷くと言った。
「うん。それとありがとう」
 画竜は、微笑む。
「いや」
「どうでもいいと思ってたけど、とりあえず名乗ってくれるとなんと、ほっこりする」
 友美は、そう漏らすと、画竜は、いう。
「隠されているのと分かっているのとは、違うからな」
「画竜……」
「友美は、よく頑張った!! さて褒美に菓子を食べよう!!」
 画竜は、そういうと友美の頭をなでそしてお茶のしたくをはじめた。
 友美も、したくを手伝いそしてお茶会を始めた。
「このおかし美味しい!!」
「だろ??」
 父親と話すとは、このようなものなのだろうか。画竜の話をしているとふと思ったが、友美は、その考えを消した。
 これから分かっていけばいいと。
「友美よ俺は、変わらず友美の味方だ。何かあれば頼ってこい」
「ありがとう画竜」 
 遠くから白野威の足音が聞こえ、友美は、話が終わったのかと察した。
「画竜オモヒカネに会ってこないの??」
「今あったら殴りそうになる」
「そっか」
 こちらも少し困ったな。友美は、これから仲良くなるかと思いながら、茶を飲むのであった。少しほっこりとした優しい気持ちで。
 
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