光明ノ神子

 初夏の風を感じるようになったころ、勇音は、驚いた顔をしたていた。
「はぁい!?」
「だから植物園行こうって誘ってるんだけど!!」
 目の前には、あきれた顔をする居候が。
「それって他の女性と行った方がいいやつ!!」
 勇音は、そう言い返すと、燕青は、悲しそうな顔になる。
「こんなむさ苦しい熊と誰が行ってくれるんだよ。そもそも」
「自分で言うそれ……」
 勇音は、そういうとお茶をのむ。
「植物園なんてとーんと50年程いってないなぁ……」
「50年……」
 神にとって50年など一瞬なのだろう。燕青は、流石と思いつつ煎餅を食べた。
「で行ってくれるか??」
「どうしてもと言うのなら」
「ならお願いします!!」
 とりあえず誘えることには、成功したが、問題は、ここからである。
 当日気が変わらないかということだ。
「で何時にするの??」
「この日に……」
 勇音は、カレンダーを確認して言った。
「分かった。とりあえず異界に行くならその日までに帰って帰さないよ」
「分かってる。それに異界行かないし」
「そうなの!?」
 燕青は、異界を渡りよく放浪している。しかしここ最近いずっと居るなと思ったが、何かありそうだ。
「均衡が崩れるとか??」
「いや。俺も思うところがあってな」
「思うところ??」
「そう。まぁまた気が向いたら行くかもな」
 勇音は、お茶をのむと、店の方に行った。
燕青は、優しい眼差しで彼女の後を追った。
「春は、勇音が寂しそうだからって言えねぇ……よ……」
 確かに他にも理由があるがそれが一番の理由だったりする。
 燕青は、立ち上がると、買い物へと出かけた。

 約束当日朝から台所で燕青は、何かしていた。
「おし!! 出来た!!」
 満足げに微笑むと、燕青は、弁当を風呂敷に包んだ。 
「光先生みたいに……料理の出来る男は、もてるからな‥…」
 あそこまでの実力は、なくとも、出来るだけで喜ぶ女子は多い。我なら、いい出来と自画自賛していると勇音が起きてきた。
「おはようございます……」
「勇音頭爆発してるぞ!?」
「乾かさずに寝たから……寝癖直してこよう……」
 燕青は、少しあきれた顔をしたが、そういうところもいいんだよなと思っていた。
「そういえば……寝巻きの勇音久々にみたな……」
 普段燕青が起きてきた時には、勇音は、着物に着替え、ている。
 珍しい事もあるもんだなと彼が思っているとき勇音は、洗面所で項垂れていた。
「寝れなかった……」
 少し楽しみすぎて。そしてこの話を友美と珊瑚にしたときの彼女らの反応のお陰で。
「それデートじゃん!!」
「逢い引きか。やるじゃん燕青」
「えっ!!?? ただ出かけるだけです!!」
 とあの時は、勇音は、言ったがその後よくよく考えたら燕青は、たぶん断られたら行かなかっただろうとなり、これデートでは、ないかと気づいてしまった。
「……デート……逢い引き……何故私と……」
 豪快だが太陽のような彼なら他の人でもいいと思うのに。なんなら、他の人の方がいいだろう。神である自分よりも。
「……人は、簡単には死ぬから」
 勇音は、切なくそう呟くと、寝癖をなおし、髪を整え、部屋に戻り着替えた。
「今日は……動きやすい方がいいか……」
 普段は、和服の勇音だが、彼女が手にしたのは、洋服だった。
「……似合わなくてもいいよね……」
 袖を通したのは、黄色のサマーニットにジーンズという珍しい姿だった。
「インターは白のタンクトップと……」
 光に事前に聞いてコーディネートしてもらってよかった。
 あの時彼は、似合うといってくれたが、見慣れない姿に勇音自身は、似合うとは、思わなかった。
 勇音は、部屋をでると居間に。すると美味しそうな朝ごはんが出来ていた。
「ありがとう燕青」
「いい……よ……!!??」
 燕青は、驚き思わず、もっていた味噌汁のお椀を投げかけた。
「おっと!!」
「やっぱり変!?」
「変じゃねえーし!!!」
 お椀をちゃぶ台に置くと、燕青は、いう。
「珍しすぎて驚いただけ!! マジで!!」
「そう……」
「似合ってると思うぜ!! それに明るい色も似合うんだな!! 何時も落ち着いた色味が多いし!!」
「着物だかね」
 勇音は、座布団の上に座ると、燕青も座り、そして朝食を食べ始めた。
「勇音今日は、公共交通使う??」
「まぁ行くとなるとね。私免許ないし」
「ならバイクで行くのは、どうだ??」
 燕青は、普段こちらでは、バイクを使って遠出をしている。
 確かに興味は、あったがいいのだろうか。
 勇音は、しばらく悩むと言った。
「体くっつくの平気??」
「それ俺より女神である勇音が気にしないといけないと思うぞー」
「その……」
「俺は、問題ないぜ」
「なら……」
 好きな人がいたら浮気になるのではと勇音は、思い聞いてみたが、稀有だったらしい。
 勇音は、ご飯を食べながら、目を伏せた。
 彼の恋愛事情など勇音に関係ないのに、何故気になるのだろう。その真実に彼女は、気づいているがあえて無視をした。
「よし!! なら決定!!」
 朝食を終え、片付けをすませ、戸締まりをすると、早速向かうことにした。
 車庫に止めているバイクに荷物をつみ、燕青は、ヘルメットを勇音に渡した。
「お豆腐屋さんのじゃないのね……」
「流石にフルフェイスじゃないと死ぬからな。あとこれも!!」
 プロテクターも渡され、勇音は、身に付けた。
「すごく重装備……」
「死なないためだ。バイクつうのは、事故したら即死の確率が高いからな」
「確かに」
 燕青もヘルメットにプロテクターをつけると、バイクのエンジンをふかした。
「さて行くぞ!!」
 表にで、車庫のシャッターを下ろす。
 勇音は、燕青の真似をして後ろの席に乗る。
「しっかり掴まっとけよ。じゃないととぶからな」
「わかった」
 バイクが走り出し、初めての感覚に勇音は、目を煌めかせた。そして不思議とある感覚を思い出す。
 桜の季節に馬の後ろに乗り、駆けた事を。
 勇音は、目を伏せる。何故今思い出すのか。彼とこいつは、違うのにと思いながら。
「勇音どうした??」
「何もない」
 強く掴みすぎただろうか。勇音は、そう思いつつ短く答えた。 
 しばらく風を感じながら、走ると、植物園についた。
 ヘルメットとプロテクターを外すと、荷物を持ち、勇音と燕青は、中に。チケットを買い、いざ、中にはいると、そこには、緑豊かな広い世界が広がっていた。
「凄い人……」
「そりゃ連休中だからな」
「で何処から行く??」
「この時期ならあそこからだろ!!」
 燕青の後をついていくと多くの人が同じ場所に向かってると分かる。そしてやってきたのは、青い花の海だった。
「……なんだ花ね」
 しかし勇音の反応が薄すぎる。燕青は、唖然としていた。
「勇音これここ数年前から人気のネモフィラだぞ!!??」
「へぇー」
「もう少し反応ないのか!?」
「だって花じゃん」
「綺麗!! とか!! 青い空と合う!! とか!!」
 勇音は、空いていたベンチに座るという。
「全然」
 燕青は、肩をおとした。忘れていたこの神は、薬草にしか興味がないと。
「でも……この花が幸せを……与えてるってことは、わかる……」
 勇音は、立ち上がると、ネモフィラに触れた。するとネモフィラは、さらに美しく咲き誇った。
「勇音……」
「人の幸せをみたいから」
 ベンチに座り直すの勇音は、そういい笑った。幸せそうで楽しげな人達を見て。
 神とやはり人の感覚は、違う。勇音は、この光景がいいと思ったが、燕青として、ネモフィラをみて、喜ぶ彼女を見たかった。
「俺見てくるわ」
「分かった」
 燕青がスマホで写真を撮ったり、しているのを見て勇音は、切ない目をした。やはりどことなく似ている気がする彼に。
「……あの時も私が作物を力で実らせたら彼……燕青と同じかおをしていたな……」
 彼としては、里山の風景や桜を楽しんで欲しかったのだろう。しかし勇音には、その感覚が分からない。花は、確かに美しいが何時でも見れるだろうと思うからだ。
「勇音どうした??」
「何もない」
 戻ってきた燕青は、そんなことないだろうと思いながら、隣に座った。
「いやーでも凄いぜ。この規模でも綺麗なんだから、海辺ならもっと凄いだろうな」
「テレビでやってたところ??」
「そうそう」
 確かにそうかもしれない。
「気が向いたらまた連れていってよ」
「え??」
「私には、この花がいいか、分からない。でも楽しそうな人を見るのは、好きだから」
 燕青は、微笑む。
「気が向いたらな」
 勇音も微笑むと、立ち上がった。
「次いこう」
「早くね!?」
「そうでもないよ」
 勇音は、そういうと歩いていくので、燕青は、後を追うとやって来たのは、薔薇園だった。薔薇は、興味ないだろうと燕青は、思ったが、予想は、外れた。
「薔薇!!」
 勇音は、瞳を煌めかすと、薔薇を凄い見ていた。
「え!!??」
「やっぱり美容にも効くし、こんなに種類が!! 効能も種類によって違うのかな!!」
 とうとう落ちている花びらを集めようとするので勇音を燕青は、止めた。
「ここで薬剤集めるな!!」
「落ちてるならゴミになるし……いいかなって」
「よくねぇー!!!! 周りは、拾ってないだろ!!!」
 確かに皆薔薇を見ている。勇音は、肩を落とした。
「諦める……」
「そうしてくれ!!」
 よしやめたとホッとしたのもつかのま。次は、芍薬を見に行った結果。
「芍薬!!!」
「花びらを集めるな!! あと落ちてる葉を拾うなー!!!! 茎もだー!!!! 根も掘るなー!!!」
 勇音の珍行動により、美しい花を見る暇などない。
 勇音は、むくれるが、こちらとしては、花を見てくれと思う。
「こんなにいっぱい材料あるのに……」
「植物園のだからな!? これ!!」
「あの枯れてるのも駄目??」
「駄目!!」
 ここは、人のルールなど関係ないと言いたいが、さすがにそれはまずいと勇音は、思ったので我慢した。
「欲しい……」
「どんだけ薬草ラブ……」
「ネモフィラとやらよりいいと思う」
「あっちは、観光資源な!!??」
「これは、薬剤だから人の命が助かる!!」
 こりゃ話をしても平行線だ。
 燕青は、溜め息をつくと、いう。
「次行くか……」
「だね」
 次にやって来たのは、シャクナゲのエリアだった、綺麗たがシャクナゲも薬になる。
 勇音が反応するかと思ったが、彼女は、以外にも普通に花を見ていた。
「シャクナゲは、いいの??」
「別に。まぁ綺麗だし材料として在庫もあるし」
「在庫で反応してたのか……」
 すんなりとシャクナゲエリアを通りすぎ、池の近くにやって来た。
 大きな池には、睡蓮があり、鯉も泳いでいた。
「あの鯉とって食べれるかな……」
「無理無理」
「だよね」
 ベンチに座り、勇音と燕青は、そんか会話をした。
 爽やかな風を感じ、勇音は、あくびをした。
「疲れた??」
「たぶん」
「そっか」
 燕青は、持ってきていたドリンク剤を差し出す。
「飲むんだったら」
「ありがとう」
 受けとると勇音は、飲んだ。瓶を鞄にしまうと、勇音は、眠そうな顔をし、燕青の肩に頭をもたれかけさせた。
「勇音!?」
「少し寝るから……起こしてまた……」
 そのまま寝てしまい、燕青は、困った顔をした。
「肩こるぞこれ」
 起きないように膝の上に彼女の頭を移動させ持ってきていた上着をかけた。
「寝不足って顔に書いてたもんなぁ……朝から……」
 また薬草について調べていたのだろう。燕青は、青い空を見て微笑むと、視線を下げた。
「カップルイチャイチャしてるなぁ……」
 羨ましいというより鬱陶しいので他所でやって欲しい所だ。
「燕青殴る??」
「桜花殴らないくていい」
 出てきた桜花にそういうと、燕青は、寝ている勇音の頭を撫でた。
「言わないの??」
「言って惚れられる男なんてダサいだろ。俺は、今の俺で惚れさせたい」
 桜花は、意味ありげに微笑むと、言った。
「本当に物好きだねー」
「そりゃな」
 桜花は、そういうと姿を消した。神すらもそういうのだから自分は、相当な物好きだ。
 人に惚れればいいのに女神に惚れたのだから。しかもこの薬草にしか目のない女神に。
 しばらくカップル達を見てゲンナリしていると勇音が目を覚ました。
「……清??」
 一瞬彼にみえた。だが燕青だと分かり、勇音は、切ない顔をする。
「起きたか??」
「うん」
「なら少し早いが昼にするかー」
「えっ??」
 燕青は、勇音が体を起こすと、荷物から弁当を出した。
「作ったの??」
「せっかくだしな!!」
 差し出された弁当を受けてると勇音は、目を細めた。 
「ふふふ」
「どうした??」
「なにもない」
 そういえば彼も握り飯を差し出してきたような。勇音は、弁当箱をあけると、驚く。
「……何で」
「弁当といえばおにぎりだからな!! やっぱりでかすぎた??」
 勇音は、顔を伏せると言った。
「でかすぎ……でも……卵焼きと……ミートボール入ってるだけ進化は、してる……」
 燕青は、少し驚いたが、すぐに笑った。しかしその笑みは、何処か切ない。
「そりゃな」
 おにぎりをほうばる燕青をみながら、勇音は、箸を進めた。嫌でも思い出すこの味と、そして認めなければならない真実。
 しばらく黙って食べていたが、勇音は、口を開いた。
「他の相手でもいいのに……何故……??」
 燕青は、茶をのみいう。
「縁とは、魂が歩んできた時の流れの積み重ねだ。人でも凄いのに……そりゃ神と出会った縁なんてその数十倍だしな……」
「……それ認めたってことでいい??」
「はなから隠すつもりは、なかったぜ??」
「……」
「俺は、ずっと見てたからか。勇音を」
 真っ直ぐにいわれ、勇音の心に言葉が刺さる。
「本当に馬鹿」
「馬鹿でけっこう」
「神子までなって……」
「そりゃ時間問題解決の手段にな」
 勇音は、笑った。泣きながら。
「本当に馬鹿な人。死んで人として転生できたのになんで私なわけ……」
「惚れた弱みってやつ」
「しかも記憶もあるし前世の」
「術でみたからなそれは」
「本当に馬鹿」
 燕青は、優しく微笑むとある言葉を口にしようとしたが、その時塞がれた勇音に口を。
 突然の出来事に困惑していると、自分の唇から柔なか物が離れた。
「勇音……色々吹っ飛ばしすぎじゃね!?」
「うるさい……私は、色恋とか……分からないから……それにこっちたら千年以上待ってともいえるんだから……」
 後悔と悲しさのなかで。勇音は、続けた。
「とりあえず……離れないで……二度と……私を残して逝かないで……」
 これが今の自分が言える精一杯だ。勇音は、頬を染め言うと、燕青は、天を仰いだ。
「燕青??」
「普通そこは、男から告白じゃん……かっこ悪い……全部持っていかれた……」
「……私は、神です。だから関係ない。それに友美は、自分からでしょう??」
「……友美は、規格外だぞ。本当に光さんすげー」
「私を選ぶ貴方も凄いと思うけど??」
「女神だもんな……しかも高位の……」
「そう」
 勇音は、微笑む。
「一先ず弁当は、美味しかった」
「それは、よかったぜ」
「ねぇこれって逢い引きだよね??」
「まぁそうだな」
 勇音は、嬉しそうに笑うと言った。
「そっか!!」
 燕青は、目を細める。
「そうだ。さてあと半周頑張って回るぞー」
「薬草ないのに??」
「菖蒲ならあったような……」
「菖蒲か……抜けるかな……」
「抜くな!!」
 こりゃ残り半周も大変なことになりそうだ。この不安は、的中し、見事に薬草を見つけると勇音は、引っこ抜こうとするので燕青は、それを阻止し、なんとか残りを巡った。
「楽しかった!!」
「えっ!? あれで!?」
「なにそれ失礼な。あれでも楽しんでの!!」
 植物園の外に出た勇音と燕青は、そんな会話をしていた。
「さて帰るか……」
「燕青すっぽん仕入れに……」
「すっぽん!?」
「うん。バイクだと行きやすいと思って!!」
 燕青は、しゃあないと眉を下げいう。
「分かったぜ。つきあう」
「ありがとう!!」
 ヘルメットとプロテクターをつけ、荷物を積むと、バイクに乗り、走り出す。
 後ろで行きとは、違いリラックスしている勇音を感じ、燕青は、よかったとホッとしていた。
「とりあえず結果オーライか」
「なにが??」
「なにもない」
 彼女に知られては、いけない自分との勝負。燕青は、微笑むと、バイクを走らせた。背中から伝わる彼女の温もりを感じながら。

 

 
 

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