光明ノ神子

 ふと朝廷で話を聞いた噂。光は、話を耳にしたとき、あることを思い付いた。
 あせあせと走る幼い少女をみながら、声をかけた。
「友美」
 名を呼ばれた癖毛の少女は、不機嫌な顔を顔をし、止まった。
「なに?? 光」
 他の者からしたらこの光景は、顔を青ざめる者だろう。この国において、光は、なかなかいい家柄の出身だ。なのにこの少女は、普通に歳上というのもあるのに、ため口で話をするのだから。
「昼に時間をくれないか??」
「いいけど、終わったらね」
 友美は、そう言うと書簡を持ち走っていってしまった。
 この国で最年少の官吏として働いてる友美。
 彼女が合格したときは、皆が戦慄していた。齢わずか八歳で彼女は、実力で官吏になったのだから。
 はじめは、子供だからとなめられていたが、彼女の発言として陰謀にはめようとした奴らを、友美が見事に捕まえま結果彼女に関わるなと、官吏達の中で広がってしまった。しかしそれは、彼女を排除しようとしている者達だけの話だが。
「本当にすごいな……」
 自分が友美の年齢の頃には、まだ屋敷で遊んでいたのにと光は、思いながら、仕事に戻った。
 言ったからには、自分も時間を作らなければ。光は、筆を持つと仕事をはじめ、昼に時間を作ることができた。

 昼になり、何時もの場所で待っていると友美がやって来た。
「友美」
「光」
 ちょこちょこと友美は、光の所へやって来ると、光は、友美に膝ま付いた。
「今日もお疲れ様」
「光こそ!! それよりなに??」
「昼食べながら話す」
「分かった!!」
 近くにある東屋に二人は、来ると、光は、お重を広げた。
 友美は、嬉しそうにいただきますといい、ご飯をたべた。
「美味しい~」
「それは、よかった」
 しばらく、ご飯をたべた後、光は、話をした。
「桜を??」
「そう。次の休みに見に行かないか??」
 友美は、目を伏せると少し暗い顔になる。彼女が何時もこのような顔をするときは、理由がある。
 友美は、しばらく考えると言った。
「時間があったらね」
「分かった」
 光は、この時笑うことしか出来なかった。こんなに小さいのに何故彼女は、過酷な生活をしているのか。
 役目というのがあるからだらしいが。光からすれば、まったく知らないことだ。
 本来ならまだ親のもとで愛情いっぱいに育つ頃なのに。
 光は、目を伏せると悲しげに笑った。
「俺は、待ってるから」
 友美は、頷く。
「光じゃまた夕方」
「また」
 友美は、そういうと戻っていった。お重を片付け、光は、誰もいないことを確認すると名を呼ぶ。
「風」
 名を呼ばれた出てきた白銀の馬は、光をみて笑った。
「どうした??」
「まだ予定だが……次の休みに山に行きたいんだ。友美をつれ……その手を貸してくれるか??」
 風は、しばらく考えると頷く。
「いいだろ」
「ありがとう」
 風は、微笑むと姿を消した。友美と出会いぼんやりと見えていたものがはっきり見えるようになった。
 わかる。自分の中で固く閉められていたものが少しだけ緩んだのが。
 光は、俺にも力があれば。そう思い、悔しそうに拳を握ると、彼も仕事に戻った。

 約束の日、光は、屋敷で待っていると、魔方陣があらわれ、友美があらわれた。
「光おはよう!!」
「友美おはよう」
 光は、友美を抱き締める。無事でよかったと想いを込めて。
 友美は、少しくすぐったいのか恥ずかしそうな顔をしたが、すぐに彼に抱きついた。
「光ただいま!!」
「おかえり」
 光は、友美か、離れると、微笑む。
「ねぇ!! 行くの??」
「もちろん!! じゃ行くか??」
「うん!!」
 風が姿を見せ、友美は、驚いたが、すぐに光がお願いしたんだと分かった。
「光乗れるの??」
 光は、友美の発言に呆れた顔をする。
「乗れる……げんに何度か風に乗ってる……」
 風神が一般人を背に乗せるのは、珍しい。友美は、なにか言いたげに風を見たが、彼は、それを無視した。
「では、いくぞ」
「分かった」
 光は、荷物を積み、友美を乗せた後、風の背に乗った。
「私も乗れるのに!!」
「いいから。少しは、甘えなさい」
 友美は、しかたがないと頷くと、光は、風の腹を軽く蹴り、風は、走り出した。
 春の優しい風を感じながら、風は、凄い速さで街を抜けた。
 門を抜けると、街道に出た。
「確かにあの山だな……」
「光何かいる」
 友美の見ている方向に誰か立っていた。光は、この感覚は、人では、ないとはんだした。
「……友美行くなよ」
「でも……」
「あやかしだろあれ……」
 友美と出会って色々巻き込まれ、彼は、人、神、あやかしの気配の違いを把握できるようになっていた。
 風は、その者を見るが走り出す。
「風!?」
「友美いくぞ」
「うん」
 風が走り出すということは、ろくなことがないということだろう。しかしこの時風は、あえて走り出した。あの者には、悪いが。
 今この子は、年相応の子として過ごしている。貴重なその時間を潰したくないからだ。
 青年の顔をチラッと見ると風は、思う。こいつも自分のことに何時気付くのかと。
 ある水神は、既に気付いているが、あえて手を出さないと決断した。人として生きて欲しいと願って。しかし風は、違う。
 こいつの力は何時か友美のためにいる。ならば自分は、その時のためにこいつに手を貸す。いざってときは、自分の覡にしてもだ。
「風もうそろそろか??」
「だと思うぞ。光の地図によるとな」
 山道を駆け上がり、しばらくすると桃色の花びらが何処からか舞ってきた。
 風は、気配をたどり獣道を走る。光は、その間持ってきていた太刀で枝を切りながら、進んだ。
「ここか」
 そしてたどり着いたのは、大きな桜の巨木だった。
 光は、風から降りると、友美も降ろした。
「すごい!!」
「そうだな」
 駆け回る友美をみながら、光は、微笑むが、先程見かけた者を見つけ、冷や汗が。
「風あれ……」
「この木の関係者だったか」
 それは、非常にまずいのでは。光は、どうしたものかと考えるが、時既に遅し。友美が話しかけていた。
「友美……」
 日頃から神と過ごしている友美にとっては、普通の事だった。
 光は、慌てて友美のところにいくと天照も出てきていた。
「ここで遊んでもいいの??」
「もちろん。むしろ妾は、その方がよい」
「ありがとうございます!!」
 友美は、そういうと光のところへ。しかし天照は、なにか言いたげに彼女を見ていた。
「いいの?? あの子は……」
「神よ。妾の願いは、子供が楽しく遊ぶ姿を見たいというもの。それにそなたも望んでおらぬであろう?? それをさすことにより、あの娘は、人から駆け離れる……ほんに残酷な仕掛けじゃ」
 天照は、さっと顔を青ざめた。冷たい刃を心臓に突き付けられた感覚に寒気がする。
「それは……」
「しかしあの娘は、それを変える鍵を持っておる。さてどう転ぶのか」
 そんな話をするなか、光は、天照に気付くと、すこし怪訝そうに見ていた。
「光どうしたの??」
「なにもない」
 光にとって天照は、不審な点が多すぎる。娘と友美のことをいっているがそのわりに危ないことをさせているのも事実だ。
 なにより風の反応があまりよくないのもある。
「天照なにか話してるね」
「だな」
「あとあのお姉さん遊んでいいって!!」
「そうか」
 友美は、嬉しそうに言うと、光も微笑みそして早速遊ぶことにしたが。
「友美!!!」
「光こっちーー!!!」
 プカプカ浮かれては、なにも出来ない。鬼ごっこをし始めたがいいが、友美が宙に浮かぶので光は、捕まえれずにいた。
 肩で息をしながら、どうすべきかと考える。
「一か八かだ……」
 光は、そう呟くと友美の視界の届かないところへ。
 友美は、あれと光を探したとき、背後に気配を感じふりかえると光が降ってきた。
「光!?」
「捕まえた-!!!」
 友美を抱き締める形で、ようやく捕まえたと思ったとき、光は、ふと顔を青ざめる。
 助走をし、木表面を蹴る形で宙に舞ったのは、いい。だが考えたなかった。着地のことを。
「光!!??」
「うわぁー!!!」
 とりあえずとっさに友美を庇うようにし、光は、受け身をとるしかないと考えた。しかしどうすべきか悩んでいる間に目の前に地面が。 
 まずいと目をつぶったとき、何かに首根っこを掴まれた。
 地面に降り、目を開け、背後をみると、なんと迅雷が。
「迅雷……」
「本当に無茶するな光は」
 迅雷は、困ったように笑うとすりすりと光の頭をし、その場に座った。
「虎の脚力すごいな……」
「だろ??」
「迅雷ありがとう!!」
 友美は、ほっとした顔をすると光の膝の上に。
「ごめんなさい」
「いいよ」
「光次は、熊倒しにいこうー!!」
「襲ってくる熊がいた場合な!! なにもしてないのに倒しにいくのは、ダメだ!!」
「確かに」
 友美は、納得すると今度は、持ってきた毬を蹴り始めた。
「光いくよー!!」
「分かった」
 毬を使った遊びをし、そのあと友美は、また走り回る。光は、そのあとを追いかけながら、凄い楽しそうだなと彼女をみて笑ったが、視界に天照が見えると、冷たい視線になった。
「光のやつ気付いてるのか??」
「だろうな。天照のその上の企みにな」
 その様子を見ていた迅雷と風は、話をした。
「……俺たちも同罪だがな」
「……だが俺達は、かけてる。その一か八かに。今は、演じる他ない。天照に順々にしたがっているようにな」
 たぶんほとんどの神がそうしているはずだ。
 唯一死んだあの神を救えなおかつ思い責務をせよわされ、その生を役目のためだけに使うよう運命付けられた少女を救うために。
「まぁ鍵は、見つかった。あとは……」
「あの女傑がてをさしのべるかだ」
 迅雷は、目を伏せる。たぶん彼女は、手をかさないだろう。
「風。俺かお前が……」
「その手はずは、整っている。最終手段としてそれは、とっておく必要があるからな」
 どうやら風は、同じ考えのようで迅雷は、安心した。
 何故子供は、こんなに体力があるのか。光は、肩で息をしながら、友美をおっていた。
「俺も子供の頃は、こうだったのか……??」
 母に聞いても子供のわりに大人びていたというだけだろう。
「母さんにまた、聞いてみるか……」
 自分と同じく珍しい髪色を持つ母。この国で神事を司る部署の長として権力を持つ者。
 光は、走りながら考えていた。そもそもあの人が結婚したこと事態おかしいなと。父の事等放置し、とりあえず子だけもうけている母。 
 長男である自分は、家督を継がなくていいと幼い頃からいわれ、光は、覚えている。
「俺に定められた運命か……」
 母が友美を始めてみたとき驚いていた顔をしていた。そしてぽつりと呟いたのだ。
「光の運命が動き出した……」
と。
「どういうことなんだろう……」
 異能ない自分に何故か母は、異能の術を叩き込んだ。母いわく、使えなくても知ることで対応できることもあるとの事だった。
「光??」
 考え事をしていた光は、困惑している友美をみて、笑った。
「すこし考え事をしていた」
「ならお昼にする??」
「そうだな」
 太陽もてっぺんに登り、友美と光は、ござをひくと、そこに座り、お弁当をたべる。
 朝からおにぎりを作っていたら、屋敷にいる使用人に驚かれたが。
「美味しい!!」
「それは、よかった」
 弁当を食べたのち、友美は、満足したか昼寝を始めた。
 光は、そんな彼女の隣で龍笛を奏でる。琵琶と何故か龍笛を母に叩き込まれた。これもまたなにか意味があるのだろう。
「母さんは、この国一の術者だもんな……」
 なのにその一人息子は、無能ときた。一族の中でも光は、影で無能な息子と言われているのを知っている。
 だからこそ、官吏になり、母とは、違う形で力をつけることに彼は、した。
「光」
 名を呼ばれ、そちらをみると天照が。
「なんだ」
「友美と遊んでくれてありがとう」
「俺は、当たり前のことをしただけだ」
 光は、龍笛を片付けると、いう。
「それよりさっき何を話していた。あの女この木の精霊か??」
 天照は、驚いた顔をする。光は、無能だがそのかんは、並大抵の術者より強い。
 天照は、頷く。
「えぇ。この木寿命が近いみたい。だから友美に……」
 光は、なにかを感じそしていう。
「太陽神ならお前がやればいいだろ」
 たぶんこの男は、気付いている。なんとなく。しかし天照にも役目がある。
「それは……」
「それにこの木は、それをほっしてないぞ」
 光には、見えていた木の精霊の姿が。悲しげな女が。
「……そうね」
「なにが??」
 友美がおき、目を擦ると天照をみて笑う。天照は、切ない顔をすると微笑むだけだ姿を消した。
「天照??」
「何かあるんだろ」
 光は、微笑むと、友美も笑った。
 その後も友美と光は、ひとしきり遊ぶと夕暮れに屋敷に帰った。

 屋敷につき、慌ただしことに気付く光。友美は、寝てしまっていたので部屋に運んだあと彼は、屋敷の奥へと向かった。
 ある部屋に入るとやはりいた。母が。
「おかえりなさい母さん」
 女性は、微笑む。 
「ただいま光。今日も友美にふり回されてたのね」
「まぁ」
 何故母さんが今日は、帰ってきたのか意味があるはずだ。
「母さんもしかしてあの桜か??」
「そうよ。場所の特定ありがとう光。あれは、あのまま朽ちさすには、おしいもの」
「精霊が望んでなくても??」
「その精霊は、友美だから望まなかった。なら私ならどうかしら??」
 光は、ハッとした顔をした。もしかすると母と友美が何かしたのかもしれないと。
「まさか友美から打診が??」
「すこし前にね。私も天照のやり方は、気に入らないから、少しでも遅らせるために」
「母さん……」
 この国一番の術者にして、神事を司る部署の長。百合。
 本当にこの人は、と光は呆れていた。
「全て知ってるんだろ。母さんは」
「まぁそう怒らないの!!」
「はぁ……あと少しは、父さんの相手してやってくれ」
「それは、嫌」
「……またか」
 ますます何故自分が産まれたのか分からない。光は、そう思いながら、ため息をつくと、母は、笑った。
「時が来れば全て片付く。私は、その時まで友美を少しでも遅らせるために動く。光貴方もなすことをしなさい。知っているはずよ?? あなたが無能では、ないこと……そしてその力の意味を……」
 光は、目を伏せる。
「俺は、無能だ。げんに術は、使えないんだから。だが分かってる」
 光は、微笑むとあることをきいた。
「母さん俺が八歳の頃ってその……お転婆だったか??」
「八歳のわりに光は、おとなびていたわよ」
 光は、だよなと思いつついった。
「ありがとう」
「いえいえ」
 光は、部屋からでると空をみた。偽りの太陽。天照は、まさにそうなのだろう。
「母さんが警戒している以上俺もきおつけなければ」
 そういうと光は、部屋に戻り今度は、琵琶を奏でるのであった。己の中の封をされている物を見つめながら。
 
 
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