光明ノ神子
「ねぇ知ってる。この狐を誰に押し付けるかって」
幼い少年の前で自分よりも歳上の女子が笑顔でいった。
少年は、首を横に降ると、少女は、無邪気に笑う。子供とは、時に純粋で時に恐ろしい存在だ。
「君にだって!! お父さんとお母さん死んだからちょうどいいって!!」
少年は、この時心臓に刃を突きつけられたようにひやりと冷たいものに触れられそして、刺されたように痛かった。
「ぼくは……」
「よかったね!! これでみんな助かるって!!」
本当にそうだろうか。少年は、幼心でそう思いながら、思った。
絶対にそれは、違うとそして。
この一族は、狂っていると。
「あぁ……俺のもつ……業がまた引き寄せたのか……」
少年の中でもそんな男の声が響いた。
これがぼくの運命。贄にされ、そして死ぬ。もし違う運命があったら……
そんな願いを抱きながら、彼は、無理矢理なかに入れられた一族を困らせてきた狐を。どうすることも出来なく、代々体に封印してきた大妖怪を。
暦の上では、春と言うがまったく春の気配がしない二月。
友美は、寒さに身をちぢこませながら、歩いていた。
「寒い……」
帰ったら温かいものを飲むと決め、足早に歩いていると、ある気配を感じた。
分かりにくいが禍々しい気配。気配のする方にいくと、森のなかに入った。
「ここ……かくりよに通じてる……」
かくりおとは、あやかしたちの世界とも言われ、普通のものには、見えない世界だ。
友美は、さらに奥にはいると、人が倒れているのを見つけた。
学ラン姿の青年に友美は、驚く。
「ちょっと大丈夫!!」
声をかけ、友美は、青年のもとに駆け寄ると、青年は、苦しそうに声を出した。
「近寄るな!!」
友美は、真顔になると言った。
「よく言うね。そんな状態で」
友美は、青年が冷たい視線を向けてきていたが、気にせずに、近寄った。
青年のもとにたどり着くと、友美は、彼の背中を叩く。
声にもならぬ青年の悲鳴が聞こえたが、次の瞬間青年の顔色は、すこしよくなっていた。
「……お前は」
「ただの学生。とりあえずこのままだとあんた死ぬよ」
青年は、目を伏せたが、友美は、その中に秘められた想いに気づいた。
「……そうだな。もう時間がない」
「……そうね」
友美は、冷たくいい放つと、その場を離れた。
不思議は女に出会い青年は、悔しそうな顔をした。
生きれるものならまだ生きない。だが自分には、時間がない。中にあるあいつのお陰で。
「くっそ……」
帰ったところで罵られるだけだ。しかし帰らないわけには、いかない。
青年は、立ち上がると重い体を引きずり歩きだした。
「白野威」
森を後にし、友美は、影に話しかけた。
影から白銀の狼が姿を表すと、友美は、話しかける。
「……あいつ」
「間違いない」
「なら動いていいよね!!」
友美は、ニヤリと微笑むが白野威は、よく知っている。この笑みを浮かべるときの友美は、とんでもないことをすり前だと。
「知らないよ」
「大丈夫。この為にもう策は、こうじてるんだから!!」
最近そう言えば友美がこそこそ何かしていたが、まさかこのためだったとは。本当にいい目をもっている。白野威は、そう思いながら、言った。
「だからアリアに色々聞いてたのか」
「聞いてたと言うかアリアさんからの相談だったし」
友美は、色々思い出しながら言うと、携帯を取り出した。
「お願い!!」
電話の向こうで困惑している声が聞こえるが、ここで適任なのは、彼しかいない。
友美は、電話を切ると、歩きだした。家に帰るために。
騒動とは、突然起こるものだ。この日も青年は、学校から何とか居たくもない家に帰り着いた。
今日も面倒なことが始まると思い、趣ある門を潜り抜けたとき目の前に飛んだ。人が。
「まったくこんなに腐ってるとはな」
聞き慣れない声が屋敷のなか聞こえ、青年は、慌てて中に。すると客間には、怯えた家主とその娘そして、水色の羽織をはおった袴姿の青年が。顔は、フードでかくされ、ていたが、何処となく見覚えがあった。
「突然やってなんだ!!」
「それは、こちらの台詞だが?? 本来お前の娘が担う役を何故親類の子供に押し付けた。しかも幼子に」
フードの青年の声色は、怒りを含んでいた。
「……では、引き取らせてもらうからな」
フードの青年は、家主の耳元で冷たい声で呟いた。
「お前の娘には、同じ道を歩んでもらうからな」
家主と娘が怯えるなか、フードの青年は、振り返った。
「……お前がソーマ??」
青年こと、ソーマは、怪訝そうにフードの青年を見ながら、頷く。
「単刀直入にいう」
フードの青年は、ソーマに近寄ると言う。
「今からお前の身柄を預かる」
「……何故だ」
あやしがるのも無理は、ない。自分でも思うがとんでもない不審者だ。
フードの青年は、真剣な顔をし言う。
「ここでこいつらのために命を使い果たすか?? 生きれる道があったとしても」
ソーマは、アイスブルーの瞳を揺らすと、目を伏せる。そう、こいつらのためにこれ以上この命を使うか必要は、ない。
すでに十年以上こいつらのために命を削ってきた。最後くらいかけたい。生きれる道に。
ソーマは、家主達など無視して言った。
「好きにしろ。もう短い命だ」
青年は、困ったように笑うと言った。
「その言い方……」
「俺が生きたいと言うと思ったのか??」
「そう言ってくれるほうが嬉しかった」
ソーマと青年が話すなか、家主が突然声を上げた。
「ソーマ育ててやったのになんだその態度は!!」
「育ててやった。なんだそれ。それをいうなら、俺に化け物を押し付け、お前達は、俺で憂さ晴らしをし、甘い蜜を吸っていた。だろ」
「この化け物が!!」
家主がそう言ったとき、彼の頬に何かかすった。
頬から流れる血に驚く家主だが、彼の前には、フードの青年が立っていた。冷たい眼差しを向けながら。
「この家の血も引いてないやつに押し付けたお前がよく言うな。そんなにも憎かったか?? 母親と姉が」
青年は、そういうと、家主は、力なくその場に座り込んでしまった。
「荷物まとめて行くぞ」
ソーマは、家主家族を見ることなく、部屋にいき、少ない荷物を全てもつと、屋敷の外へ。
フードの青年は、ソーマを連れ、歩きだした。
「そう言えば名乗ってなかったな」
歩きながら、青年は、そういうと告げる。
「俺は、栗花落光だ」
「そうか」
「とりあえずこれから新しい家に向かう」
「わかった」
「学校も転校してもらうことになるが……」
「問題ない」
あまりにもあっさりしすぎてるソーマに光は、すこし困惑していた。
「未練とか……」
「あるわけないだろ。あんな狂ったやつなに」
「そうか」
「それに俺は、生きることを選んだ。いちいち気にしてられるか」
もしかするとそうなのかもしれない。光は、あることを重いながらも口にせず、ソーマを見て、微笑む。
「そうだな」
では、いこうと光は、また歩きだし、ソーマは、黙って着いていった。
自分の運命を変えるために。
寒猫神社は、光明ノ神子にって重要な場所と言える。そして他の神子達にとっても。
当代の長である仲村アリアは、大鳥居の前で待っていた。
「来たわね」
階段を登ってくる人影が見え、アリアは、待ってましたと声をかけた。
「光君!!」
名を呼ばれ、光は、アリアに頭を下げると、階段を登り、一番上にやってくると、後ろのソーマに目をやった。
「頼まれてた彼です」
「ありがとう」
頼まれていたとは、どう言うことだろうか。ソーマは、一先ずアリアが何か言うのを待つことにした。
「はじめまして。この神社の神主の仲村アリアよ」
「はじめまして。ソーマ·ネーヴェです……」
ぎこちない敬語にアリアは、にっこりし、光は、少し不安そうな顔に。
「アリアさん……しつけ大丈夫です??」
「問題ないわよ。むしろ男の子は、これくらいでいいの」
「そうなんですか」
光は、本当に大丈夫なのだろうかと思いながら、ソーマを見た。
どうやらこの神社にはいってからは、体調が安定しているらしい。
「……アリアさん分かってると思いますが」
「えぇ。この決断は娘のためでもある。だから必ず成功させるわ」
光にアリアは、そういいと微笑みかけ、そして言った。
「それに友美ちゃんがいるしね」
「確かに……友美ならどんな逆境でも覆します……」
このに居ない友美のことを思い出しながら、光は、言う。
「さてソーマこっちへ来て」
何気に呼び捨てなのが気になるが、ソーマは、まぁいいかと気にするのをやめた。
境内にある家に案内され、部屋を指定されたので、あとは、荷解きをするのみ。
ソーマは、頭を下げると荷解き始めた。
「……なんたなくあの雰囲気知ってる気がする……」
何故知っているのかまでは、分からない。だが懐かしい心地がした。
ソーマは、何故そう思ったのか考えながら、整理を始めた。
ここは、不思議な薬問屋。あやかしや人など様々な客を相手にしている。
勇音は、訪ねてきた友美と話をしていた。ある重要な事について。
「私の力が借りたいと??」
「そう!! 私でもいけそうだけど……力の均衡問題が……」
友美もつい最近大事件に巻き後れたばかりだ。
彼女の中には、本来の力とそして太陽と、先日放り込まれた黄泉の力がある。
黄泉の力により、太陽の力が穢れてしまったと友美は、いっているがそんなことは、なく、ただ力のバランスが取れなくなっているらしい。
「光明と黄泉は、真逆ですしね……」
「光と闇……」
「ここ最近は、暴走は、ないんですか??」
「うん。光が特訓に付き合ってくれてるし、白野威も色々教えてくれるから!!」
やはり幼い頃から神力を使ってるだけあるのか、友美は、術に関しては、天才肌のようだ。
普通では、こんな短期間でどうにかできるものでは、ない。
「今回の件……相殺の呪いが関わってるんでしょう??」
友美は、目を伏せると頷く。
「仲村の家に伝わる神代からの呪い……」
勇音も友美も残念ながら、この呪いについて詳しくは、知らない。
ただ先日アリアから急な呼び出しがあり、光を含め、寒猫神社で話をした。
「まさか……吹雪ノ覡が亡くなった……あの事件の裏でこんな事があったなんて……」
「勇音は、当時神子だったの??」
「いえ。私は、風の噂で話を聞いただけです」
その噂とは、北方の地において、神を守ろうとした人間が死に、その後不自然にあやかしが居なくなったと言う話だ。
「何かあるとは、思ってましたが、空間ノ巫女の仕業だったとは……」
勇音は、身震いすると話を続けた。
「数千年の悲願ですもんね」
「そう。始まりの二人が揃ったから今なら解ける……」
アリアは、何処か切なくそして悲しげに言った。
「この呪いを娘に引き継がせるわけには、いかない。この機会を逃せないわ。だからお願い力を貸して」
「これも縁ですよね……」
「まぁ始まりの人が終わりの人としてまた生まれてくるんだからね」
友美は、意味ありげに言うと、続けた。
「あの呪いは、神の呪いと言うより、ある神の払うべき代償が呪いとなったもの。空間ノ巫女があんなことをしなければ別の形ですでに対価は、払われてたのに」
「……そうですね」
勇音は、切なく微笑み言うと、立ち上がる。
人とは、神よりも愚かだ。しかし神もまた似たようなものだと勇音は、思っている。
「友美向かうんですよね」
「今から行くの!?」
友美は、驚くが、勇音は、真剣な顔をし言う。
「私のこの不安がきうならいいのですが」
「といいますと??」
「私達が思っているよりも相殺の呪いは、待ってくれないと思います」
友美は、その時はっとした顔をし、きもがひえた。
「光が!!」
「光さんは、大丈夫です。ですが……寒猫神社の地下に何かあれば大変なことになる。あそこを開けるには、まだ早いですから」
友美も頷くと、急いで勇音と薬問屋をでた。
「白野威お願い!!」
友美は、白野威の背に乗ると、勇音に手をさしだした。
「えっ!!?? 私が天照様の背中っておそれ多いです!!」
「いいから乗りな!!」
白野威にきつめに言われ、勇音は、遠慮がちに背中になると、白野威は、空へ飛んだ。
「勇音でも……神子の数足りる??」
友美は、不安そうに聞くと、勇音は、言った。
「力の保有量は、多いメンバーですから大丈夫」
初代光明ノ巫女が残した遺産。それが寒猫神社の地下にある。
それも自分がなせなかったことを後世に託すためのものとして。
寒猫神社の上空に着いたとき、勇音は、見える光景にショックを受けていた。
「勇音??」
「開きかけてる……友美私は、扉に行きます!! 友美は、あの青年のところに!!」
白野威が地面に降り立つと、勇音は、何処かに走り去った。
友美も家のなかに入りと、中から凄い禍々しい気配が。
「光くん私の結界は……」
「分かってます。後は、俺が代わりますから、絶対にユニを近寄らせないで!!」
友美は、なかに慌ててはいると、ある部屋で苦しそうに唸るソーマとそんな彼を結界でおさえる光、その光景を疲労感をまといながら見ていたアリアがいた。
「友美ちゃん!!」
「アリアさん後は、私がします。扉のほうお願いしてもいいですか??」
アリアの顔色が緊迫としたものに変わる。
「扉になにが……」
「どうやら、開きかけてます。ソーマの魂とこの狐の気配に同調して!! 今、霞ノ神子が扉をおさえていますから、鍵を!!」
「わかったわ」
最終の鍵は、仲村の血が必要になる。
アリアが急いで扉へ向かうなか、友美は、懐なら札を取り出し、おもいっきり、ソーマの背中にそれを叩き込んだ。
「せい!!!!」
光は、その光景を唖然とし、見ることしか出来なかった。
「友美一応こいつ余命わずか!!!」
「そんなこと知らないもん!! とりあえず光明ノ神子特製のお札貼った!!」
札は、まばゆく光るとソーマは、落ち着きを取り戻し、そのままねてしまった。
「……凄い」
「どうだ!!」
友美が胸を張るなか、白野威は、どう突っ込むべきかと考えていた。
「おふくろが気に入って連れ去る理由も分かるような……」
「勢いだけは、凄いからな……」
「なにその言い方は!! 私は、力も凄いよ!?」
「知ってる」
白野威と光は、口を揃え言うと、一先ず部屋を離れた。
「友美もしかすると、ソーマに術を仕込む時間もないと思う」
光も勇音と同じことを言うので、友美は、目を伏せた。
「この件に関して乗り気じゃない彼をやる気にさすしかないか……」
友美が言う彼とは、冬を司る神の事だ。彼は、自分が関わればソーマが人として生きれなくなるといい関わらないと公言していた。
「あいつの中の眠っている力が目覚めれば……」
しかしそれが出来るのは、冬の神だけかもしれない。
「……俺の時のように出ざるえない状態を作るか??」
光の発言に友美は、顔を青ざめた。
「あれは、光と水郷だから出来たことで……」
「だが、やる価値は、ある。少なくともソーマは、生きることを諦めてない」
水郷が呆れた顔をし、光を見ていたが、光は、笑っていた。
「一先ず俺達は、これからユニ殿への説明だな」
「まぁそうなるかな……」
ユニなら全て知ってそうな気がするが。でなければすでに帰ってきているはず。なのにユニが帰ってきていないのは、タイミングをはかっているのだろう。
「でもユニは、先読みの力を持ってるから……説明は、なくていいとおもう。」
それに先程から気配がつかめない神がいる。
友美は、ニヤリと笑うと言った。
「さすがユニ。……氷雪に会いに行ってると思う」
光は、驚くと言った。
「ユニ殿が!?」
「そう。ユニは、アリアさん以上の予知の感知力を持つからたぶん全てを知った上で、私達の邪魔にならないように動いてるはず。それにユニ自身が相殺の呪いを解きたがっていた」
数ヵ月前ユニは、ポツリと呟いていた。
「ようやく私の犯した原罪に向き合えます。彼を救うことが出来る」
たぶんその彼は、ソーマの事だろう。友美は、その時力を貸すと言ったら、ユニは、安心したように笑っていた。
「とりあえずお腹空いたー!!!! 戦の前の腹ごしらえ!!」
光は、友美の発言におもわず笑った。
「友美は、のんきだな」
「これくらいじゃないとね??」
黄泉で学んだこと。それは、焦って理性を失うほうが得策では、ないということ。
「そうだな」
「イザナミのお陰で、改めておもい知ったわ」
友美と光がのんきにはなすなか、勇音は、恐ろしいものを目にしていた。
地下の扉の前に着き、勇音は、力で開きかけた扉を押し返していた。
その隙間から見える禍々しい気配と後悔そして懺悔、憎しみの意志。
瑠花がこれを封じ込めたとき、どのように感じていたのか。
「……ここから離れたい」
それほどにまで恐ろしい人の負の感情。勇音は、丁寧に術式を織り込み、確実に閉めていく。そして最後に見たのは、恐ろしい深紅に光った目と隙間から出た手であった。
「アァァ……帰ッテキタ……」
そんな冷たい声が最後に聞こえたとき、アリアがやって来た。
「勇音ちゃんありがとう!!」
「はやく」
アリアは、鍵を取り出すも、カチッと音を立て、扉は、閉めた。
ホッとしたのもつかの間、ドサッと音が聞こえ、アリアは、ふりかえると勇音が倒れていた。
「勇音ちゃん!!!」
意識のない勇音を抱えると、アリアは、扉を見た。
「……神にとってやっぱりこれは……穢れともいえるのね……」
アリアは、切なく呟くと、その場を後にした。
「ユニが生まれた日に見たことが現実になってきてる……」
あの時見たのは、燃える神社と苦しむ娘の声。
アリアは、それをどうにか回避しなくてはと、ずっと動いてきた。
呪いにより夫が死んだその日も。
「……ソーマも見つかった。なにより、神子が出現した……大丈夫変わってきてるわ……」
後は、あと二柱が動くかだけだ。
「ユニ……頑張って……」
アリアは、黄昏の空を見ながら、そう呟くと歩きだした。娘の事を想いながら。
幼い少年の前で自分よりも歳上の女子が笑顔でいった。
少年は、首を横に降ると、少女は、無邪気に笑う。子供とは、時に純粋で時に恐ろしい存在だ。
「君にだって!! お父さんとお母さん死んだからちょうどいいって!!」
少年は、この時心臓に刃を突きつけられたようにひやりと冷たいものに触れられそして、刺されたように痛かった。
「ぼくは……」
「よかったね!! これでみんな助かるって!!」
本当にそうだろうか。少年は、幼心でそう思いながら、思った。
絶対にそれは、違うとそして。
この一族は、狂っていると。
「あぁ……俺のもつ……業がまた引き寄せたのか……」
少年の中でもそんな男の声が響いた。
これがぼくの運命。贄にされ、そして死ぬ。もし違う運命があったら……
そんな願いを抱きながら、彼は、無理矢理なかに入れられた一族を困らせてきた狐を。どうすることも出来なく、代々体に封印してきた大妖怪を。
暦の上では、春と言うがまったく春の気配がしない二月。
友美は、寒さに身をちぢこませながら、歩いていた。
「寒い……」
帰ったら温かいものを飲むと決め、足早に歩いていると、ある気配を感じた。
分かりにくいが禍々しい気配。気配のする方にいくと、森のなかに入った。
「ここ……かくりよに通じてる……」
かくりおとは、あやかしたちの世界とも言われ、普通のものには、見えない世界だ。
友美は、さらに奥にはいると、人が倒れているのを見つけた。
学ラン姿の青年に友美は、驚く。
「ちょっと大丈夫!!」
声をかけ、友美は、青年のもとに駆け寄ると、青年は、苦しそうに声を出した。
「近寄るな!!」
友美は、真顔になると言った。
「よく言うね。そんな状態で」
友美は、青年が冷たい視線を向けてきていたが、気にせずに、近寄った。
青年のもとにたどり着くと、友美は、彼の背中を叩く。
声にもならぬ青年の悲鳴が聞こえたが、次の瞬間青年の顔色は、すこしよくなっていた。
「……お前は」
「ただの学生。とりあえずこのままだとあんた死ぬよ」
青年は、目を伏せたが、友美は、その中に秘められた想いに気づいた。
「……そうだな。もう時間がない」
「……そうね」
友美は、冷たくいい放つと、その場を離れた。
不思議は女に出会い青年は、悔しそうな顔をした。
生きれるものならまだ生きない。だが自分には、時間がない。中にあるあいつのお陰で。
「くっそ……」
帰ったところで罵られるだけだ。しかし帰らないわけには、いかない。
青年は、立ち上がると重い体を引きずり歩きだした。
「白野威」
森を後にし、友美は、影に話しかけた。
影から白銀の狼が姿を表すと、友美は、話しかける。
「……あいつ」
「間違いない」
「なら動いていいよね!!」
友美は、ニヤリと微笑むが白野威は、よく知っている。この笑みを浮かべるときの友美は、とんでもないことをすり前だと。
「知らないよ」
「大丈夫。この為にもう策は、こうじてるんだから!!」
最近そう言えば友美がこそこそ何かしていたが、まさかこのためだったとは。本当にいい目をもっている。白野威は、そう思いながら、言った。
「だからアリアに色々聞いてたのか」
「聞いてたと言うかアリアさんからの相談だったし」
友美は、色々思い出しながら言うと、携帯を取り出した。
「お願い!!」
電話の向こうで困惑している声が聞こえるが、ここで適任なのは、彼しかいない。
友美は、電話を切ると、歩きだした。家に帰るために。
騒動とは、突然起こるものだ。この日も青年は、学校から何とか居たくもない家に帰り着いた。
今日も面倒なことが始まると思い、趣ある門を潜り抜けたとき目の前に飛んだ。人が。
「まったくこんなに腐ってるとはな」
聞き慣れない声が屋敷のなか聞こえ、青年は、慌てて中に。すると客間には、怯えた家主とその娘そして、水色の羽織をはおった袴姿の青年が。顔は、フードでかくされ、ていたが、何処となく見覚えがあった。
「突然やってなんだ!!」
「それは、こちらの台詞だが?? 本来お前の娘が担う役を何故親類の子供に押し付けた。しかも幼子に」
フードの青年の声色は、怒りを含んでいた。
「……では、引き取らせてもらうからな」
フードの青年は、家主の耳元で冷たい声で呟いた。
「お前の娘には、同じ道を歩んでもらうからな」
家主と娘が怯えるなか、フードの青年は、振り返った。
「……お前がソーマ??」
青年こと、ソーマは、怪訝そうにフードの青年を見ながら、頷く。
「単刀直入にいう」
フードの青年は、ソーマに近寄ると言う。
「今からお前の身柄を預かる」
「……何故だ」
あやしがるのも無理は、ない。自分でも思うがとんでもない不審者だ。
フードの青年は、真剣な顔をし言う。
「ここでこいつらのために命を使い果たすか?? 生きれる道があったとしても」
ソーマは、アイスブルーの瞳を揺らすと、目を伏せる。そう、こいつらのためにこれ以上この命を使うか必要は、ない。
すでに十年以上こいつらのために命を削ってきた。最後くらいかけたい。生きれる道に。
ソーマは、家主達など無視して言った。
「好きにしろ。もう短い命だ」
青年は、困ったように笑うと言った。
「その言い方……」
「俺が生きたいと言うと思ったのか??」
「そう言ってくれるほうが嬉しかった」
ソーマと青年が話すなか、家主が突然声を上げた。
「ソーマ育ててやったのになんだその態度は!!」
「育ててやった。なんだそれ。それをいうなら、俺に化け物を押し付け、お前達は、俺で憂さ晴らしをし、甘い蜜を吸っていた。だろ」
「この化け物が!!」
家主がそう言ったとき、彼の頬に何かかすった。
頬から流れる血に驚く家主だが、彼の前には、フードの青年が立っていた。冷たい眼差しを向けながら。
「この家の血も引いてないやつに押し付けたお前がよく言うな。そんなにも憎かったか?? 母親と姉が」
青年は、そういうと、家主は、力なくその場に座り込んでしまった。
「荷物まとめて行くぞ」
ソーマは、家主家族を見ることなく、部屋にいき、少ない荷物を全てもつと、屋敷の外へ。
フードの青年は、ソーマを連れ、歩きだした。
「そう言えば名乗ってなかったな」
歩きながら、青年は、そういうと告げる。
「俺は、栗花落光だ」
「そうか」
「とりあえずこれから新しい家に向かう」
「わかった」
「学校も転校してもらうことになるが……」
「問題ない」
あまりにもあっさりしすぎてるソーマに光は、すこし困惑していた。
「未練とか……」
「あるわけないだろ。あんな狂ったやつなに」
「そうか」
「それに俺は、生きることを選んだ。いちいち気にしてられるか」
もしかするとそうなのかもしれない。光は、あることを重いながらも口にせず、ソーマを見て、微笑む。
「そうだな」
では、いこうと光は、また歩きだし、ソーマは、黙って着いていった。
自分の運命を変えるために。
寒猫神社は、光明ノ神子にって重要な場所と言える。そして他の神子達にとっても。
当代の長である仲村アリアは、大鳥居の前で待っていた。
「来たわね」
階段を登ってくる人影が見え、アリアは、待ってましたと声をかけた。
「光君!!」
名を呼ばれ、光は、アリアに頭を下げると、階段を登り、一番上にやってくると、後ろのソーマに目をやった。
「頼まれてた彼です」
「ありがとう」
頼まれていたとは、どう言うことだろうか。ソーマは、一先ずアリアが何か言うのを待つことにした。
「はじめまして。この神社の神主の仲村アリアよ」
「はじめまして。ソーマ·ネーヴェです……」
ぎこちない敬語にアリアは、にっこりし、光は、少し不安そうな顔に。
「アリアさん……しつけ大丈夫です??」
「問題ないわよ。むしろ男の子は、これくらいでいいの」
「そうなんですか」
光は、本当に大丈夫なのだろうかと思いながら、ソーマを見た。
どうやらこの神社にはいってからは、体調が安定しているらしい。
「……アリアさん分かってると思いますが」
「えぇ。この決断は娘のためでもある。だから必ず成功させるわ」
光にアリアは、そういいと微笑みかけ、そして言った。
「それに友美ちゃんがいるしね」
「確かに……友美ならどんな逆境でも覆します……」
このに居ない友美のことを思い出しながら、光は、言う。
「さてソーマこっちへ来て」
何気に呼び捨てなのが気になるが、ソーマは、まぁいいかと気にするのをやめた。
境内にある家に案内され、部屋を指定されたので、あとは、荷解きをするのみ。
ソーマは、頭を下げると荷解き始めた。
「……なんたなくあの雰囲気知ってる気がする……」
何故知っているのかまでは、分からない。だが懐かしい心地がした。
ソーマは、何故そう思ったのか考えながら、整理を始めた。
ここは、不思議な薬問屋。あやかしや人など様々な客を相手にしている。
勇音は、訪ねてきた友美と話をしていた。ある重要な事について。
「私の力が借りたいと??」
「そう!! 私でもいけそうだけど……力の均衡問題が……」
友美もつい最近大事件に巻き後れたばかりだ。
彼女の中には、本来の力とそして太陽と、先日放り込まれた黄泉の力がある。
黄泉の力により、太陽の力が穢れてしまったと友美は、いっているがそんなことは、なく、ただ力のバランスが取れなくなっているらしい。
「光明と黄泉は、真逆ですしね……」
「光と闇……」
「ここ最近は、暴走は、ないんですか??」
「うん。光が特訓に付き合ってくれてるし、白野威も色々教えてくれるから!!」
やはり幼い頃から神力を使ってるだけあるのか、友美は、術に関しては、天才肌のようだ。
普通では、こんな短期間でどうにかできるものでは、ない。
「今回の件……相殺の呪いが関わってるんでしょう??」
友美は、目を伏せると頷く。
「仲村の家に伝わる神代からの呪い……」
勇音も友美も残念ながら、この呪いについて詳しくは、知らない。
ただ先日アリアから急な呼び出しがあり、光を含め、寒猫神社で話をした。
「まさか……吹雪ノ覡が亡くなった……あの事件の裏でこんな事があったなんて……」
「勇音は、当時神子だったの??」
「いえ。私は、風の噂で話を聞いただけです」
その噂とは、北方の地において、神を守ろうとした人間が死に、その後不自然にあやかしが居なくなったと言う話だ。
「何かあるとは、思ってましたが、空間ノ巫女の仕業だったとは……」
勇音は、身震いすると話を続けた。
「数千年の悲願ですもんね」
「そう。始まりの二人が揃ったから今なら解ける……」
アリアは、何処か切なくそして悲しげに言った。
「この呪いを娘に引き継がせるわけには、いかない。この機会を逃せないわ。だからお願い力を貸して」
「これも縁ですよね……」
「まぁ始まりの人が終わりの人としてまた生まれてくるんだからね」
友美は、意味ありげに言うと、続けた。
「あの呪いは、神の呪いと言うより、ある神の払うべき代償が呪いとなったもの。空間ノ巫女があんなことをしなければ別の形ですでに対価は、払われてたのに」
「……そうですね」
勇音は、切なく微笑み言うと、立ち上がる。
人とは、神よりも愚かだ。しかし神もまた似たようなものだと勇音は、思っている。
「友美向かうんですよね」
「今から行くの!?」
友美は、驚くが、勇音は、真剣な顔をし言う。
「私のこの不安がきうならいいのですが」
「といいますと??」
「私達が思っているよりも相殺の呪いは、待ってくれないと思います」
友美は、その時はっとした顔をし、きもがひえた。
「光が!!」
「光さんは、大丈夫です。ですが……寒猫神社の地下に何かあれば大変なことになる。あそこを開けるには、まだ早いですから」
友美も頷くと、急いで勇音と薬問屋をでた。
「白野威お願い!!」
友美は、白野威の背に乗ると、勇音に手をさしだした。
「えっ!!?? 私が天照様の背中っておそれ多いです!!」
「いいから乗りな!!」
白野威にきつめに言われ、勇音は、遠慮がちに背中になると、白野威は、空へ飛んだ。
「勇音でも……神子の数足りる??」
友美は、不安そうに聞くと、勇音は、言った。
「力の保有量は、多いメンバーですから大丈夫」
初代光明ノ巫女が残した遺産。それが寒猫神社の地下にある。
それも自分がなせなかったことを後世に託すためのものとして。
寒猫神社の上空に着いたとき、勇音は、見える光景にショックを受けていた。
「勇音??」
「開きかけてる……友美私は、扉に行きます!! 友美は、あの青年のところに!!」
白野威が地面に降り立つと、勇音は、何処かに走り去った。
友美も家のなかに入りと、中から凄い禍々しい気配が。
「光くん私の結界は……」
「分かってます。後は、俺が代わりますから、絶対にユニを近寄らせないで!!」
友美は、なかに慌ててはいると、ある部屋で苦しそうに唸るソーマとそんな彼を結界でおさえる光、その光景を疲労感をまといながら見ていたアリアがいた。
「友美ちゃん!!」
「アリアさん後は、私がします。扉のほうお願いしてもいいですか??」
アリアの顔色が緊迫としたものに変わる。
「扉になにが……」
「どうやら、開きかけてます。ソーマの魂とこの狐の気配に同調して!! 今、霞ノ神子が扉をおさえていますから、鍵を!!」
「わかったわ」
最終の鍵は、仲村の血が必要になる。
アリアが急いで扉へ向かうなか、友美は、懐なら札を取り出し、おもいっきり、ソーマの背中にそれを叩き込んだ。
「せい!!!!」
光は、その光景を唖然とし、見ることしか出来なかった。
「友美一応こいつ余命わずか!!!」
「そんなこと知らないもん!! とりあえず光明ノ神子特製のお札貼った!!」
札は、まばゆく光るとソーマは、落ち着きを取り戻し、そのままねてしまった。
「……凄い」
「どうだ!!」
友美が胸を張るなか、白野威は、どう突っ込むべきかと考えていた。
「おふくろが気に入って連れ去る理由も分かるような……」
「勢いだけは、凄いからな……」
「なにその言い方は!! 私は、力も凄いよ!?」
「知ってる」
白野威と光は、口を揃え言うと、一先ず部屋を離れた。
「友美もしかすると、ソーマに術を仕込む時間もないと思う」
光も勇音と同じことを言うので、友美は、目を伏せた。
「この件に関して乗り気じゃない彼をやる気にさすしかないか……」
友美が言う彼とは、冬を司る神の事だ。彼は、自分が関わればソーマが人として生きれなくなるといい関わらないと公言していた。
「あいつの中の眠っている力が目覚めれば……」
しかしそれが出来るのは、冬の神だけかもしれない。
「……俺の時のように出ざるえない状態を作るか??」
光の発言に友美は、顔を青ざめた。
「あれは、光と水郷だから出来たことで……」
「だが、やる価値は、ある。少なくともソーマは、生きることを諦めてない」
水郷が呆れた顔をし、光を見ていたが、光は、笑っていた。
「一先ず俺達は、これからユニ殿への説明だな」
「まぁそうなるかな……」
ユニなら全て知ってそうな気がするが。でなければすでに帰ってきているはず。なのにユニが帰ってきていないのは、タイミングをはかっているのだろう。
「でもユニは、先読みの力を持ってるから……説明は、なくていいとおもう。」
それに先程から気配がつかめない神がいる。
友美は、ニヤリと笑うと言った。
「さすがユニ。……氷雪に会いに行ってると思う」
光は、驚くと言った。
「ユニ殿が!?」
「そう。ユニは、アリアさん以上の予知の感知力を持つからたぶん全てを知った上で、私達の邪魔にならないように動いてるはず。それにユニ自身が相殺の呪いを解きたがっていた」
数ヵ月前ユニは、ポツリと呟いていた。
「ようやく私の犯した原罪に向き合えます。彼を救うことが出来る」
たぶんその彼は、ソーマの事だろう。友美は、その時力を貸すと言ったら、ユニは、安心したように笑っていた。
「とりあえずお腹空いたー!!!! 戦の前の腹ごしらえ!!」
光は、友美の発言におもわず笑った。
「友美は、のんきだな」
「これくらいじゃないとね??」
黄泉で学んだこと。それは、焦って理性を失うほうが得策では、ないということ。
「そうだな」
「イザナミのお陰で、改めておもい知ったわ」
友美と光がのんきにはなすなか、勇音は、恐ろしいものを目にしていた。
地下の扉の前に着き、勇音は、力で開きかけた扉を押し返していた。
その隙間から見える禍々しい気配と後悔そして懺悔、憎しみの意志。
瑠花がこれを封じ込めたとき、どのように感じていたのか。
「……ここから離れたい」
それほどにまで恐ろしい人の負の感情。勇音は、丁寧に術式を織り込み、確実に閉めていく。そして最後に見たのは、恐ろしい深紅に光った目と隙間から出た手であった。
「アァァ……帰ッテキタ……」
そんな冷たい声が最後に聞こえたとき、アリアがやって来た。
「勇音ちゃんありがとう!!」
「はやく」
アリアは、鍵を取り出すも、カチッと音を立て、扉は、閉めた。
ホッとしたのもつかの間、ドサッと音が聞こえ、アリアは、ふりかえると勇音が倒れていた。
「勇音ちゃん!!!」
意識のない勇音を抱えると、アリアは、扉を見た。
「……神にとってやっぱりこれは……穢れともいえるのね……」
アリアは、切なく呟くと、その場を後にした。
「ユニが生まれた日に見たことが現実になってきてる……」
あの時見たのは、燃える神社と苦しむ娘の声。
アリアは、それをどうにか回避しなくてはと、ずっと動いてきた。
呪いにより夫が死んだその日も。
「……ソーマも見つかった。なにより、神子が出現した……大丈夫変わってきてるわ……」
後は、あと二柱が動くかだけだ。
「ユニ……頑張って……」
アリアは、黄昏の空を見ながら、そう呟くと歩きだした。娘の事を想いながら。