光明ノ神子

 ミモザの花が咲く頃、白野威は、珍しく寒猫神社の牛小屋にやって来ていた。
 白銀の狼があらわれ、白銀の牛は、呑気に、牧草を食べるのをやめた。
「氷雪が牧草!?」
「チモシーをたべることもある。それより白野威様自ら来るとは、どうした」
 氷雪は、牛の姿から、人の姿なると白野威を見下ろした。
「なんで本来の姿に」
「こっちの方がいいと思ってな」
 白野威もしかたがないと本来の姿に戻ると、いった。
「ちょっとした調査さ」
「調査??」
 このずぼら太陽神がなにをやる気になったのか。氷雪は、怪しげに見ていると、白野威は、氷雪にタブレットを見せた。
「神と神子の関係について」
「そう!! つうことで、先ずは、氷雪からインタビューってわけ」
 氷雪は、呆れた顔をすると桑を持った。
「付き合ってられん」
「なんでさ!!」
「ずぼらな天照様がやる気になってる時点でろくなことないからな」
「酷いな!? なら友美からのお願いって事なら引き受けてくれる??」
 氷雪は、怪訝そうに白野威を見るなか、友美に連絡を取り、確認をした。
「……分かった」
 友美から来た連絡は、ちょっと知りたくて、白野威にたのんだと連絡が来た。
 友美が関わってるのならしかたがない。
「なら用事をしている間ならはなしてやる」
「ありがとう!! 氷雪!!」
 白野威は、嬉しそうに跳ねていたが、氷雪は、そんな白野威を無視して、歩きだした。
「待って!!」
 白野威は、慌てて氷雪のあとを追うと、やって来たのは、竹藪だった。
「ならさっそく」
 割れ目を探し、地面を見ている氷雪に白野威は、話しかけた。
「ソーマの認めてるところある??」 
 竹の子を掘りながら、氷雪は、目を伏せいった。
「馬鹿なところだな」
「馬鹿なところ??」
 竹の子をほり、籠に入れると氷雪は、長いみつあみを、風に揺らしながら、言う。
「気まぐれて、拾われた神を命をていして守るか普通」
 白野威は、目を見開くと、あることを思い出していた。
 前世でソーマは、蝦夷地で氷雪に拾われた。人身供物にされた所を。
 彼にとって氷雪は、育ての親であり、大切な存在だった。自分の命よりも。
「あやかしに肉体をくいつくされ、なおかつ人身供物にされた因縁をもって死んだから??」
 氷雪は、切ない顔をし頷く。
「あぁ。あの時死んでいなければ、あいつは、幸せだっただろう。そして相殺の呪いも生まれなかった」
「……あれは、たしか初代空間ノ巫女が要因の一つだったけ……」
「あぁ。神産巣日神が人として産まれたのが初代空間ノ巫女。無理に転生をした結果の代償もあったが、相殺の呪いとしてそれがけんげんしたのは、初代空間ノ巫女が原因だ」
 瑠花がけじめをつめたが、その後瑠花の対処では、なまぬるいと、彼女は、生まれたたての我が子を残し、三日三晩ソーマを喰らったあやかし達を殲滅した。
 それが原因で彼女は、生きて、修羅に落ちたといわれている。
「だが……神産巣日神が他の二柱に比べて人間臭いっていうのもあったんだろうなぁ……」
「冷酷に見えて、冷酷になりきれないからな。あの方は……」
 氷雪と白野威は、瑜瓊の顔を思い出していた。
 造化三神の中でも一番神らしく振る舞いながらも、少し人間臭い神。
「一番怒らしたら怖いのは、煌様だろうねぇー」
「あの方は、天之御中主神命だからな」
「そうそう」
 白野威は、楽しげに笑うが、次の瞬間真面目な顔になる。
「でもその馬鹿なところが地獄の始まりとも言えるのに、氷雪は、認めてるところなんだろ??」
「……馬鹿と分かっているからこそ、そこからあいつは、成長している。そこも含めてだ」
「なるほどね」
「あいつは、俺が当世で取引を持ちかけたとき、きっちりと考えてから答えを出していた。それだけでも成長といえる」
 氷雪は、優しい声色で言う。
「息子の成長が嬉しいわけねぇー」
 氷雪驚いた顔をしていたが、確かにあの時の自分は、まさに息子の成長をみて喜んでいたのかと数年達ようやく答えが出た。
「そうだな」
 氷雪の柔らかな笑みに白野威は、目を伏せた。
 ソーマと氷雪の関係は、親友のような気もしていたが、もしかすると、中のいい息子と父親といった方が近いのかもしれない。
「お父さんね」
「……五月蝿い」
 氷雪は、竹の子をほり終えるとまた歩きだす。
「これでしまいだ」
「えっ!!??」
 白野威は、すたすた歩いていってしまった氷雪を見送ると呟いた。
「本当にツンデレ」
 本当は、もっとソーマについて話したかったはずなのに。
 白野威は、木陰のほうを見ると言う。
「ソーマ話し聞いててどうだった??」
 木陰からソーマは、姿を見せると言った。
「……少し驚いたが……納得も出来た」
「ならよかった」
 ソーマがどことなく鼻声なのは、触れないで置く。
 当世では、親を幼子のときに亡くし、そこからは、九尾の封印の贄として生きてきたソーマ。
 改めて自分を、愛してくれている存在が一柱でもいると、知れ、なおかつ、普段は、本心を口にしない氷雪の本心をしれ、嬉しかったのだろう。
「じゃ私帰るから。何かあったら友美によろ」
 白野威は、そういうと竹藪を歩きだした。
「吹雪ノ神子と神は、お互いに心が通じていて、親子のような関係……と……」
 タブレットにそうメモると、白野威は、歩きだした。
 これから少しずつだがこうして神を訪ね歩くのも面白いかもしれない。
 彼らのお想いを知れるからだ。
 春風に吹かれながら、彼女は、帰路についた。友美に今日の事をどうはなそうかと考えながら。
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