光明ノ神子

 バレンタインがまたやって来た。
 キッチンではりきりながら、チョコを作る光。今年は、珍しくリクエストが友美からあった。
「オレンジピールを使ったチョコでよろしく!! か」
 本当に珍しいこともあるものだ。光もリクエストしたが、友美のトリュフとお馴染みのものだ。
「よし!! 頑張るぞー!!」
 しかし光は、不満だった。一応友美に頼まれたオランジェットは、作ったが、これだと簡単すぎないかと。
「水郷暴れていいよな??」
 カウンター越しにこちらをみていた水郷に光は、問うと、彼女は、困った顔に。
「まさか……」
「そのまさかだ!!」
 この笑顔。止められない。水郷は、そう思うと言う。
「好きにしなさいな」
「ありがとう!!」
 もうどうなってもしらない。
 水郷は、そう思いながら、ニヤリと笑う光を見る。
「じゃ早速作戦開始!!」
 光は、そういうとオランジェットを片付け、和室へと消えていった。

 その夜水郷は、光が寝たのを確認すると、和室を出た。そしてそろりそろりと書物室までいくと、戸を開ける。
「水郷どうしたの??」
 書類整理をしていた友美が驚くが、水郷は、静かに戸を閉めると中へ。
「友美ちょっといい??」
「なに??」
 そして机を這いずり、友美の前にいくと、言った。
「光がバレンタインに暴れるわ!!」
 水郷は、深刻そうな顔をして言うが、友美は、ポカーンとしていた。
 彼がバレンタインに暴れるのは、いつものことで、そこまで深刻になることでは、無い。
「どうせ、リクエストしたものじゃ物足りない!! 作ってやる!! って暴れるつもりでしょう??」
 友美の反応に水郷は、驚く。
「まさかそれを見越して!?」
「もちろん。何年光といると思ってるの水郷。それくらい予想つくわ」
 確かに予想は、つきやすいが。 
 水郷は、これなら安心かと思ったが、友美の顔をみて、すぐにその考えをやめた。
「本当に……この時期太るから困るのよ……だなら光にリクエストしたのに……」
 乙女ならでは、の悩みを友美が呟いたからだ。
「光は、食べてる友美も好きだものね」
「そう!! 痩せようとしたら、痩せなくていいよーほらお菓子食べよう!! って誘惑が凄いんだから!!」
 しかも優しい顔をして言ってくるので、断りにくい。
 いつも友美は、断って面倒になるくらいなら食べることを選び見事に光の思惑道理になっている。
「でも友美無理に痩せなくても力で消費してるでしょう??」
 友美は、普段様々な術を維持するために、けっこうカロリーを消費している。
 それを維持するためか、大食漢であるが、やはりバレンタインの時期は、それでも太るのだ。
「まぁそうだけど。それでも太るのよ。山程のチョコ食べたらね」
 友美は、ジト目でそういうと、書類整理を再開した。
「友美も大変ね……」
「そりゃ神子ですから」
 水郷は、思う。神子だからと言う理由だけで、友美ほどに力を使っている神子は、いないと。
「それ関係あるのかしら……それより友美は、力を使いすぎよ!!」
「そうかな」
「そう!!」
 そんなにだろうかと友美は、思いつつ、書類に目をおとす。
「光だってそんなに使ってないわよ!?」
「光と一緒にしないで」 
 友美は、そういうと書類を片付け始めた。
「終わったの??」
「一応ね」
 書類をしまうと、友美は、それを持ち、執務室へ。そして書類を片付けると、キッチンに。
「さてと、少しだけ準備するか!!」
 そういえとなにやら作業を始めた。
「目には、目を、歯には、歯を……チョコには、チョコよ!!」
 水郷は、背後から友美もまたなにをするのかと一人ハラハラしていた。しかしこの事は、光には、言わない方がいいと思った。

 バレンタイン当日になり、友美は、バクバクしながら、仕事をしていた。
「友美どうしたのさ」
「白野威お腹空けといてね!?」
 白野威は、頷くと、光が帰ってきた。
「友美!! ハッピーバレンタインデー!!」
「ハッピーバレンタインデー」
 さて開幕の狼煙があげられた。
 友美は、微笑むと言う。
「おかえりなさい」
「ただいま!!」
 光の手には、そこまで大きくない紙袋が一つ。
 思ってたのと違うと思いながら、友美は、紙袋を見ていると、光に言われた。
「今年は、量より質です!!」
「質!?」
「そう!! 後で食べよう!!」
「分かったわ」
 量が少ないのは、いいことだが、質と来たとは。これは、なかなか楽しそうな時間になりそうだ。
「後はいこれ、オランジェット!!」
 光は、キッチンにいき、冷蔵庫から皿に乗ったオランジェットを出すと、カウンター越しに友美に渡した。
「愛する姫のリクエストです!!」
「ありがとう光」
 待ってましたと友美は、微笑むと、今度は、彼女から光に箱を差し出した。
「はい!! 光のリクエストのやつ」
 瞳を煌めかせ、光は、箱を受け取り、開けると、中にさ、トリュフが。
「ありがとう!! 毎年の楽しみ!!」
「それは、よかったわ」
 小躍りしてる光に思わず友美は、笑うと、光は、皿に彼女にあるのもを渡した。
「コーヒー豆!!」
「何故に??」
「チョコとあうから」
 銘柄を見てみるとお高いコーヒー豆だった。質とは、こういうところにもかと友美は、思いながら、言う。
「もしかして……プレゼントというよりは、飲みたいから買ってきた??」
 光は、一瞬体をビクッとさせたが、どうやら図星らしい。
 友美は、光にコーヒー豆の袋を渡すと言った。
「いれて」
 光は、パッと明るくなると、すぐにコーヒーを入れだした。
「自ら尻にひかれにいってるよねぇー光」
 白野威があきれた顔をし、言うなか、友美もそれには、同感だった。
「私そこまで鬼嫁では、無いと思うのだけど……」
「まぁ怒ると怖いが、鬼嫁では、ないね」
 白野威からも認められたので、鬼嫁では、ないことにほっとしつつ友美は、チョコを炬燵の上に置くと、座布団の上に座った。
「食べていい??」
「もちろん」
 オランジェットをみたとたん、白野威は、瞳を煌めかせる。
 友美は、白野威の前に少しだけ置くと、凄い勢いで食べ出した。
「酸味とビターなかんじがいい!!」
「それは、よかった」
 さっそくと友美も食べてみると、その美味しさに思わず言った。
「美味しすぎる……」
「素材からこだわったからな」
 コーヒーをいれ終え、やって来た光は、そういうとマグカップを友美の前に置いた。
「ありがとう」
 友美のとなりに座った光に友美は、言うと、彼にあるものを出した。
「クッキー食べる??」
「友美の手作り!?」
「マドレーヌもあるよ??」
「食べます!!」
 光が色々くれると予想して、クッキーとマドレーヌを作ってよかったと友美は、思いながら、嬉しそうに揺れている光をみた。
「嬉しいからって揺れてるし」
「いいだろ!! 白野威!! 嬉しいんだから!!」
「それは、よかったわ」
 友美は、コーヒーを飲むと、紙袋をみた。
「光あれも食べる??」
「もちろん!!」 
 袋から出てきたのは、見るからに高級なチョコだ。
 どうやらカカオの産地別に分かれているらしい。
「私に分かるのかしら……」
「食べてみないも分からないからな!!」
「これ絶対に分からないやつー」
 白野威に思わず光は、むすっとしたが、さっさく食べてみた。
「……分からん」
「美味しいと言うこと以外……」
「あらフローラルな香り」
 まさかの友美しか分からなかった。光と白野威は、思わず友美をみる。
「友美の舌は、繊細!!??」
「かもしれないな白野威」
 驚かれても困る。友美は、苦笑いを浮かべながら、次のチョコ皆で食べたが、やはり香りや味の違いが分かったのは、友美だけだった。
「くっそ……俺も精進しなければ!!」
「光そこまでのことじゃないやわよ……」
「そこまでのことなの!!」
 ぷすんと鼻息をはく光に友美は、苦笑い。
しかし可愛い。
「とりあえず友美の作ったお菓子は、美味しい」
「ありがとう」
 クッキーを食べ機嫌がなおった光をみながら、友美は、水郷との会話を思い出していた。
 確かに光は、大暴れしたが、結果としてなかなか楽しいバレンタインになっている。
「でもいつもと変わらないような……」
「なにが??」
「なにもないわ光」
 しかしそれがまたいいのである。
 友美は、そう思いながら、微笑む。チョコを食べ嬉しそうにしている可愛い夫をみながら。
 
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