光明ノ神子

 仕事終わりの会社員達に紛れ、珊瑚は、帰路に着いていた。 
 電車に揺られ、最寄りの駅に着くと、買い物をし、帰宅。  
 さて今日は、どのような献立にしようかと考え、買ってきたものを冷蔵庫につめていたとき、インターフォンがなった。
「誰……」
 冷蔵庫をしめ、インターフォンの画面をのぞくと、見知った顔が。
「勇音!?」
「こんばんはー突然ですみません!!」
 何時もアポイントをとってくる勇音には、珍しい突然の訪問。
 珊瑚は、玄関にいき、ドアを空けると、気品を感じる佇まいの勇音がたっていた。優しい笑みを浮かべ。
「勇音どうしたの??」
「近くまで来たので、頼まれてた薬持ってきました」
「ありがとう」  
 差し出された紙袋を珊瑚は、受け取ると、言う。
「夕飯どう??」
「いいんですか??」
「どうせ一人だし。勇音さえ良ければ」
 勇音は、少し悩んだが、珊瑚のお言葉に甘えることにした。
「ならご一緒しますね!!」
「どうぞ」
 中に勇音を通すと、彼女は、草履を脱ぎ、丁寧に揃えるの、なかに上がった。
 落ち着きのある、和モダンな空間に勇音は、思わず息を漏らした。
「おしゃれ……」
「薬問屋は、レトロって感じだからね」
「はい」
 古民家も凄いなと改めて、勇音は、思う。
「……うーん」
「珊瑚どうしました??」
「献立決まらなくて」
 これは、困ったと、勇音も思うなか、白菜が目に入った。
「白菜!!」
「白菜好きなの??」
「好きですが、そうじゃなくて、これでミルフィーユ鍋が出来ますよ!!」
 珊瑚は、冷蔵庫を開け、確認をすると、豚肉もあった。
 寒いし確かに食べもいいかもしれない。
「ならそうする??」
「ぜひ!!」 
 喜ぶ勇音に珊瑚は、少しだけ口角をあげると、さっそくしたくをしはじめた。
「出しは、コンソメ??」
「ハイカラですね!! でもそれスープでは……」
「確かに」
 ならと和風の顆粒だしを珊瑚は、出してくると、白菜を切り、鍋のなかに豚肉と重なるように並べ、出汁、酒、醤油、生姜などをいれた。
「あとは、蓋するだけ」
「珊瑚この携帯コンロ使いませんか??」
 珊瑚は、しばらく考えると頷く。
 勇音は、ダイニングテーブルに携帯コンロをセットすると、珊瑚は、その上に鍋を置いた。
「しばらく待つ」
「ですね」
「お酒いる??」
 日本酒の瓶を片手に珊瑚は、勇音にいうと、勇音は、瓶のラベルを確認し頷く。
「純米酒……醸造アルコール無し……いただきます」
 珊瑚は、頷くと、盃を、二つ用意し、ダイニングテーブルの上においた。
「食器も準備しましたし!!」
「晩酌にしようか」
 どことなく、勇音がうきうきしているが、気にしない。
 日本酒をとっくりに入れると、珊瑚は、席につく。
「お酒久しぶりー」 
 勇音も席に着くと、そういい、盃にお酒をいれた。
「はい珊瑚」
「ありがとう」
 美味しそうに日本酒を飲む勇音を見ながら、珊瑚は、鍋の様子を見ていると、勇音が言った。
「美味しいです!! このお酒!! 昔の懐かしい味……」
「それは、よかった」
「こういう味は、今あまり飲めないんですよね……」
「品種改良や気候の変動で」
「そうなんです。それに醸造アルコール……これは、駄目です」
 神は、皆、醸造アルコールを嫌う。理由は、独特の匂いと、風味が駄目だとか。
 醸造アルコールがあることにより、昔に比べ、お酒は、作りやすくなったそうだが、やはり神には、合わないようだ。
「皆そういうね……風も醸造アルコールってワードみるだけで顔しかめる」
 あの普段は、クールな風神の意外な反応に勇音は、驚いたが、同時に醸造アルコールは、滅ぶべしとも思った。
「やはりないのが一番なんです!!」
「そうなんだ」
 無駄なことを話すことが少ない珊瑚。無愛想にも見えることがあるが、そのうちは、余計なことを言わず、ただ優しいだけ。
 やはり彼女といることで心地がよい事もある。
 勇音は、出来た鍋を取り分けながら、こぼした。
「珊瑚」
「なに??」
「……神として……人に惚れるってどうなんでしょうか……??」
 珊瑚は、ありがとうと、取り分けられた鍋が乗る皿を取ると、言う。
「人と神の時の流れは、違う」
「はい」
「そこさえ気にしなければいいと思う。友美は、そこが悲しみの原因になることが多いから認めないと言ってたし」
 珊瑚は、鍋を食べると更に言った。
「相手が神子なら尚更気にしなくていいと思う。神子は、形は、人だけど、すでに人というより神よりだし……時の流れも神と同じだから」
 神子は、決して人だけがなれるものでもない。
 自分よりも上位の神に選ばれたのなら、神でも神子になることがある。そしてそれは魑魅魍魎でも同じことだ。
 しかし珊瑚は、あえてこの時人のみを言及した。勇音の思いを考えて。
「珊瑚は、そう考えるんですね……」
「うん」
 自分もまた人と形をしているが、人と言われれば違う。どちらかというとあやかしよりだ。  
 彼女の一族は、何故かあやかしの血をひいている。 
 薄くなっているとは、言え、人とは、言いがたい存在だ。
「私だって純粋な人じゃない。風にもその事は、言われたけも、気にしてないし、なにより先祖返りでもない限り困らないし」
「確かに」
「だから悩まず進んだら?? 相手は、難攻不落な相手を選んだって自覚して長い時をかけ、おとしにくる覚悟があるんだし」
 勇音は、困ったように笑う。
「私の気持ちも知らずにね……」
「恋なんて気にしてるより進む方がいいと思う。まぁ多少は、相手のことも気にしないとだけど」
 白ご飯を食べながら、珊瑚は、言うと、勇音もまたお酒のみ頷く。
「確かに」
 楽しい会話と美味しい料理を堪能していると、何時のまにやら、時刻は、夜の九時を過ぎていた。
 知らぬまに、勇音も酔いつぶれ寝てしまっている。
 珊瑚は、後片付けを済ませるも、スマホを取りだし、連絡をした。
 しばらくすると、インターフォンがなり、出るの、燕青が。
「珊瑚ありがとうな」
「いいよ」
 燕青は、中にはいると寝ている勇音をおんぶし、彼女の荷物も持つと、外へ。
「燕青」
「なんだ??」
「頑張れ」
 燕青は、一瞬驚いた顔をしたが、すぐに眉を下げ困ったように笑った。
「まぁほどほどにやっていくさ」
「時は、あるしね」
「そうそう。じゃあな」
「また」
 燕青を見送ると、珊瑚は、中に、家の鍵をしめながら、恋とは、やはり難しいものだと思った。
「さて……寝るしたくしよう」
 そう呟くと、彼女は、寝るしたくをしに、家の中への入っていった。
 どことなく、楽しげな笑みを浮かべて。
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