光明ノ神子

 秋の風が冬の訪れを告げ始める頃、夕暮れになり友美は、風の冷たさに少し身震いした。
「買い物に出ただけでこれって……今晩冷えそう……」
 夕飯の買い物は、今朝光が行ってくると言っていたので、友美は、自分が必要な物だけを買いに外に来た。
 トートバッグを肩にかけ直し友美は、歩く。
「白野威が外に出たがらなかったわけが分かる……子供たちも珍しく虚空ノ宮に行ったのも……あそこあたたかいからなぁ……」
 そのうえ家から直結。図書館に行かずに寒い思いもせず、本が読める。あるいみこのじきには、うってつけの場所かもしれない。
「とりあえず子供達のおやつと自分のおやつに……光の摘まみ食いせんようもかっといたし……これでいいか」
 他に寄るところがないかと、考え思い当たる節がなかったため友美は、家に帰った。
「友美床暖!!」
 家に帰り暖まるものを飲もうと友美は、準備をしていると、白野威がキッチンまでやって来てねだる。床暖房を。
「まだ早い!! ストーブも出してないのよ!! 狼の姿で寒いなら本来の姿に戻ったら??」
「めんどくさい」
 白野威は、そう言うととぼとぼとリビングに戻っていった。
「冬毛にはえかわってるのに……そもそもホッキョクオオカミなら寒いの平気でしょう……」
 しかし友美は、忘れている白野威は、ホッキョクオオカミの姿をしているが、ホッキョクオオカミでは、ない。そりゃ寒がるのも無理は、ない。
「よし!! 今日は、ココアー」
 もうそろそろ光も帰ってくるだろう。その前にココアを飲もうとしたとき背後に気配を感じ友美は、咄嗟に拳をかまえ殴りかかった。
「待って!? 光だ!! 頼むからその拳を、引っ込めてくれ!! 家が壊れる!!」
 友美は、驚いたかおをすると拳を引っ込めた。
 光は、ほっとしたかおをするとおもう。友美に万が一何かあっても殺られるのは、相手の方だと。
「光おかえりなさい」
「ただいま」
 光は、微笑むと友美に抱きつく。
「友美ー」
 光は、ご満悦だが友美は、不満そうな顔をしていた。
 こうなるから、ココアを光が帰ってくるまでにのみたかったのに。
「光のバカ」
 耳元で友美に冷たい声で言われ、光は、固まる。そして友美から離れると友美は、ココアを作り出した。
「バカって……」
 言われたことがショックだった。
 光は、しょぼんとするとそのまま和室へ。
「あら一撃いれちゃったのね……」
 このまま元気がないのも困る。友美は、しかたがないと、もうひとつマグカップを出した。


 友美にバカと言われるとやっぱりへこむ。  
 光は、着替えながら溜め息をつく。
「原因は、俺だしな……素直に謝ろう……」
 それが一番。光は、少し緊張した面持ちでふすまを開けると甘い香りを感じた。
 そして視線の先炬燵の上には、彼のマグカップが。
「光さっきは、ごめんなさい。お詫びのココアいる??」
 申し訳なさそうな顔をしている友美。
 光は、驚いたかおをするとすぐに言う。
「友美は、悪くないよ!! その……何時も抱きつくと長くなってしまう俺が……悪いから……今回は、タイミングもあったし……ごめんなさい」
 しょぼんと光は、しながらも素直に謝ると友美に優しく頭を撫でられた。
「何時ものことだしいいわよ。それよりココア……」
「飲みます!! 残すなんてもったいない!! 愛する姫のてづくりなんだから!!」
 そんなたいそうに言わなくても。友美は、そうおもいながらココアをのむ光を見た。
「ただ粉を牛乳でとかして温めただけ……なんだけど……」
「加工が入ってたらそれは、手作りです!!」
「そう」
 力強く言われても困る。
 光と隣でココアを飲みながら友美は、思った。
「友美美味しい」
「それは、良かったわ。光晩御飯なんだけど……」
「鍋にするつもりだよ。これだけ寒いとね」
 友美は、作るといいかけたのに、献立の話になってしまった。
 確かに鍋なら体も温もる。
「なら私も手伝……」
「俺がやるから友美は、いっぱい食べてね!!」
「えぇ……」
 こりゃ食べるしかない。笑顔で言われたら。
「とりあえずししにくを使うか……」
 材料を考え出す光のとなりで友美は、ししにくなら糸こんもいれてほしいと思っていた。そんな友美を見て光は、微笑むと言う。
「糸こんにゃく買ってきてるから」
「ありがとう!!」
「糸こんにゃく友美大好きだもんな。にしても糸こんにゃくなら分かるが何故うちは、春菊があんにも人気なのか……今回も大量に買ってきたが食べれるかな……」
 染々と言われても困る。流石の彼女でも分からないのだから。
「なんで四人とも春菊がすきなのかなぁ……」
「光が春菊をあげるからでしょう!! 離乳食に入れてたくせに」
 友美にあきれながら言われ光は、不満そうな顔に。
「好き嫌いを少しでも減らすためにだ!!
それに春菊は、栄養もあるんだぞ!!」
「だからって春菊ばかりレパートリー増やしたけっかこうなってるんでしょう!!」
「はい……」
 なにも言えない。すべて事実なのだから。
「春菊……」
 これは、また取っておくかと友美は、思いながら春菊に想いを馳せる光を横目で呆れたように見ていた。
「ママ春菊あるの!?」
 そしてひょっこり柊麗がリビングに姿をあらわした。
「らしいわ。晩御飯だって」
「やったー!!!」
 柊麗は、ひとしきり跳ねるとリビングを出ていった。
「あれは……」
「報告しにいったのかもねぇー」
「春菊が!!!」
 そこまで春菊に、思い入れでもあるのだろうか。となりでうなだれる光を見て友美は、苦笑いを浮かべる。
「いいもん!! 春菊俺もとるから!!」
「だからって子供たちの分すべて独占とかは、やめてよね」
「分かってる」
 光は、使ったマグカップを持つと立ち上がった。
「さてご飯つくろ」
「私も……」
「ゆっくり座ってて!!」
「はい」 
 手伝いは、駄目らしい。寒くなってくると手荒れを理由にあまり手伝いをさせてくれない。
 友美は、拗ねたような顔をしたが、光に口付けをされた。
「手荒れは、いたいから」
「光のバカ……」
「好きに言っててください」
 彼にも譲れない時がある。それが今だ。
 光は、優しく微笑むとキッチンへ。残された友美は、しかたがないとココアをのんだ。
「これもまた冬の始まりの合図かな」
 こうして今年もまた寒い冬が始まる。色々な楽しみと共に。
「ココア美味し」
 もちろん食の方でも。
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