選ばれた道


 嵐のリング戦が終わった夜。

 ホテルの窓に映る自分の姿を、リーゼ・ヴァイス・ドラゴンロードはぼんやりと見つめていた。

 雷とのリング戦で見た光景が、頭から離れない。

 ――仲間を選んだ獄寺。

 ――仲間を守った沢田綱吉。

 もし自分にも、あんな未来があったなら。

 そんなことを考えてしまう。

 そして思い出す。

 四年前の、あの日を。


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 十四歳。

 ドラゴンロード家の本邸。

 重厚な扉の向こうで、一族の者たちが円卓を囲んでいた。

 その中心に座る父が、静かに口を開く。

「リーゼ。」

「はい……。」

 声は震えていた。

 まだ十四歳。

 兄たちのような自信は、どこにもない。

 父は淡々と告げる。

「お前はヴァリアーへ行け。」

 その一言だけだった。


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 ドラゴンロード家は、ボンゴレとは古くから縁のある名門だった。

 だが、一族にはもう一つの役目がある。

 ヴァリアーとの友好の証として、一族の子を一人預けること。

 それは何代も続く慣習だった。

 長男は家督を継ぐ。

 次男はボンゴレ本部で幹部として働く。

 そして残る子どもがヴァリアーへ。

 その役目が、リーゼに回ってきた。


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 兄たちは優秀だ。

 長男・クラウスは、若くしてドラゴンロード家を率いる次期当主。

 厳格だが、誰よりも一族を思う男。

 次男・ジークは、ボンゴレ本部でも名の知れた凄腕のヒットマン。

 任務の成功率はほぼ百パーセント。

 誰もが彼らを誇りに思っていた。

 一方でリーゼは――。

 剣術も平均。

 銃も兄たちほどではない。

 勉学も飛び抜けているわけではない。

 「ドラゴンロード家の娘」という肩書き以外に、自分だけの役割を見つけられずにいた。

 だから父の決定に、誰も反対しなかった。

 リーゼ自身も。

「……分かりました。」

自分にそんなもの務まるわけない。

 しかしそう答えるしかなかった。


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 数週間後。

 ヴァリアー本部。

 初めて足を踏み入れたその場所は、屋敷とはまるで違っていた。

 廊下には血の匂いが残っている。

 壁には何でできたかわからない無数の傷跡。

 隊員たちは互いに笑い合うこともなく、鋭い視線を交わしていた。

(怖い……。)

 心臓が早鐘を打つ。

 その時、廊下の向こうから大声が響いた。

「ヴォォイ!!」

 思わず肩を震わせる。

 振り返ると、銀髪の男――スクアーロが部下を怒鳴りつけていた。

「そんな剣で敵が斬れるかァ!!」

 怒号が廊下中に響く。

 怒鳴られていた隊員は、顔を真っ青にして頭を下げていた。

 リーゼは思った。

(私も失敗したら……。)

(殺されるかもしれない。)


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 初任務は、荷物の運搬だった。

 戦闘ですらない。

 それなのに手は震え、足はもつれた。

 木箱を落としてしまい、中身を床に散らばらせる。

 近くにいた隊員が舌打ちした。

「使えねぇな。」

 リーゼは必死に頭を下げる。

「すみません……!」

 返ってきたのは冷たい視線だけだった。


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 それからの日々は、必死だった。

 朝から晩まで訓練。

 筋力。

 体力。

 武器術。

 暗殺術。

 眠る時間を削ってでも、ハルバードを振り続けた。

 弱ければ生き残れない。

 そう思っていた。

 いや、そう思い込んでいた。


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 ある日の訓練。

 スクアーロがリーゼの構えを見て、木剣を構えた。

「来い。」

「は、はい!」

 結果は惨敗だった。

 一撃も当てられず、何度も地面へ転がされる。

 息も絶え絶えになりながら、それでも立ち上がる。

「……まだです。」

「もう一度。」

 スクアーロは黙って木剣を構え直した。

 何度倒されても、リーゼは立ち上がる。

 その日の訓練が終わる頃には、腕は震え、足は動かなくなっていた。

 スクアーロは背を向けながら、ぼそりと呟く。

「弱ぇ。」

 リーゼの心が凍りつく。

 やっぱり、自分は駄目なんだ。

 そう思った次の瞬間。

「……だが。」

 スクアーロは振り返らないまま続けた。

「立つことを辞めればそれ以外だァ。」

 その一言だけを残して去っていった。


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 その日から、リーゼは少しだけ変わった。

 自分には兄たちのような才能はない。

 でも、何度倒されても立ち上がることならできる。

 それだけを信じて、毎日ハルバードを振った。


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 二年後。

 十六歳になったリーゼは、正式なヴァリアー隊員として認められる。

 まだ幹部には遠く及ばない。

 それでも任務を任され、隊の一員として立てるまでになっていた。

 けれど、その胸の奥には今も、小さな少女のままの自分が残っている。

 「本当は、この道じゃなかったのかもしれない。」

 その想いだけは、誰にも打ち明けられないまま。

 静かに心の底へ沈み続けていた。
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