開戦


 晴のリング戦から間もなく。

 並盛中学校。

 夕暮れに染まる校庭には、再びリングが設置されていた。

 今日は、雷のリング戦。

 ヴァリアー側の待機区画で、リーゼ・ヴァイス・ドラゴンロードは静かに用意されたステージを見つめていた。

 レヴィ・ア・タンは腕を組んだまま、微動だにしない。

 その姿からは、勝利を疑う様子など一切感じられなかった。

 チェルベッロが試合開始を告げる。

 やがてボンゴレ側の守護者が姿を現れた。

「……本当に子供だ」

 リーゼは思わず目を見開く。

 牛柄の服を着た、小さな男の子。

 五歳ほどにしか見えない。

「ししし。」

 ベルフェゴールが口元を歪める。

「ボンゴレも人材不足ってわけ」

 レヴィは鼻で笑った。

「ガキ相手とはな。」

 だが、リーゼだけは笑えなかった。

(あんな小さな子が……戦うの?)

 暗殺部隊に身を置く自分が言う資格はない。

 それでも、胸が締め付けられた。


---

 試合が始まる。

 予想通り、ランボはレヴィにまったく歯が立たない。

 泣きながら逃げ回り、追い詰められていく。

 リーゼは思わず視線を逸らしかけた。

 しかし。

(目を逸らすな。)

 晴のリング戦でスクアーロに言われた言葉を思い出す。

 リーゼは拳を握り、最後まで見届けることを決めた。


---

 ランボが十年バズーカを使う。

 煙の中から現れた十年後のランボ。

 その姿に、ヴァリアー側もわずかに空気が変わる。

「へぇ。」

 ベルフェゴールが笑みを深くする。

「ちょっとはマシになった。」

 だが、レヴィは動じない。

 激しい攻防が続く。

 そして再び、十年バズーカ。

 今度現れたのは――。

「……!」

 二十五歳になったランボだった。

 圧倒的な存在感。

 雷の炎をまとったその姿に、リーゼは思わず息を呑む。

(強い……。)

 レヴィが押されている。

 あと一歩で勝敗が決まる。

 誰もがそう思った、その瞬間。

 煙が弾ける。

 効果時間が切れた。

 リングに立っていたのは、再び五歳のランボだった。

「……っ!」

 レヴィの表情が変わる。

「終わりだァ!」

 容赦のない一撃が放たれる。

 小さな体へ向かって、雷が走る。


---

 その瞬間だった。

 一つの影がステージの装置に触れる。

 沢田綱吉だった。

 轟音。

 ツナが装置に力を注ぎステージをめちゃくちゃにしてしまった。

 リーゼは息を呑んだ。

(助けた……。)

 敵味方も、勝敗も関係なく。

 ただ仲間を守るために。

 自ら失格になることも承知でリングへ飛び込んだ。

 リーゼの知るマフィアでは、ありえない行動だった。


---

「何をしている。」

 ザンザスが低く呟く。

 怒りでも驚きでもない。

 ただ、理解できないというような声だった。

 ベルフェゴールは肩を揺らして笑う。

「ししし。」

「リングに入るなんて、ボス失格。」

 レヴィは舌打ちをする。

「くだらねぇ。」

 ヴァリアーにとっては、それだけのこと。

 だが、リーゼだけは違った。

 目の前の光景から目が離せない。


---

 ツナは傷ついたランボを抱きしめたまま立ち上がる。

 その表情に迷いはなかった。

 リングを失うことよりも。

 仲間の命を選んだ。

 リーゼは無意識に自分の胸へ手を当てる。

(もし私だったら……。)

 ヴァリアーで育った今の自分は、同じことができるだろうか。

 命令を破ってまで、仲間を助けられるだろうか。

 答えは出なかった。


---

 雷のリングはヴァリアーの勝利で終わる。

 しかしリーゼの心には、勝敗よりも強く残ったものがあった。

 それは、敵である沢田綱吉が見せた「守る」という覚悟。

 人を倒すためではなく。

 人を守るために、自ら傷つく覚悟。

 その姿は、リーゼの胸に静かな波紋を残していた。

 まだその波紋が何を意味するのか、彼女自身にも分からなかった。
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