すごく短いもの
おなまえ
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たまに、夜中テレビで映画が流れている日があって、あなたさんはその時間がなによりも好きなようだった。俺とくっついているよりも「いま映画観てるからね」と母親のようなやさしさで突き放す。俺は毎度それにぶーたれるのだが、毎度途中から映画に見入ってしまって抗議できなくなるのだ。
『酔拳』『未知との遭遇』『メン・イン・ブラック』……俺はあんまり映画を知らないから、あなたさんといろいろ観られてうれしかった。きょうは『オリエント急行殺人事件』。あなたさんはオチまでちゃんと知ってたけど、俺には教えないでにこにこしていた。エンドロールまで終わってから、つめたい布団に入って足をこすり合わせる。
「あのオチさあ、俺もなんか知ってたかも」
「えー。まあ有名だからね」
すると、笑ったあなたさんのおなかが寂しげにくうくうと鳴った。あなたさんはおなかの音までかわいいんだなあ。腹の虫じゃなくて、”おなかのむしさん”とでも呼んだほうが正しい気さえしてくる。とか思ってると、俺のおなかまでぐうと鳴った。ああ、こっちは全然かわいくない。
「まだ明け方だからもうちょっと我慢」とあなたさんは言うが、俺はべつにいいんじゃないかと思う。こんな所じゃ、規則正しい生活なんかあってないようなものだし。
「ラーメンとかさ、食べる?」
俺は布団から指先も出さないまんま提案した。
「そんなこと言われたら食べたくなっちゃうよー」
「なっちゃっていいよ。俺作るし」
あなたさんは、ふわー、って情けない声をあげた。睡眠欲と食欲にはさまれたあなたさんは、きっとぐらぐら揺れてる。なんだか寒いなあ、おなかがすいてるからかなあ、と思って、俺はあなたさんにぴたりとくっつく。いつも冷えている足先とか、おそろいのシャンプーの匂いとか、蒲団をちいさくつまむかわいい指とか、あなたさんの好きなところが暗闇にまぎれて自然に俺と一体になってゆく。もっとくっつこうとして布団がごそごそいう。そしたら俺はひみつの計画をこそこそ言おうかな。耳にくちびるを寄せると、あなたさんはもう眠っている。
おなかがまたくうくう鳴った。おやすみと言う前にキスをして、あしたのこととかを一瞬考えてから、俺は目を閉じた。