すごく短いもの
おなまえ
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ふと、男が口を開いた。声を発するためにする息継ぎの時点で、沈黙がおびえるようにひいていく。
「おまえの、幸せなときってどんなとき?いつ?なにしてるとき?」
あなたは何も言えない。恐怖で、ありあまる困惑で。口をはくはくとさせて、ただ呼吸をねだるようにして、返答できずにいた。
すると、男はふたたび、言葉を継ぐ。
「早く答えろ」
ひとつ前よりも攻撃的になった言葉尻の温度に、彼女は震えを隠せずに答える。
必死に頭をたぐりよせて、いまはもう遠くに思えるような日常生活を思い出しながら。手をのばして縋るような気持ちで。短い言葉のいくつものすき間に、悲しい息の音が漏れていた。
「へ~え。」
とても一般的で、想像から一ミリの逸脱もしないような凡な答えだったが、それでも死柄木弔は満足げに口角をゆるめた。らんらんと、興味津々な輝きが目にうつっていた。
そしてそのまま、なぜそんなことを急に訊くのかと言わんばかりの上目遣いな視線に、興がのったのか答えた。答えてあげた。
「そのときに殺してあげたいから。」
そのどこか幼稚な抑揚は、あなたの心臓をわしづかみにして、たちまち氷にひたしてしまう。
そして、あなたがすべてを破壊するてのひらへとこわばった視線をやったことに気づいくと、不名誉だなあ。と、彼は少し考えた。もちろん、いわれのない不名誉ではないが。
「ちがうよ、壊すんじゃなくてさ、もっと。ちゃんと、ふつうにさ。殺す。」
絞めるとか刺すようなジェスチャー。
「じゃないと、もったいない。だって壊れて塵になって消えちゃうとか。かなしいだろ」
死柄木はあなたのことを愛していると、そう伝えた。
どれほどその声が衝動の暗い色にまみれていても、どれほど彼女のことを絶望に突き落としても、愛は不変で恒久的だった。愛のことは、それ以外の何と形容することもできない。愛については覆い隠すだけ無駄だから、人は告白をする。愛の、あるいは罪の。
死んで動かなくなって固まって腐ってやがては灰になって還ってくる愛。
簡単に壊れて簡単に散り散り塵になって簡単に消えてなくなっていく罪。
それは、死柄木弔にとっての。
「なあ?かなしいよなあ、おまえもそう思うだろうけど」
「あはは。その顔。なに?はは!おもしろい」
「馬鹿みたいだな。あー。早く幸せになってみせてくれよ」
「それまでに、じょうずなやり方を考えておかなくちゃなあ……たのしみだな」
「俺も幸せだよ。いま。すごく……」
殺意と執着で愛になる。愛はあなたの喉をつよく縛る。息のできるぎりぎりを。
死柄木弔は笑う。幸福のため息を吐いて、ただ最高の瞬間を夢に見て。