すごく短いもの
おなまえ
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眠っている部屋には、薄く深い宵闇がふんわりと覆いかぶさっていた。誰にも気づかれないほどやわらかい夜行製のフリルで飾られている、その中心で、外の世界を怖がるみたいにあなたが寝ていた。
窓辺は壊れることから守るかのような厳重さ、月光を許さない遮光性で、俺のことももちろん許さない。俺の吐息すら許さない。
「………ん……」
あなたが寝返りとともに声をもたらした。
静かに、静かに、ひそかに、秘密のように、かわいげをもって、絶対の円環をもって、俺はその腹にジッパーをとりつける。
そして、じりじりと、ひらく。
中をのぞきこむ。
「動いている」
ぬめっている。光っている。この夜の光をすべて集めたような青白いハイライトが、一秒を数えるうちに何度も何度も脈を打ち、息をし、循環し、誰にも説明することのできない色で輝いている。誰も見ることがないのだから、どんな色をしていても、どのように動いていてもそれは世界の秘密だった。
一握の命を、地獄につながる覗き穴へ糖蜜を注ぐみたいに、ほんのちょっぴり冒涜している。この瞬間。この、静寂でしかない時間。平穏でしかない空間。
宇宙から切り離された俺たちという混沌の吐息を、この部屋が許しはじめる。
「綿じゃあなく」
「きみの中身だ。ちゃんと………」
俺はこれから一生きみを守る。
このぬくもりを殺すやつを俺は殺す。
息の根を止める。心まで止める。きみのこれを守るために。
「よかった……」
ヌイグルミなんかではない、本物の内蔵物が、あなたを生かしてくれている。きょうも、あしたも、その先もずっと。きっとこの目を開けなくなるまで、俺はきみに夢中だろう。だからきみも夢の中で、ほんの少しだけ、俺のことを許してほしい。そして、きょうもどうか、おやすみ。
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