すごく短いもの
おなまえ
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「そういえば、ニア」
「ん……」
彼女のひざに乗せられて、愛玩動物のようにくすぐられていたとき。あなたが突然思い出したかのように声をあげた。
「またちょっと背が伸びましたか?」
「………はい」
「成長はうれしいですが。抱っこはそろそろ、できなくなりますかね……」
「……そうですね……」
なにも人生に不可欠というわけでもない寂寥が、やけに糖分を含んで私の喉をしめつける。この味を、恥を覚えさせたのはまぎれもなくあなただった。
「あー……じゃあ、今のうちにしておかないといけませんね」
ちゅっ。とかわいい音で児戯のごときキスがほほへ落ちてきた。ずっとそうされたくてわざとほっぺたを触れさせていた私なので、わざわざ反応も言及もしない。
「あなたの好きなように、していただいてかまいません」
「ニアぁ。なんだか、きょうは優しいですね?」
「いつもと変わりません」
微妙な顔。
「さびしいので、今のうちに抱きつくしますよ」
「その表現はあまり健全ではないですね」
「では、ベッドまで抱っこで連れつくして、着いたら文字通り抱きつくすことにします」
「………………」
「健全でないのは不許可でしょうか?」
「………。許可します。あなたの好きなように……してください」
頭が、身体じゅうが勝手に期待しはじめて火照る。
「……ニア。またかわいいお顔になってる」
「その原因は何だとお思いですか」
「ニアのありあまる邪な想像力でしょうか」
「あなたの飛びぬけて邪な言葉です」
「……世界一の名探偵がおっしゃるのなら、そうですね?」
その目は弧を描いている。まったくもって、勝てない。
「……何か言いたいことがあるなら、いますぐ……連れて行って、その先で……ベッドで聞かせてください」
「はい。では、そうしますね」
あなたが私に向きなおって、しゃがんで手を広げてくれる。
「おいで」
誘われるがまま、正面から腕を回す。
「………はい」
「ああ、そうじゃなくて、こっち……」
あなたは少しほほ笑んでから、私の体勢を動かして立ち上がった。いま私は横向きに抱かれている、いわゆる、お姫様抱っこ……
「これは、恥ずかしいです」
「そうですか?すごくポピュラーなやり方だと思いますが……とりわけ恋人同士だと」
「悪くありませんが、あまり……」
「くっつけないから?」
「…………、」
かわいい、とでも言いたげな顔であなたは正解を投げてきた。私は図星で何も言えない。
「正面からのハグは、あとで、溶けるくらいたくさんしましょうね」
「……はい。」
そう言ってまたほほにキスを落としてくるあなたを気障っぽく思いつつも、全然悪い気が起こらない私の内心に少々辟易する。驚くほど単純だ。あなた以外の誰にも見られたくない、見せられない表情を易々と浮かべてしまう。
彼女の肩にそっと寄り添い、目をつむる。歩くたび鳴る振動が、むずがゆいほどゆるやかで、私は性急な心持ちでやわらかな白い大地を想像する。そして、それからおこなわれるひめごとについても。ずいぶん馬鹿になった頭をもたれかけながら、ただ甘い息をして、ただ、その実現を焦がれた。