すごく短いもの
おなまえ
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「だめだよ。こんなところに来ちゃ」
尊いいのちの行きつく場所がこんなに暗いならわけない。ここできらきら光っているのは誰かの汗とか涎とか血液で、期待して見てたらガッカリするから俺はそうしない。救いがいらない血みどろの、最高の未来が80000000000年先も待ってくれてるから。
寒いようで暑いようで寒いようで熱い。赤熱がちらついて向こうの花畑が照らされている。それをいいなあってみんなは言うけど、とんでもない。だってあっちでは陽の光がさんさんと降り注いで蝶々が踊って、見たことのないほどきれいな花が健康的な芝生を咲きたくっている。鬼の身体が灼けてしまうからとかではなく、あんなところにいたら俺はほんとうに死んでしまうだろう。自分があんな光景を目に入れるだけで最低な気分になれる人間だったことを、人間を終えたいま、思い出す。
きっときみは、まちがってここへ放り込まれたんだね。だって名前も知らないきみ、きみはあんまり瑠璃色に輝きすぎている。再審を待つより先に、まちがってここへきてしまった。来たくもない地獄に来て会いたくもない鬼に出会って、すごく幸運なきみ。きみの切りそろえられた爪がこっちを指さすだけで、人を何人も殺してきた俺の目玉はすこしだけとろけそうになるよ。
「はやくおかえりね?」
「きみといるとちょっと嫌になるかな」
「どこかに行ってね」
「きみは、あっち」
俺が責め苦を受けている最中もきみは俺を見ていた。その目はちょっぴりうれしそうだった。どうしてなのかはわからないが、その弧は劈く血の色を湛えていたように思った。
だけれども、この子が極楽に帰ってしまう日はいつだろう。それまでにもう少しおしゃべりがしたいな。そう思ううちに、地獄生活にきみという光が生まれてしまった。
ある暗い日曜日に血の池の脇道を歩いていたら、ひそひそとうわさ話がきこえた。
あなたというその女の子はたくさん人を殺して地獄送りにされたんだって。
なんだ。なんだ!最高の女の子じゃないか!あのきれいに揃った爪は殺人犯として勤勉であることの証明だ。すばらしいじゃないか。
たぶん俺は恋に落ちている!地獄に落ちてからはじまった恋!墜ちつづけてどっかを飛んじゃって、俺たちはきっと美しくなれるね。
「あなた」
「こんにちは」
「よかったあ。帰らなくていいんだね」
「どうしたんです?」
「いや。じゃあ、これからよろしくね」