「出しすぎちゃった」
あなたさんに手を握られるのははじめてだった。
クリームの白いかたどりが、ふたりの狭間でゆれてほぐれていく。ふたつの肌色の体温でとけだして、いなくなる。桜色の爪や関節部分のふくらみ、指の股の柔らかさまで直に教え込まれて、彼女の掌の中心に俺は、放り込まれてしまったのだ。
ああ、俺のささくれだった手じゃ、あなたさんにふれられないと、思っていたのに。あなたは、いとも容易くそれを飛び越すんだね。顔や手や、俺の身体の凡ゆる箇所へ熱が溜まっていくのを感じる。わずかにぬめるよっつの手手が、離れようとするのを、俺は考えるより先に引き留めた。
「あ」
目的がなくなった、ただの、恋人ごっこのような手遊び。俺はそれでも指同士をからめて、たべちゃうみたいに別れを惜しむ。肉同士が再会をよろこび、その奥に居る血液の流動が勢いづく。たかが手と手の接触、しかし俺のなかに確かな、革命じみた動きが起ころうとしていた。