そのほか
おなまえ
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旅の先々で現れるユメクイ。邪をもってうまれたその生命が、人々のもつ夢を喰い荒らそうと襲い掛かる。トロイメアの姫とその仲間たちが祈り応戦するが、逃げ遅れた親子に意識をやった瞬間に一瞬の隙が生まれた。
すかさずユメクイが二人に飛びかかろうとする。その瞬間、二人の前へ、彼は飛び出した。
闇色のもやに妨げられる視界は彼の安否をはっきりさせない。仲間の声と、民の悲鳴だけが聞こえている。姫は焦る気持ちをこらえながら、レジェの無事をただ信じた。
あなたはレジェが臥せているベッドの端を見た。彼女の来訪に気付いたレジェは起き上がると、それとなく、その視線を追いかける。
「……レジェが守ってくれたおかげで、あの親子は無事でした」
「そうなんだ。それはよかった」
その口ぶりはどこか他人事めいている。翠色の目玉はあなたを透き通って、どこか違うところを見ているようだ。彼女はレジェのその様子に違和感を覚えながらも、その先にあるものを見たい気持ちにはならなかった。
薄笑いが彼女を見やると、すこしその笑みを深める。
「どうして飛び出したりしたんですか?」
神妙な顔つきで彼女はたずねた。レジェは怪我をした腕をもう片腕でなでると、彼女とは対照的なほど明るい声で答える。
「……だってこうしたらきみの中に僕の記憶が永遠に残ってくれると思ったから………きみの中だけで生きていけるのなら、それより嬉しいことなんかないよ」
夢を語っているかのように頬を染めて、彼は無邪気に笑った。あなたはあっけにとられた表情で言葉を失う。
「え……」
「あはっ。あー……こうしてきみが僕のためだけを思って心配してくれるのもけっこう、きもちいいな。ふたりきりで………ずーっとこうだったらいいのにね……」
「レジェ……私は」
「いや……僕のことなんか心配してなかったか。あなたが守りたいのは僕以外の仲間たちや民衆や家族だもの」
「違います!」
あなたが否定するが、レジェはなんでもないような顔をやめない。
「………なんでそんな顔をしてるのかな」
「レ、ジェが……怖いことを言うからです」
「こわい?あなた。僕に死んでほしくないってこと?はは。うれしいな」
「どうしたんですか?様子が」
「どうしたんだろう。怪我をしたからなんだかハイになっちゃってるのかな?」
「そ」
「それか、きみが他の男ばかり見ているから嫉妬してしまったのかもしれないね。」
刺すような声音にあなたが二の句を継げないでいると、レジェは笑った。
「あっはは」
「………」
その笑みはなによりも渇いている。あなたが知り得ない何かを渇望している。
「でも知ってるんだよ、ちゃんとね。あなたが誰のことも特別に思わないようにしていることとか……それでいて誰も彼も愛してしまうこと………」
「……そんなこと、」
「だからこんなに苦しいんだってこともね。」
ことばが、あなたとの間に横たわる。永遠にはつづかない静寂のすき間に横たわり、あなたの心にすらしのびよる。
その心のどこかに穴が開いていないか念入りに確認するかのごとく、レジェの視線は彼女の身体のあちこちに這わされる。
ふいにその空虚な笑みが剥がれると、嫉妬深い緑眼を昏く伏せた。
「今だけでいいから僕のそばにいて。僕のいうことをきいて………ね」
声の残響には悲壮感が込められている。あなたはまだ何も言えない。
レジェはそんなあなたの手をとり、包帯の巻かれた腕に触れさせた。
「ほら」
「………」
「はは!きみに触れられていると、早く治ってしまいそうだなあ。それはそれでちょっと残念だ」
あなたにとってレジェは大切な仲間であり、それ以上でもそれ以下でもない。それ以上にも、それ以下にもするつもりはない。ただかなしいほど味のしない笑い声に、心がからっぽになってしまいそうだった。
もうすぐしたら、他の仲間たちが部屋に入って来るだろう。だから今だけはせめてこのまま、彼の孤独と虚栄を癒すのも姫の役目だと割り切るしかなかった。それがたとえ、まやかしにもならない更なる空虚だったとしても。