そのほか
おなまえ
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※夢主さんの骨が折れ、ゲロを吐きます。
不動卿オーゼンはあなたをひざにのせたがる。マルルクにはしないようなふれ方をする。アビスの呼び声を聞かせない。自分から離れさせない。離さない。恋。愛。執着。どの感情にも当てはまらない淀み。心にたなびいて跡ばかり残るその中心に彼女がいることは明白だった。オーゼンがおおきな手であなたのほほを撫でると、いつだってあなたはちいさな心臓に冷や汗をかく。
「なにをそんなに焦ることがあるのかなァ」
オーゼンはわざわざ身体をちぢこめてあなたと目を合わせる。
「ぉ オーゼンさんにさわられると、緊張してしまって」
なにを考えているかわからない暗黒の双眸がわずかに弧を描く。
「ふうん。そろそろ慣れてもいいと思うけどねえ」
「っはい。がんばりますね」
あなたはその日、オーゼンのもとからいなくなった。
ときおり原生生物が鳴くのを聞いては、マルルクが望遠鏡をのぞき、家事をこなす。それを眺めるのが日常で、束縛で、あなたに課せられた絶対の生活だった。
逆さまの奔流が音を立ててのぼっていく。終着点の分からない永遠の落下に似た上昇。時間の分からない隙間なく完璧な薄曇り。
閉塞生活から這い出したあなたはそんなアビスの光景を久しぶりに目の当たりにして一秒、立ち止まる。しかしその一秒後には歩き出す。絶景に目をくれている暇はなかった。
アビスを歩む速さで白笛に敵うものはまずいない。あなたはまだ蒼笛だった。
方角もよく把握できないままに、地上の光を目指して幹を踏み出す。
地臥せりたちやマルルクがあなたの脱走を告げても大した動揺を見せなかったオーゼンだったがその表情とは裏腹に、心中ではすでに原生生物や過酷な自然環境によって死んでいるのではないかと、わずかな心配の念も湧き上がっていた。
自分が見つける前に、あるいは、殺してしまう前に死なれては困るからだ。
重い腰を上げて不動卿が動く。
行動の前から結果は明白だった。
オーゼンから見るとずいぶんと小さなベッド。おそろしいほどに虚空な眼と冷たい手が、そこへあなたを縫いつけていた。
ぎしり。と鳴るスプリングの音が、ふたりの間に迸る沈黙を致死性の毒ガスに変貌させていく。それを吸わないようにするみたいに、あなたののどからは命乞いにも似た謝罪が垂れ流されている。なにを謝っているのかもわからないまま、オーゼンの顔を見ないようにと絶えず視線を移動させつづけていた。
「ご、ごめんなさい。ごめんなさい……」
「フー……私を尊敬してますって聞いたんだがねえ」
ため息ひとつで怯えて逃げ出そうとする肢体に卿はのしかかる。
あなたが初めてオーゼンに会ったとき、逆さ大樹から太い枝を選んで歩いて疲れ果てて監視基地にたどり着いたとき、たしかに彼女はそう言った。探窟家として長く伝説の一人に数えられる不動卿オーゼンを一目見られて、心からうれしそうな顔。
『オーゼンさん……ずっとお会いしたかったです。オーゼンさんのこと、すごく尊敬していて……』
いつまでもその表情が真っ黒い瞳孔に焼き付いていた。どんなときでもその少女は心のもっとも深いところにいた。どこにいてもそのすべてを支配する自分でいたかった。邪魔でかなわなかったが、消そうとも思わなかった。
きっとあなたはそうではないだろうことも、わかっていた。
あなたの手首の骨はぎりぎりのところで折れない。
しかしあなたがこれ以上拒絶するなら、もう指先を動かすことすらできなくなるだろう。オーゼンはあなたの手首をあの匣に放り込んで、命を宿し動き出すところを少し見てみたくなっていた。
「ご、ごめんなさい、っ、もうしません」
「そう言って私が離すと思ってるんだねー」
これからあなたが何を言っても、何をしても暗黒に向かっていくだろう。
しかし少女はその歩みを止める権利を有していない。
「うううう」
オーゼンにとって、あなたの双眸からほほへ丸く伝う涙が、ごく自然に輝いているのが不思議だった。霏霏として逆流するアビスの滝はあんなに濁っているのに。同じような探窟家の瞳に張られた光はあんなに狭いのに。どうしてあなただけが、負荷で歪んでいる脳みそにへばりつくのか。
オーゼンは落ちつづける涙を舐めてから、手首を解放してやる。
「……まあ……、でも私は優しいからさあ、手をちぎるのはよしてあげるよ」
「ふーっ、うう」
「折るだけだ」
オーゼンはすばやくあなたの両足首に手をかけると、ぎゅっと握る。
すると、たった一秒だけの動作で音が出るほど派手に骨が折れた。その音は嗚咽の中に一瞬安堵の息を吐いていたあなたの耳にも伝わる。感じたくない感覚とともに。
「っ、っ、っはあ、ああ、ああああッ」
それがわかると、だんだん痛みがやってくる。それに怯えるあなたの顔をオーゼンが楽しそうに覗きこむ。
「ッ!ああっ。ッひぎっあああああ!っうううう」
おかしな方向へひしゃげた足首を一瞬見てしまい、彼女は激痛の波にのまれる。視界が螺旋状につらなる。わんわんと頭まで響く耳鳴りがする。叫んで身動ぎをするたびに脳が焼ききれそうな痛みの洪水に沈んでは、意識だけで浮上する。させられる。
その様子を「はは」と笑うオーゼンの声色は、絶望のかたちによく似ていた。
脂汗や涙や洟を流して悶えるあなたのほほをオーゼンが撫でていると、あなたは吐いた。
その息は荒く、可哀想なほど青い顔色で喘鳴以外のなにも発さずにオーゼンを見ていた。
「こんなんで吐いてちゃアビスなんざ潜れないよ。キミ、蒼笛だよねえ」
薄笑いのままオーゼンの顔はどんどんあなたに近づいて、吐瀉物に切り刻まれた悲鳴を抑え込むようにして口づけた。
オーゼンの厚い舌が血色を失ったくちびるを割って這入り、唾液やその他を押しのけてつながる。ふたりの間ではぐぢゅぐちゅと、淫猥でありながら状況にそぐわない音が鳴っている。
あたたかなぬかるみが包むあなたのちいさな舌を食んだり、すこし噛んだりして遊ぶ。柔らかい脈動をつかんでは撫でる。ぬるぬるした液体が混じってはほどける。
しばらくそうしてあなたのほほの内側をゆるやかに征服し尽くすと、ようやくオーゼンは離れた。まだつながりあおうとする唾液の線を切って口を拭う。
「はは……きッたないなあ………」
あなたはぼわぼわとひずむ意識のなかで自分がどれだけ脆弱な生き物なのか理解した。アビスの原生生物よりも警戒すべき強大な存在がいるということ。そしてその人間が、誰よりも自分に執着しているのだということを。やっと理解できた。そして眠るというよりは猟奇的に、意識の糸を手放した。
・・・
オーゼンは部屋を出ると、ぶっきらぼうな口調でマルルクに手当てを頼んだ。足は変色していたが、手当てがしやすいようにとオーゼンなりの丁寧さで折られていたようだった。
口許をぐちゃぐちゃに汚して目を瞑っているあなたの姿を見て、マルルクは「これからもここで、よろしくお願いしますね」とささやき、服や体をきれいにする準備をはじめた。
不動卿オーゼンはあなたをひざにのせたがる。マルルクにはしないようなふれ方をする。アビスの呼び声を聞かせない。自分から離れさせない。離さない。恋。愛。執着。どの感情にも当てはまらない淀み。心にたなびいて跡ばかり残るその中心に彼女がいることは明白だった。オーゼンがおおきな手であなたのほほを撫でると、いつだってあなたはちいさな心臓に冷や汗をかく。
「なにをそんなに焦ることがあるのかなァ」
オーゼンはわざわざ身体をちぢこめてあなたと目を合わせる。
「ぉ オーゼンさんにさわられると、緊張してしまって」
なにを考えているかわからない暗黒の双眸がわずかに弧を描く。
「ふうん。そろそろ慣れてもいいと思うけどねえ」
「っはい。がんばりますね」
あなたはその日、オーゼンのもとからいなくなった。
ときおり原生生物が鳴くのを聞いては、マルルクが望遠鏡をのぞき、家事をこなす。それを眺めるのが日常で、束縛で、あなたに課せられた絶対の生活だった。
逆さまの奔流が音を立ててのぼっていく。終着点の分からない永遠の落下に似た上昇。時間の分からない隙間なく完璧な薄曇り。
閉塞生活から這い出したあなたはそんなアビスの光景を久しぶりに目の当たりにして一秒、立ち止まる。しかしその一秒後には歩き出す。絶景に目をくれている暇はなかった。
アビスを歩む速さで白笛に敵うものはまずいない。あなたはまだ蒼笛だった。
方角もよく把握できないままに、地上の光を目指して幹を踏み出す。
地臥せりたちやマルルクがあなたの脱走を告げても大した動揺を見せなかったオーゼンだったがその表情とは裏腹に、心中ではすでに原生生物や過酷な自然環境によって死んでいるのではないかと、わずかな心配の念も湧き上がっていた。
自分が見つける前に、あるいは、殺してしまう前に死なれては困るからだ。
重い腰を上げて不動卿が動く。
行動の前から結果は明白だった。
オーゼンから見るとずいぶんと小さなベッド。おそろしいほどに虚空な眼と冷たい手が、そこへあなたを縫いつけていた。
ぎしり。と鳴るスプリングの音が、ふたりの間に迸る沈黙を致死性の毒ガスに変貌させていく。それを吸わないようにするみたいに、あなたののどからは命乞いにも似た謝罪が垂れ流されている。なにを謝っているのかもわからないまま、オーゼンの顔を見ないようにと絶えず視線を移動させつづけていた。
「ご、ごめんなさい。ごめんなさい……」
「フー……私を尊敬してますって聞いたんだがねえ」
ため息ひとつで怯えて逃げ出そうとする肢体に卿はのしかかる。
あなたが初めてオーゼンに会ったとき、逆さ大樹から太い枝を選んで歩いて疲れ果てて監視基地にたどり着いたとき、たしかに彼女はそう言った。探窟家として長く伝説の一人に数えられる不動卿オーゼンを一目見られて、心からうれしそうな顔。
『オーゼンさん……ずっとお会いしたかったです。オーゼンさんのこと、すごく尊敬していて……』
いつまでもその表情が真っ黒い瞳孔に焼き付いていた。どんなときでもその少女は心のもっとも深いところにいた。どこにいてもそのすべてを支配する自分でいたかった。邪魔でかなわなかったが、消そうとも思わなかった。
きっとあなたはそうではないだろうことも、わかっていた。
あなたの手首の骨はぎりぎりのところで折れない。
しかしあなたがこれ以上拒絶するなら、もう指先を動かすことすらできなくなるだろう。オーゼンはあなたの手首をあの匣に放り込んで、命を宿し動き出すところを少し見てみたくなっていた。
「ご、ごめんなさい、っ、もうしません」
「そう言って私が離すと思ってるんだねー」
これからあなたが何を言っても、何をしても暗黒に向かっていくだろう。
しかし少女はその歩みを止める権利を有していない。
「うううう」
オーゼンにとって、あなたの双眸からほほへ丸く伝う涙が、ごく自然に輝いているのが不思議だった。霏霏として逆流するアビスの滝はあんなに濁っているのに。同じような探窟家の瞳に張られた光はあんなに狭いのに。どうしてあなただけが、負荷で歪んでいる脳みそにへばりつくのか。
オーゼンは落ちつづける涙を舐めてから、手首を解放してやる。
「……まあ……、でも私は優しいからさあ、手をちぎるのはよしてあげるよ」
「ふーっ、うう」
「折るだけだ」
オーゼンはすばやくあなたの両足首に手をかけると、ぎゅっと握る。
すると、たった一秒だけの動作で音が出るほど派手に骨が折れた。その音は嗚咽の中に一瞬安堵の息を吐いていたあなたの耳にも伝わる。感じたくない感覚とともに。
「っ、っ、っはあ、ああ、ああああッ」
それがわかると、だんだん痛みがやってくる。それに怯えるあなたの顔をオーゼンが楽しそうに覗きこむ。
「ッ!ああっ。ッひぎっあああああ!っうううう」
おかしな方向へひしゃげた足首を一瞬見てしまい、彼女は激痛の波にのまれる。視界が螺旋状につらなる。わんわんと頭まで響く耳鳴りがする。叫んで身動ぎをするたびに脳が焼ききれそうな痛みの洪水に沈んでは、意識だけで浮上する。させられる。
その様子を「はは」と笑うオーゼンの声色は、絶望のかたちによく似ていた。
脂汗や涙や洟を流して悶えるあなたのほほをオーゼンが撫でていると、あなたは吐いた。
その息は荒く、可哀想なほど青い顔色で喘鳴以外のなにも発さずにオーゼンを見ていた。
「こんなんで吐いてちゃアビスなんざ潜れないよ。キミ、蒼笛だよねえ」
薄笑いのままオーゼンの顔はどんどんあなたに近づいて、吐瀉物に切り刻まれた悲鳴を抑え込むようにして口づけた。
オーゼンの厚い舌が血色を失ったくちびるを割って這入り、唾液やその他を押しのけてつながる。ふたりの間ではぐぢゅぐちゅと、淫猥でありながら状況にそぐわない音が鳴っている。
あたたかなぬかるみが包むあなたのちいさな舌を食んだり、すこし噛んだりして遊ぶ。柔らかい脈動をつかんでは撫でる。ぬるぬるした液体が混じってはほどける。
しばらくそうしてあなたのほほの内側をゆるやかに征服し尽くすと、ようやくオーゼンは離れた。まだつながりあおうとする唾液の線を切って口を拭う。
「はは……きッたないなあ………」
あなたはぼわぼわとひずむ意識のなかで自分がどれだけ脆弱な生き物なのか理解した。アビスの原生生物よりも警戒すべき強大な存在がいるということ。そしてその人間が、誰よりも自分に執着しているのだということを。やっと理解できた。そして眠るというよりは猟奇的に、意識の糸を手放した。
・・・
オーゼンは部屋を出ると、ぶっきらぼうな口調でマルルクに手当てを頼んだ。足は変色していたが、手当てがしやすいようにとオーゼンなりの丁寧さで折られていたようだった。
口許をぐちゃぐちゃに汚して目を瞑っているあなたの姿を見て、マルルクは「これからもここで、よろしくお願いしますね」とささやき、服や体をきれいにする準備をはじめた。