そのほか
おなまえ
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あなたの前で笑顔になってみたくて私は鏡に牙を見せている。
人間には生えていない牙を、世界の誰にでもなく見せている。
そうするだけで、もとよりひとりぼっちだったのが、もっと独りに感じる。心許なく暗い照明の不健康に緑な白色、私以外を映さない一途な鏡面の水平線、人間ではない私という、壊れた直情径行のお姫様。
笑う私の顔は、とても、変だ。悲しくなるほどに。泣いたらもっと変になるので、そうしないよう堪えるけれど。
緑の眼が強い重力につぶされたみたいに歪んで、胸の内までつぶされる。陰翳が、さも私のためにあるみたいに深く刻まれすぎていて絵画にもなりきれない。左右非対称の鏡写し。
変。もしかしたら、私の顔がうれしい・楽しい気持ちに慣れていないのかしら。それとも心が?
「……それならどうして生まれてきたの?」
どうしてこんなに恋をしているの。
「う」
苦しい苦しい苦しい。あなたが絞めているのなら許せるのに、そうじゃない。私が自分で絞めているだけ。誰に見向きもされないくだらない患いに、毎夜浸っている。最後に吐いた息はどこか泣いていて、もうたくさんって気分になる。
妬ましくて叫ぶ。妬ましくて叫ぶと唇が裂けて血が出る。妬ましくて手を握りこむ。妬ましくて手を握りこむとささくれた指が痛む。妬ましくて髪をかき乱す。妬ましくて髪をかき乱すとぼさぼさの毛がちくちく刺さって不快。
あなたがそばにいるだけで、そのすべてが解決するのに。
あなたがキスしてくれれば、あなたが手を握ってくれれば、あなたが髪を撫でてくれれば、私はちゃんとした顔で笑えるかもしれないのに。
どこにいるの?
いま誰といるの?
あなた、誰のことを見ているの?
あなたが恋しているものすべてに嫉妬しておかしくなる。仮定や妄想がもたらすのは厄災だけ。いや、私はとっくにおかしくなっている、鏡の前で笑顔の練習だなんて、ふつうの人間ならやらないことだもの。
あなたの見上げる満月が私より輝いていなければ。あなたの浴びる陽光が私より暖かくなければ。あなたの私を想う気持ちが私より気持ち悪ければ。私が暗く冷たいまま変わらなくても、あなたがこの私のまま受け入れてくれさえすれば、私、私は、私の、
「………あなた」
「好き……に、ならなければ………」
「ううう」
あしたあなたに会えたら私はうれしくて死んでしまいそう。もしもそうやってあなたの目の前で死んだら、それからのあなたの人生全部を歪められる気がして、それすらもうれしくてもう一度死んでしまいそうだよ。
「ふふ。」
私は鏡を見るのをやめ、人間ぶるように首をちぢこめて、あなたの笑顔を思い出す。
なんてきれいなのだろう。胸の中にひろがるすべての心を掻きむしっても、涙が出るほど痛くない。歯がゆいような、変になっちゃうような、ふさいだかすり傷の跡から血が逆流してあふれ出るような、あなたは、私だけに振り下ろされるやわらかな星の光。
「あなた」
私はあなたの記憶に残る私にすら嫉妬している。あなたが呼ぶ私の名前にすら。
私は美しくなどないのに、美しいあなたの声に呼ばれるだけで、私も美しい存在なのだと勘違いをしてしまいそうになるの。馬鹿でしょう。馬鹿だと言っても許すから、早く会いたいよ。
「あなた、あなた、あなた」
あなたから生まれる衣擦れの音や吐息のひとかけらになれないので、愚かな私以外に成れない私は妬ましくて、あなたがなにかするたびにため息をついてしまう。あなたが排出する排除する排斥するすべてにすら、私は虹色を見ている。緑のない虹。
愛している。妬んでいる。愛してる。私のほうだけを見て。こんなところを見ないで。愛してる。私にとびきり優しくしてね。私なんかに優しくしてはだめよ。ほとんど恨めしいくらいに、私は、あなたが大好きです。
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