そのほか
おなまえ
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この世に逃げ場がないのはもうおわかりですよね。だって地球はそのために球いのだし、そのために回っているのだから。私がいくらばたばたと駆け逃げだしても、このあわれな天体一号機が回っているおかげで、一歩も進めないでいるのです。そして、あなたに届かないでいる。指先の爪先でさえも許されない圧倒的な検閲と墨汁の夜が、私の心という心をまたもや沈めようと襲い掛かってくる。
いつか手に入れたきらきらなボールペンはもうぼろぼろになっている。インクもかすれて、書き心地もすっかり悪くなってしまった。つ―――――――――――――・・・―――・・・と線を伸ばし続けていると、もう机の端にきてしまった。私が地球の表面にこの線を伸ばしていたなら、これは立ち止まることなくあなたの居場所を指し示しただろうに。羅針盤のように。飛ぶ妖精跡を汚さずのように。手指に飛んだ精液のように。
ああ、私、無欲に生まれてきたかっただけなのに。可哀想に。そうあわれんで膝枕をしてくれる女神の姿をひたすら畳の端に幻視していると、頭をぶつけた。
それにしたって、あなたを想わない日がないようにこの世から消えたいと思わない日がないのですが、それはあなたを想っているからこの世から消えたいのか、この世から消えたいからあなたを想っているのか。きっと誰にとっても関心のないこの
もしあなたもこの世から消えたいと思っていたのなら、この問題はひどく単純になるのですが、そうもいかないらしい。
なぜならこの世は希望で満ち溢れているから。晴れの空を希望と思って享受している人間に私はならないだろうけど、そんな人々に私はあこがれ続けるだろう。そして真夜中の天気予報に意味を見出せないでいる。曇の日が待ち遠しい。灰色に渦巻いた雲の上を想像したくない。この世なんかが晴れているのだから、天国は死ぬほど快晴だろう。
このあたりの時間になると、頭を殴られるような衝撃がただほしくなる。深夜というのは魔性の時間で、あなたの落としたボールペンに欲情してしまえるほど気のちがった余剰が生まれる危険な時間なのだ。
口付けを。せめてあなたのうなじの香りを。私の記憶に定着させる準備をください。人間失格だと。インクの切れたこのペンで私の頬の端に、そう高尚な落書きをしてください。
ああ、眠りたくない、眠るときょうが終わってしまうから。当然ながら、あしたも晴れ。
私を苦しめるための地球で、私は苦しむ。苦しむような声をあげながら、もはや愉しむ。望むのなら、まだ知らないあなたのてのひらのやわらかさぽっちで、お望みどおりに壊れますとも。だからそのために、トラウマをください。私をとんでもない目にあわせて、生まれてくるという選択ができなくなるほどにきつく。あなたのなにかで、あなたを構成するなにかで、私を死なせてほしいのです。
ああ明日死んだらどうしよう。死んだらどこへいくのだろう。この余剰一間だったとしたら、どうしよう。死んであなたの髪のすきまに一輪咲く花にでもなれたら、端の多い人生も多少は報われるか。途切れ途切れの線のあとを、わけもなく丸い爪でなぞる。あなたのいるどこかへ、私は夢を見たい。
五体満足の幻肢痛にうなされながら、まだ見ぬ朝日に、ただ、丸くなっておびえた。