そのほか
おなまえ
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理屈がラメにいろどられて夜のなかのわずかな光をいちいち拾う。偏光式に青や緑にも見える色の、もはや過剰包装ともとれるほどの乱反射は、あの日遠慮がちに私の眼鏡を貫通してきた光線によく似ていた。そして、その理屈は教育委員会によって統治され、一度は不純、不適切なものだとして厳重な監視下にあったものの、いま現在私の手元において、頭痛が痛い私の自室において、不可思議光線を放っている始末だ。寝転びながら、手を天国にかざす。
その光は圧倒的で、どこへつづくのかもわからない、いや頭のどこかではきっとわかっている。それは。そのさきは。そのさきを言語化するのにはいささか抵抗があった。
私はこんなではあるけれども一縷の希望、いや一介の教育者の端くれであって、それ以前に大人であるからだ。恋愛にうつつを抜かすのを美しい営みだと真実に思う自分であったなら、手早くもやい結びをできるようにと練習をして縄をいじくることもなかったろう。
これはたぶん私のこゝろです。
真っ暗い部屋は不健康を加速させ、さらなる疾患を引き起こす。それが定石なのだからそうに決まっている。昼間よりもさらに、旅立ちについて強く意識する。そして真っ暗い部屋が与える弊害はそれ以外にもある。恋が、胸に迫るようにしてやってくるのだ。意地悪をやってくるのだ。
なんと滑稽に悪辣に新鮮に憂鬱に、恋に踊らされる人間を表す言葉の画数に驚かされながらも、私の胸を満たしうるなにがしかを妄想しながら、絶望に叫びだしそうになるのをこらえていた。近所迷惑にならぬよう。
どうすればこのわだかまりをきちんと光へ昇華させることができるのか私にはほとほと分からない。目に慣れ始めた暗闇が親しみをもって侵食してくるのを追い払う。これに毒されてはしまいだ。だが暗闇の追い出し先を、光光線の進路を、私はまっすぐに指さすことができる。
「あなたさ………ん、んぐ。」
寝転んでいたのを、起き上がる。
「…………あぶ……ない。これは、あぶない…………」
そして自分のたてる衣擦れでかき消すようにして、静寂の独りごとに言い訳をする。咳ばらいをしても、自分の口からもれでた個人名の形と味は無残な跡になって、なかなか消えない。口にしまいとしていたのに、いたいけな努力は泥水の泡と化してあまつさえ思い悩む私の心へ茶色い足跡を残していった。
誰にも聞かれていないのに、少し怖くなった。その証拠もないのに、窓辺。絶賛否両論の暗闇日和。
月すら聞いていない私の変てこな誤魔化しと、彼女のすてきな御名前が、どうにもとても不釣り合いだった。月のように輝いているあなたに、精神は絶望している。という主観で絶望している。絶望の絶望がさね、絶望添えです。つけあわせに、いっそ愛らしいほど未熟な恋慕心がついてきた。デザートに、愛らしいほど暗闇に似合う三角座りがついてきた。
光が心をつつんで光っている。危いのは、この世で本当に危いのは、文豪の死に方だけでいいのに。
………人間が死後どこかへいくとして、あなたはどこへいくのですか。そこへ私もついていって宜しいですか。いけませんか。わかりました。私はええ、地獄へいきますとも。救済の地獄へいきますとも、人間の学説どおりに………
……
気づけば私は思考循環のラメにまみれて眠ってしまい、窓辺は早朝に変貌していた。急いで風呂に入って、輪廻転生の有無に思いを馳せ、麻灰色の着物に袖を通し、ドアを開け、朝日に目を眇め、一日を絶望していく。