そのほか
おなまえ
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彼女は首を振った。
「僕を拒絶するんだ?」
「違う、拒絶……ではなくて、今は……」
「今は?今はなに?なにがあるの?僕にとってはきみ以外なにもない」
「今は、みんな戦って、」
聞きたくない。僕が質問を投げたはずなのにどんな返答も聞きたくない。聞こえない。痛い。苦しい。吐きそうだ。
「どうしてこんなに悲しいきもちにさせるの?なんで?僕のことがそんなに嫌いなの?」
「ちがう、レジェ」
「じゃあなんで!僕を拒絶するんだ!」
パン!と乾いた空気が、驚いたようにゆれる。
僕がぶった頬をおさえて、悲劇のヒロインはベッドの隅っこにくずおれた。この期に及んでもふかふかのシーツを地面に選んでしまうその無意識下のかわいさがとても愛しくて殺してしまいたくなる。
聖なるキュートアグレッションが鼓動に反応して爆裂する。
ああ、危ない。
……こんなにひどいことをしてるのに、楽しくておかしくなる。さっきまでの苦しみが全部、頭を心地よくしてくれる。今まで築き上げてきた信頼を壊す行為がこんなに簡単で、しかもその味は脳に染みわたる快楽物質によく似ているなんて。
たぶん知るべきではなかった娯楽的快感が背骨に突き刺さって、心臓を直接撫でる。わしづかむみたいに。恋をしたみたいに僕の胸は高鳴っていた。
「ほら。ほら。ははっ!ほら……」
良い香りのする髪を掴んで、何度も平手打ちをする。
肌と肌がぶつかるやわらかな衝撃と、手のひらに響く甘い痛みと、いま本当にいけないことをしているんだと波打つ動悸によって、どうにかなりそうで、もっと加害したくて、とても気分が良かった。
薄靄がかかったようにぼんやりとしていた劣情がヴェールから脱けだして、つるつるした表皮に僕の笑い顔が反射する。
「悲しいきもちになっちゃったよね……さっきの僕と同じ………」
「……ひっ、ひ、レジェ、……なんで、」
「……きみがされていやなことは僕にしないで。ね。」
きみが吸う用の空気を僕が全部奪いたい。そして、呼吸をしたくなるたびにおねがいしてほしい。「息をしたいから、私に空気をください」「助けてください」と。もし僕の機嫌を損ねて空気が与えられなければ死んでしまうのだから、あなたはきっと必死に甘えておねがいしてくれるだろう。僕の望むことをかなえようと頑張ってくれるだろう。
喉をおさえつけるその苦しさは僕の手のひらのかたちをして、ふたりきりの世界へと確実に押しこめて引きずり込むはずだ。
だってきみは、生きて、救って、僕のような馬鹿な男を勘違いさせて、愛されなければならないんだから。だから「レジェじゃないといけない」と………たくさん言ってくれるだろう。
「きちんと言うことをきいてくれれば、怖いのも痛いのもしないよ」
「気持ちいいのだけ、しよう。ね?」
髪を掴むのをやめて、さらさらと整えてやる。そうしたらもう、何も起こらなかったみたいにいつものあなたに戻った。また、少し苦しい。
「わかった?………」
彼女は僕の言葉に黙り込んだままだ。いつも聡明な彼女が、今の一瞬だけは感情を涙の張った瞳に投影することなく、僕を透かしてどこか、明るい未来を夢想している気がした。
「……わからないの? まだ?」
「もう、レジェ、もう、やめてください……やめて、……」
ああ。僕が思ったよりこの子は愚直で、まだまだ馬鹿なんだ。その甘くてやさしい綺麗ごとでできた心には、まだ教育が必要なんだ。そして教育者は僕なんだ。僕だけにしかできない。上手なおねがいができるようになるまで、ちゃんとした躾が必要だ。
いまだに手のひらに残っている体温と軽い響きを甘く反芻しながら、ただ濃くなっていく欲求をにぎりしめた。