そのほか
おなまえ
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影になってあたたかな音の中につつまれる。清潔な、血のにおいなどしない白い掛布団の中にくるまれて眠る貴方はあまりにも健康だ。健全だ。不完全で、美しすぎる。
「またそうやって勝手に、悪夢を見ているのですか?」
地球を壊す私。地球を壊さない貴方。
そのために誰かを殺す私。そのために何かを殺す貴方。美しい。
簡単に生命の潤みを飲む喉が美しい。
見送る貴方が何より美しい。……
静寂を装った何人もの気配の中に、拙僧のため息が漂った。
「拙僧のいない悪夢を?……」
健康色をした瞼をじっと見る。うっすらと血管が透けている。白昼にはびこる青空のような血の管だ。
憎い。
吹きだす虹色を空想する。
私は赤子の首をひねるように容易にそれを実現できるけれども、爪の先からわけのわからない甘いにおいが漂っているせいであなた。貴方を傷つけることがわずかに難しい。
その目蓋さえ開けば安寧の暗黒へ身を委ねられるのに。
暗黒は呪いのように安心する色だ。どんな花も芽吹かない沈黙の音楽。私と、おそらくは貴方にもっとも似合う淵。行きたいと思える唯一の場所をめぐる手紙。
その瞳孔のきらめきは世界を丸く救ってしまって、嫌われることも愛されることも恐れていない。あなた、あなた、あなたという御名前に憎しみよりも新鮮な鼓動の響きを感じる。
口の中を洗いなおすようにして口遊むと、拙僧と悪夢の中で遊んでくださる貴方の姿が浮かぶようです。だから泣いてしまいそうです、此処に貴方がいないから。
飴玉を噛み砕くよりも簡単な問題は早く壊してしまいたいと思う。せっかち症の患いが日に日に強くなっている。貴方を抱き締めてぶち壊してしまいたいと強く思う。
体温のある約束だけをしましょう。
ぬかるんだ貴方の目玉に映ってゆがんでいる自分を見るといつも馬鹿らしくなるのだ。人間のように目をつむって追憶していたのを、少しうんざりして止める。貴方を抱き締めたらぶち壊れてしまうのは私のほうなのではないかと思う。
「次は拙僧も誘ってください?」
「ええ……吉夢でも………構いませんので」
どうしてくれるのです。私をこんなにして。腑抜けの間抜けに堕としてしまって。貴方は悪い人なので責任など取ってくれないだろう。ぽたりぽたりと滴る声が人くさくて酔ってしまいそうだった。
「……貴方は………」
・・・
私の侵入に気付いたらしい何人かの信奉者が立てる足音で、胸のあたりがさっと冷えていくのを感じた。
「ンン……もう時間のようですが……」
だから人間が最後に思い出を遺すときのように、私は貴方の身体にぴったりと寄り添うことにした。
矮小な命の在り処が、その小さな身体のどこにあるかはっきりとわかる。もうほとんど、手にそれを握らされている。息を。脈を。眠るあなたは今まで殺してきた誰よりもモノのようだった。自分が高揚しているのが分かる。深い呼吸をひとつすると、肺の中が感情で焼け爛れそうに痛んだ。
ああ。最初からこうしていればよかった。……
たったの一秒を味わいつくした私は、くだらない後悔のような、つまらない逡巡のようなものに身をやつしながら、暗闇をすりぬけて部屋から消え失せてしまった。