ケンガンアシュラ
おなまえ
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夏より暗くなるのがはやいので、俺たち早く帰らなきゃ。
ありふれたデートのありふれた帰り道は、膨張した夜にすこし押されている。夜は危ない。暗くなると、なんだか嫌なことを考えるすき間が頭にできるから、危ないのだ。
そういうことばかり考えていると、ぐるぐるながんじがらめのチョコがけドーナッツになってしまいそうになる。そして、俺がいつも考えているのはきみのことばかりだよ。
そう、まあ、きみが嫌だっていうんじゃなくて、きみをマルマルしたい俺に嫌気がさすだけの話。
「なんかさ、なあんか、涼しくなってきたよなー」
「もう暗いからね」
歩くスピードを、気づかれないくらいちょっとだけ落とす。暗くなるのがはやいので早く帰らきゃならないのに、わざとゆっくりにする。
「ちょっと寒いかも、手つないでい?」
「いいよ」
「ありがと」
日の沈みかけは特に危ない。さわりたくなる。甘えたくなる。チューしたくなる。手どころか、身体じゅうに絡みついて、どっかに連れて行きたくなる。閉じ込めたくなる。
そんなことしたら、たぶん俺たちは終わる。
そういうつまらない破滅なんかじゃなくて、性善説にのっとった終わり方をしたいのに。俺たちって、いわゆるハッピーエンドにたどりつくまでには、きっとなんか、邪魔者が多すぎるね。
壊れなければそばにいられない関係なら、壊してしまいたいとすら思いつつある。なにを壊すかは、だれにも秘密のままで。
きのう殺したひとの顔はあまり覚えていない。あした会うきみのことで頭がいっぱいだったから。きっとあしたも、きょう会ったきみのことで頭をいっぱいにしてしまうのだろう。
一日千秋というか四面楚歌というか、なんというかきみに夢中だ。
ああもう週末がきて、週末がくれば年末、年末のつぎは終末で、黄昏を過ぎた空の紫色が、どことなく誘惑的に気持ちを沈ませる。きみの帰る場所を奪いたい。きみを帰る場所に帰すぼんやりな光。
これから夜に落ちていくためだけに存在するあわれな夕暮れに、俺たちふたりのつながった影がぼんやり映えている。ああ、世界ってすごく牢屋だ。髪の毛をどれほど伸ばしても届かないはずの空が、壁と天井に見える。
それは俺のなかで、
頭痛い。どうしようもないな。
きょうきみと会うまでに捨てておくべきだった感情が、ぐるぐるな輪になって無限ドーナッツの無間地獄……俺の真ん中に穴が開いて、よけいなことまでこぼれて、きみに見られてしまう。
「ねえねえ、………」
「うん?」
「ねえ、どっかいかないでね」
「いかないよ」
春夏秋冬は全部別れの季節で、出会いの季節で、お願いごとの季節だ。俺の中の遠くに幽閉したはずの重たいやつらが、ぐるぐる渦巻いたままに喉をあがってくる。
祈るような俺の声は、簡単にきみの肯定に両断された。
だけどつないだ手だけはピクリと驚いたように反応していたのを、俺が感じ取れないはずもなかった。もし俺がふつうの人だったら、「うれしいな」って笑っていたところだけど。ほら、口ではなんとでも言えるんじゃん。
「ほんとに?」
「うん。いかない」
「死ぬまで?」
「うん」
夢に見た、変てこな押し問答。あなたちゃんは、ビミョーな顔。かつてないほどビミョー。俺がしつこく聞くから?じゃあ早く好きって言って正解してよ。思考の真っ黒いチョコを舐めて溶かして、真ん中じゃないとこまで穴だらけにして、俺をなくしてよ。
「そっか、ねえ、じゃあ……はは、あー。」
ここで殺してもいい?と言おうとしたけど、笑っちゃってやめた。というかごまかした。きみがうなずいたのは絶対、そういう意味じゃないってわかっている。きみはきっと、俺に殺されたら裏切られたって思って、悲しくなるんだって。俺がそう思わないとしても。
だって「死ぬまで」の本当の期限は、永遠であってほしい。不運なことでいま死んだとしても、好きを終わらせないでほしい。いつまででも俺を好きだよって、おばけになっても言ってほしいから。ねえ大好きだからさ、大好きを免罪符にさせて。
「好き」
「私も」
好きってちゃんと口に出してよ。俺、壊す前に壊れそう。この世界が牢屋だとしたら、いいことがひとつある。それは、強い力で壊せてしまうということ。そしてあなたちゃんも同じに、壊せてしまうということ。
ねえ、太陽が死んでいく。夕焼けがどろどろ落ちて、そしたら俺たちはどこからもいなくなるね。
きみの手に、したいことがぐるぐるに巻きついている。死体のことを忘れた
「じゃあさー、こんなつまんない世界、ふたりで抜けだそうよ……」
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