中編 白昼夢 (観音坂独歩)
おなまえ
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「……お風呂。入りますか。」
「いいんですか。」
おずおずと切り出すと、あなたさんは遠慮がちにほほ笑む。もうどちらも泣き止んで、目を真っ赤にはらしている。
「観音坂さん、お先に入っていていいですよ。」
「いや、俺は大丈夫ですよ」
不意に俺の脳裏をよぎるまたも卑しい妄想に強く瞬きする。ああ、ああ、俺は本当に、叱られなくちゃならないんだと思う。ずっと甘えていたいけど、このままじゃきっと、あなたさんをどうにかしてしまうかもしれない。
「では二人で入りましょうか。」
そしてまんまと二人で入浴してしまうことになった。
しかし何かあってはいけないので俺は自首する犯人のように手錠をかけられた体勢を維持している。それに加えて床や天井しか見ないと決めた。
「観音坂さん、そのポーズはなんですか?」
「はい……俺がやりました」
けして広くはない浴室は二人でいるだけでも精いっぱいという始末で、ましてや浴槽などに入ろうともなれば、それは……
「お背中お流ししましょうか」と言って悪戯そうに笑い声を上げるものだから、ついその方を向いてしまいそうになる。自分の手に爪を立てて耐えるが正直もう気が気じゃない。
「お、あ、遠慮しておきます」と詰まりながら返すと、また彼女は笑った。もう永遠に、俺はどぎまぎしていたい。
彼女が体や頭を洗っているうちは、俺はお湯につかっておくこととする。しゅわしゅわと泡のはじける音がしばらく響き、その間にも心臓が痛いほどうなり続けている。顔が熱々なのはうつむいていて湯気が直に顔に来るからだと言い訳を述べておこう。
俺は果たして、ここでまた同じように平然と体を洗ったりできるのだろうか。そして、一二三にそれを許すことができるのだろうか。
「…痛……」
ふと、ぽつり、あなたさんがつぶやいた。
俺は思わず立ち上がって、彼女のほうを向いてしまった。
「大丈夫ですか!」
ボディソープが傷にしみたのだろうか。俺がお風呂に入りますかなんて提案したから、あなたさんに痛い思いをさせてしまった。俺のせいだ。ぐつぐつと、自己嫌悪、とともに、今日はあなたさんの父に対する憎悪も湧き上がってくる。
「……だいじょうぶです。シャンプーが、目に入ってしまって。」
「あ、ああ…!そうでしたか、すみませ……」
俺は瞬時に胸をなでおろすが、二秒して、それが俺のためについてくれた嘘であることが分かった。
「あなたさん、お、俺には嘘をついてくれなくていいですから。」
思ったよりも冷たい口調になってしまっただろうか、と俺は内心焦る。ちらりと彼女のほうを盗み見ると、彼女も俺のほうを向いていたので驚いた。
「………はい。」
あなたさんはにっこりと笑う。彼女は強いひとだ。俺なんかとは全然違う。だから俺が守るなんて偉そうなことは言えないが、願わくば彼女と、これからもずっといっしょにいろんなことを感じていきたいと思った。
「では、痛いので、やさしく観音坂さんが流してくれますか?」
「そぁっ、それはッ……うぐ……!」