中編 白昼夢 (観音坂独歩)
おなまえ
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彼女とはそうやってこの公園で何度か逢瀬をかさねて、次第にあなたさんのほうからも話をしてくれるようになっても、それでも、何度あっても、彼女の悲し気な笑顔は消えなかった。
しかし、次に会う約束の話をしている時だけは、なぜだかほんとうに明るく笑っている気がした。
あるとき、話が終わってしばしの沈黙が訪れた。ふたりで同じベンチに座って、同じ方向を向いてぼうっとしているが、俺の内心はあわただしかった。
もう別れてしまいそうな予感がしたからだ。
彼女は俺にとって精神安定のため話を聞いてくれる臨床心理士ではなく、れっきとした想い人だった。だがあなたさんの態度は一向にそれらしいものにはならなかった。最近のストレスを全部吐き出したなと確認すると、少しして「お開きにしましょうか」と切り出すのだ。
別れるとき彼女は毎回決まって「ではまた」とかではなく「さようなら」というのが、いやにさみしい。話が終わるどころじゃなく、そのまま、ぱったりといなくなってしまうかもしれないと、考えたくもないのに考えてしまう。
「好きです。」
だからなんでもない世間話を切り出すように、俺は彼女に想いを伝えた。
伝えたといっても、思っていたことがくちびるからぽろりと落っこちてしまったというだけで、今自分がなんという重大なことを言ってしまったのかという自覚は、五秒の間できていなかったように思う。
「あなたさんが、好きです」
その五秒が終わって、俺はようやく理解した。
自分が告白をしていて、それが恥ずかしいとか、そんなんじゃなく。
どれほどあなたさんが俺の生命維持に必要な存在であるかが。
しかしそういう時ですら俺の声は、怯えを無理に隠すように不安定で、立ち上がりかけた彼女がいなくなってしまうのを引き留めてすがるようにつかんだ手なんかは、もう目も当てられないほどぶるぶる震えて、手汗だってやっぱりびしょびしょにかいていたし、ああもう、本当に最悪の告白だった。
「わたしも、観音坂さんが好きです」
「あ、あ……!!」
胸の内側が、夏をはるかに凌駕するほどあつく燃えている。
いつもいやになる夏の青空が途端にとうめいに透き通って見えた。
視界のすべてがそれになったとき、これは夢かと疑りだす俺の手に、あなたさんの御手がかさなった。ふれている。
そう思うと、カッと胸から眼の裏っ側へ熱が移動して、じわりとその透明世界がにじみだし、俺の目からは涙がぼたぼたこぼれた。ずびずびと洟もすすり、こぼれて収まりがつかない涙をよれたスーツの袖で拭う。
そんなひどい醜態をさらす俺を見守ってくれる彼女の慈愛のまなざしは、この世の何よりも美しかった、視界こそぼやけていたがそれだけは鮮明な事実だ。