短編
おなまえ
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「せんせい」
毎日がとけてゆく。毎日の中で気づいてはいけないものがとけてゆく。きみの声だけでそれはあらわれる。夜に隠しておかなければならないのに、眠るようにどろどろにとけてゆく。きみにうまく話せないのは俺のせいじゃなくて、それが全部わるいのだ。
きょうは雨が降って、放課後の教室に夕焼けの橙が差すことはなかった。
あなたとは先生生徒の関係で、それは健全極まりなく、俺は正常な人間であるという自他からの評価からまったく逸れるようなことはしない。
俺は彼女のことを必ず名字で呼ぶし、彼女もいつも俺を「せんせい」と呼ぶ。このまま何も起きないなら、俺たちが結ばれることはないだろう。彼女が卒業し、俺はそれを笑顔で見送り、まあ、たまに同窓会なんかで会う機会はあるかもしれないが、そのころにはもう、このどろどろした恋情も、我が心中に埋め立てられていることだろう。
彼女に思いを寄せる男がいても、…きっと恋人ができても、俺は応援することができる。
それはきみが好きやから。
数学の授業で少し眠たそうな/かわいい絵を描く/走ることが苦手な/笑顔が誰よりも愛らしい/友達に恵まれた/ご両親にも愛されている/俺に気がつかない……あなたのことがほんとうに好きで、でも、俺は大人で、きみは子供。
だから俺は自分にきづかないふりをしていた。
『あなたちゃん、すきなひといる?』
「うん、わたしはね、2組の」
俺は虎になって野山を駆け兎を噛み殺し、そうしてふと、人間であった頃の記憶を思い出しては苦しむ。口許の血糊はぬぐえどぬぐえど、涙と汗とともに流れ、それなのに、眼下に広がる惨状によだれをぼたぼた垂らし、………………
「あなた。ずっとこうしたかった」
「せ、せんせい、何、なんで、」
俺は暗い教室にいた。虎も兎もそれの死体も幻だった。そこに野原の緑はなく、机のくすんだ木の色だけがあって、そこに血の赤はなく、教え子の生白い肢体だけがあって、ああ。俺がしていたのは恋なんかじゃなく執着だとはっきりわかった。
「あなたって呼んだんもはじめてか、あは、これからいっぱい呼んだるからな」
「い、いや、せんせい、」
「盧笙。やろ?」
もう縛られるのは止めにする。立場にも世間体にももう飽きたから。愛はなにもかも越えて成立するものらしいから、俺は、俺たちは間違ってなんかない。これからそれがはじまる。もう露呈してどうしようもない俺のどろどろのすべてを受け止めて、「な」