短編
おなまえ
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もう落ちた日の、冬の薄靄が紫にもえ あなたの瞳孔の真ん中に俺だけがうつっ
ている光景を、俺は永遠にこの眼に焼 て、空が落ちてくるほど近く灰色を広げて
いてその中へ吸い込まれてしまう位に いて鬱鬱としながら歌うように傷を開く
手は弄び、肌のなかみの色までぜんぶ 「あ」の声と凄惨の連鎖で手が悴んでいく。
見て。俺はあなたにしか服従しない。
あまくてあたたかいところにずっとい あなたにつけられた痕が世界に見つから
ないために、なんて、子供みたいにさ ない俺は大人というくだらない社会にと
けることもできずに、下手くそに息を らわれてしまう。さみしいよ、と俺の科
はく。信じない。こんなことをあなた 白が、嘘に聞こえてしまうだろう。命の音
の走らない、その、動悸が。 は知らない。知ろうともしない。
「俺だけを愛してくれ」と台詞をなぞ 目を閉じている間に、あなたがいなくな
る夢すら見たくない。身体じゅうに咲 ってしまえば、囚われた最低な気持ちに泣
く傷も救われるだろうか。悪魔の笑み いている欲望の、息の根を止めておけるの
に、ああ、あなたの為なら、狂える犬 に、鳴らない電話。人間は愛のせいでどう
にでも成り下がるさ。 も、なすすべがない。
彼女は女王で俺はしもべ。
「もっと触れてくれ。」
真実の意味だけがほしい。
伝わる分の温もりだけをたべて生きているのか否か。その解答がここで判明してしまうのだと思った。
ファイナル・オピニオンの理不尽なまでに正確な審判が、あなたという権能が、悪魔的に俺を依存の淵へ誘い込む。
あなたの体温がないと、うまく眠れない夜ばかりだ。
俺は嘘ばかりをついてきたから、神様がその仕返しをくれているのだろう。もう戻れないのだと心臓からの本音。お願いしますと希うようにあなたの足に口づけても、癒えないばかりか熱が増す。
「許してほしいんだ。」
それだけでいいから。どうにかなる前に救ってほしい。地獄から掬ってほしい。きみが、俺じゃない誰かにそうしていたように。
「あなたはもう、どうにかなってるよ、わたしの家まで来て…」
「悪いと思ってる、水曜日でもないのに来て、でも俺はこんな関係もう嫌なんだ」
俺の脳裏には、木曜の朝、俺の隣にいたはずの体温がすっかり失われている場面が何度も再上映している。
反芻しすぎてもう味もしない、凝り固まったただの塊になっても、俺はまだ喉の奥が締め付けられるようだったのだ。
俺は大きな鞄から札束を取り出した。
「ほら、金、あるだけのと、これからの稼ぎ全部で足りるか?もっと俺が身を売れればいいんだけど、もう二日寝てなくて、ハハ、俺って意外と体力がないみたいだ」
きみの一晩を買うのに2万だろ、きみの一生を買うのには、全然足りないかもしれないけど。俺が、人殺しをしたり、好きでもない奴にケツを売って稼いだ金、そんなの、価値がないかもしれないけど。
「……はは。」
あなたが笑うのは、いつぶりだろう。
相変わらず笑うのが下手なくせに、その笑顔はカワイイ。困っちまうぐらいきみが好きだ。あなたが笑うなら、死んでもいいよ。そう思って、がちゃりと開いた玄関扉に吸い込まれる。俺はこの散文詩のような日々が、やさしく終わっていくような気がした。