短編
おなまえ
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幸福は消極的であり、苦痛は積極的である。
どっかの哲学者の言葉だ。俺は今まさにその状況に、修羅場に置かれている。
俺の意見はいつだって間違っていた。まわりが正しいと肯定するだけで、俺自身は俺に納得なんてしていない。いつもいつも、俺は俺を否定していた。正しい人間でありたいとは思わなかったから。だからこそ暗殺稼業という仕事に就いたし、他人の美学を肯定することもしてこなかった。
はじめて、俺を否定したのはあなただった。あいつの声は、言葉は、驚くほど腑に落ちる。俺が間違っている、あいつが正しい。たとえまわりの誰がどう言おうとも、俺はあいつに納得していた。
あなたが好きだった。幸福だったと思う。消極的でも、幸せだった。今でこそうつくしい思い出にしているが、あいつはどうだっただろうか。
もしもこのままここに留まって、無能な警察共が来たら、俺はどうしたらいいのだろう。白のカーテンに月光がふるえる。俺の指先みたいに。
おまえのことを知ってから、俺は俺でなくなったのだ。
だから殺した。それだけ。
嗚呼、そう、ショーペンハウアー。
殺したらきっと俺たちは美しくなれると思ったんだ。綺麗にわらうあいつみたいに、俺だって綺麗に笑えると、隣に居られると思ったんだ。
なぜ。なぜ。幸せに問えないのは。幸せが俺を苛むのは。
苦痛であるべきところが、積極的であるべきこころが、どうして幸せに浸るのか。
…もう戻れないのだと、そう理解できた暁には、あなたのことを
ゆっくりとゆっくりと、夜が明ける。
亡骸を抱き締めているのは可笑しいのか。死体と唇を重ねるのは可笑しいのか。
俺はもはや、正解など分からなくなってしまったようだから、おまえに言って欲しいんだ。愛してるってさ。
指先が月光をなぞる。須臾のあいだだけ、永遠に、ずっとこうしていてくれ。
ー
(最底辺にグッドバイ。)
おまえのせいで眠り方を忘れてしまった。