短編
おなまえ
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さっきまでうう、と唸りながら懸命に吐き気をこらえていたんだろう。顔色が限りなく悪く、発汗もひどい。ああ、愛してる。
「あなた。」
ちいさくなまえを呼ぶ。彼女は薄く瞼を開いて、俺を見つめた。心臓のうごくおとがする。あなたはすっかり体を震えさせて、俺から逃げ出そうとして這いつくばったまま四肢をばたばたさせる。
無駄なのに。
「あなた。何度言ったら解るんだ」
優しくなだめたつもりなのだが、どうしても目を見開かれて、化け物でも見たような顔をされる。心外だな。俺は看病をしているだけじゃあないか。大きな病気を抱えるきみを看病しているだけじゃあないか。
先ほどから気持ちが悪かったのだろう。俺を指す視線が途端に白い壁に移って、布団を握りしめて、必死に吐き気を我慢しているみたいだ。かわいい。どうしようもない彼女が愛しくてたまらない。
「ぅ、うう、う」
息だって荒くなって、肌がみるみる真っ青になっていく。俺が背中をさすろうと動くと、拒絶するみたいに大きく身体を逸らされる。ああ、そんなに嫌がらなくてもいいだろう。
「はい、深呼吸して」
できる限りの猫撫で声を喉から絞って、彼女を落ち着かせる。
あなたは俺の助言通りに大きく息を吸って、吐いた。この部屋にいる俺たちだけの空気を、肺に入れては出した。病院の無菌室みたいにどこも真っ白で、ずっといたら気が狂いそうな部屋に、俺はあなたを半強制的に寝かせている。
そろそろさっきの睡眠薬が効いてきたのだろう、呼吸も安定して、瞼が落ちてきている。ああ、ああ、なんて可愛らしいいきものなのだろう。
「おやすみ。」
俺はさっき飲んだばかりの薬の味がする唇を舐めて、スタンドを出現させた。スティッキィ・フィンガーズは、俺の意思通りに、思い通りに動いてくれる。たとえば、愛しい彼女の腹にジッパーを取り付けて、そのまま開いたとしても。誰もみたことのない彼女の内臓に、血の味のするキスをしたとしても。
俺とあなたを非難するものは、誰もいない。ここはまるでふたりのせかいだ。