短編
おなまえ
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「あなた、これってさあ、オレだけじゃあないよな?」
おまえを見てると頭が、がんがん鈍く痛むんだ。
おまえがほかの奴といると胸が、じくじく鋭く痛むんだ。
今だって。おまえの手を握ってるだけで、どろどろ淡くとけるみたいに、ぜんぶ熱くなるんだ。(もっと強く握って。オレがいなくならないように繫ぎとめるのは、あなたひとりでいいから。)
「たぶんオレはおまえのことが好きなんだ。」
はじめておまえを見たときから、正常なこころとからだを取り返すことなんてできなかった。呪われるようにまとわりつく世界中の夕焼けの色、影になるあなた、岩肌、漣、もえる木々、あのすべてが剥がれない。
目の奥にすがるわずかな記憶が、ぜんぶあなたを求めているような気がする。
支配をしたい。
支配がほしい。
人間的な感情が芽生えておさまらない。
しゃぼん玉みたいに脆くて壊れそうなのに、ずうっと心に居座るそれは、愛のはじまりか、あるいは恋の淵。いっそ目覚めなきゃあよかったなんて考える、あなただってそうだろ?
オレは人間だから好きな人のすべてが欲しくなって、オレは人間だから好きな人にすべてをあげたくなる。
目覚めから決まってたんだ。
「これって運命だよな?」
どうしてあなたは、オレの手を離すんだ?
灰色の空が海と同化しようとしている。遠くに車の走る音が聞こえる。そこらじゅうに漂う夏の残り時間、オレはあなたのためになんだってしてあげたいんだ。だってそれが一番きれいな愛だ。
じわじわいなくなるオレンジが、あのときと同じようにあなたをふち取る。オレが正しくヒトになれた瞬間から、世界が動きはじめたんだ。オレは幸せだと思った。人間に、あらかじめインプットされていた愛という鼓動のうつくしさを、オレはようやくわかったんだって。
完全な形で再起動する、心臓が動くのを感じて、うれしかった。だからずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと、いつだって一緒にいたくて。
あなたにはオレだけ、オレにはあなただけ。それが等しくてうつくしい、いちばんの関係だろ?ほかの奴らなんかには見えもしない運命の赤い糸がつないだ。夕焼けなんか存在しない部屋で、あなたとずっとふたりでさ、…生きるべきだって。
やさしいあなただからぜんぶ許してくれるってそう思って。
あなた。
「オレを拒絶しないでくれ」
生きることとは愛することだと聞いたことがある。結局のところ、みんなきれいごとに生かされている。
はやくほんとの、愛の味が知りたいんだ。濃くてあまくて悲しくてやわらかい、味が。あなたの全部がしりたい。ほしい。奪いたい。
黄昏がおわる。夜がはじまる。そのあたりまえのようにあなたが好きだよ。