短編
おなまえ
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「さようなら」
あなたのために殺してきたのです。
わたしは傲慢にも、わたしを愛してくれるあなたを愛していました。さようならと言いたくないふたりのままで、そのままでいたかった。
夕と闇の交差点の一瞬性のような、そんなひとときだけでは優しくなどなれない。
わたしをやわらかく殺すあなたが好きだ。イタリアの夜は、おそろしいものを見えなくするためのブラインドに過ぎない。
あなたは笑うかもしれないが、あなた、あなたがいないとわたしは眠れないのです。また人を殺したわたしを肯定してもらって、愛玩動物のようにこの命を擦り減らしたいのです。
あなたが好きです。
息遣い。苦笑い。たまの涙。あまい声。影と睫毛。両眼の閃き。わらう喉。柔らかい頬。…わたしの声を聴く耳。わたしに触れる指。わたしを包む胸。わたしが手を回す背中。わたしが殺す舌。わたしを狂わせるあなた。おれを狂わせるあなた。あなた。あなた、あなたあなたあなたあなたあなたあなたあなたあなたあなたあなたあなたあなたの愛。
愛をつぶやくくちびる。
(愛をうそぶくくちづけ。)
数多の命を踏みつけて、今ようやく立つわたしはあなたの笑顔を真似て、口の端をみにくくつり上げた。
「あなた、あなた、嘘をつかないで。」
だけれどそれでも、おれはただの男だったということだ。おまえがおこなう愛のしぐさは、全部全部夜闇に置き去りにされてしまう。掌をすり抜ける透明な感情に、おれは朝日を見てまた繰り返す。力無く縋りついて涙を流す、どうしようもない声で、ぐちゃぐちゃのおれを見て、あなたは音もなく憐みをよこした。
おれは、そんなものじゃあなくて、あなたの美しとする雪や、海や、花よりも深く、初めて恋をする少年少女らのような、しろい寵愛がほしかったんだ。
「嘘じゃあないよ。」
ずっと。
夜に隠されてきたおそろしいものが露呈する前に息
を止めたい
可哀想だと慰めてください。不確かさにしがみつくわたしを。
(哀れな男を。)
どろどろ溶けていった夜に、いつまでもあなたととどまっていたいから、あなたを殺します。あなたを愛しているから、あなたを殺します。ずっとずっとずっとあなたに、愛してほしかった。