短編
おなまえ
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あなたといるときは眠りたくないなあ。できるなら、瞬きもしたくない。ずっとおれのめだまの中にいてほしい。ずっと捕らわれていてほしい。
おれはとっくに、彼女に征服されている。
左右の耳を行き交う雑踏よりも、あのこの呼吸音だけを知りたい。
したい。にまみれている。
あなたと一緒のこの瞬間すらもう思い出になっていく。瞬きごとに過去を生んで、やがてそれは置きっぱなしになる。埃をかぶる。ばいばいって言って目を逸らす。それが怖くてたまらない。
まわる。ぐるぐる絡まった。
焼き付けておきたいから。
初雪の降る朝。通学路に踏みつけられた桜。海の水面の乱反射。街に帰っていく夕陽。あなたの笑った顔。その髪と肌色の対極のへだたり。薫る風に靡くスカート。やがてゴミになる制服。夜にとけたふたりのこども。
どんなドラマより劇的に。
それが悲劇か喜劇かはおれが決める。
「仗助くん、ばいばい」
「……おれ、嫌だ。」
あなたが振る手を掴んだ。
「帰んないでさ、どっかいこう」
返事は聞かなかった。いつもみたいに手を繋いで指を絡めて、だれも知らない場所に行きたかった。逃げるように、歩く、歩く。
「痛いよ、仗助くん」
ふと、あなたが足を止めた。おそろしいほど静寂だった。おれも脆弱だった。あなたが帰ろうとしてるんだ。
きっと、彼女はおれのことを捕らえておこうなんて思ったこともないだろう。だけど違うんだ。
「絶対なんてない。一生そばにいるなんて不確実だ。こどものおれにはもどかしい。だから、好きだから、あなたを誰にも気づかれないとこに行きたいんだよ。」
おれはその絶対が欲しかった。
頭が痛い。あなたが泣いてる。だけどおれは歩みを止めない。
これも焼き付けなきゃならないから。世界中の感情をないまぜにしてもこんな気持ちにはならないだろう。心臓がうるさいほど鳴っている。
朝を桜を海を陽を通り過ぎておれたちは何処へ行くんだろう。知らない。だからそこへ行きたかった。
「あなた。目ぇあけて、みてて。」
楽園みたいなとこについたらさ、おれたちはお喋りして、キスをして、眠って、いっぱい楽しくなって笑って、それで…………