短編
おなまえ
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あなたの睫毛が少し下を向いてそうしたら、沈むような気もちで錯覚が起き、まったく水色の空はあなたを本の表紙かのように象るのです。革の装丁のきれいな本です。世界の誰も読んだことの無い本です。それはどこにも存在しない。
雨が降る夜に会いに行きたかったですけれど、ざあざあ、しとしと、あなたのことが滲んでしまっては困りますので、勘違いをしてしまっては困りますので、それが止まってから言うことにしましょう。
あ な たの
「こんばんは。今日は暑かったですね」
「…こ、こんばんは、そうですね。本当に」
あ あなた の
あなたの心臓を飲み込むときの喉の嚥下の動作、レコード盤の割れちまってもう聴けないかすれた音、目蓋を閉じて開けた瞬間にいなくなる人。総て何も無い。と思うのです。
ダンサー・イン・ザ・ダーク。エレベータ内の空調。無口。雨の一時停止。あなたがわたしの目を見て言うアイラブユー。いつかの楽しいこと。それで笑う誰か。
血の浴槽であなたと溺れた。あなたさんと呼吸が楽になってどこか遠い街へゆく。そういう夢。夢夢夢。
たべてしまいたいほどに。
「あ あ あ あ ああ… 助けてください。」
あなたの継ぎ接ぎの代わりの肢体にはもう飽き飽きで、いい加減にその本を読んでしまいたいのです。いくら時間がかかっても繋がら無い。無い愛。何にもならない真夜中の殺人。星も見えないところでわたしはひとりぽっちになった。
ばけものだけが見ています。
あなたの代わりの継ぎ接ぎ死体がわたしのことを見ています。
わたしのこの口がそれを話して、あなたのことを食べてしまうまで夜がぜんぶ明けてしまうまで、わたしはあなたのことを見て、愛を考えることになるでしょう。
この壁を壊してしまいたい。
たった一枚の壁に隔てられたあなたのことが心から好きです。隣にいるはずの403のあなた。とってもやさしいあなたのことが大好きです。たった一言の挨拶でわたしは罪におちました。
あなたのことならなんでも知っています。本当の空が灰色だからあなたとつながりたい。あなたのことを愛している。
それが言えたら良いのですけれど、わたしはどうにも、恥ずかしがりで勇気が有りませんので、ここからあなたのことを見ています。いつも。いつも。どこでも。
腐ったにおいのする暗い暗い部屋で一瞬のまばたきをして確かめていました。
あなたという呪いの実在を。きっとわたしのことを善い人だと認識している間違ったあなたを。
雨のなか夜のおく、矮小な世界であなたさんを想うたびにそれらが、おそろしいほどに、ふるえては明滅するのです。
…だからそれまではわたしを嫌いにならないで。