短編
おなまえ
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あなたのちいさな手に、ナイフが浮いて見える。それに重ねた俺の手もまた、彼女には似つかわしくないのだろう。
血液はとめどなく迸り、ナイフの柄を伝って俺たちの体にすら入り込んでくるようだ。不快極まりない。
これが彼女にとって、はじめての殺人だった。
あなたは優しくて可憐なひとだから、とても楽しいことではないだろう、が、………
ターゲットは息絶え絶えだが、まだ生への渇望が垣間見える。そう思ったと同時に、あなたの足首を血と泥でよごれた手で掴もうとした。
「………」
…俺はすぐにスタンドでそいつを殺し、ふるえるあなたの手からナイフを抜いて捨てる。路地裏に金属音が響く。乾き始めた返り血が彼女の肌に居残り続けるのが不愉快だ。
「ほら、俺を汚せ。」
できるだけやさしく身体を抱いて、手を回させる。
ああ、彼女が、俺の胸で泣いている……なぜだかそれが気持ちいい。ぐちゃ、と、俺たちの隙間で第三者の血がうごめくのを感じる。
俺のなかの器が、どろどろの溶液で満たされていく。身体を曲げて、あなたの首筋で息をする。彼女のあまいにおいと汗と血が混じって、呼吸のたびに俺のなかと一緒になってゆく。
すう、はあ、その音が、だんだん大きくなって、自分が興奮しているのが嫌なくらいわかった。
「リ、リゾットさん、なに、を、」
「……我慢してる。したいことを」
彼女の肌と唇が触れるほど近くで、ぼそぼそと喋る。だめだとわかっていても抱きしめる力が強くなってしまう。あなたの香りで脳みそがおかしくなっちまっているんだ。
口の中が唾液でいっぱいで、何もかも溢れだしそうで、俺はこの夜が恐ろしい。しかし愛おしい。
こんな執着を俺はしらない。
誰も知りえない。
「………、帰るか」
身体中が離れるのを拒んで震えている。虚偽ばかりの世界でまだ、この身は嘘に慣れていない。
かわいそうに、あなたは眉を下げて、泣きそうな表情だ。抱きしめあった沈黙の時間が、永遠であってほしかった。と、あなたも願っていればよかったのに。
真夜中をただ手を繋いで泳ぐ。こうでもしないと俺たちのつながりは無くなってしまう気がして恐かった。
また明日、おまえが殺人を犯す日。そのときにまた、俺が狂ってしまわないように抱きしめさせてくれ。
「したいこと」が満たされないままに、その香りだけで教育を。