短編
おなまえ
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消えない傷がわたしの核を埋めつくし、そしてそれがとうとう、融解してしまったように思う。
膿のような液が堰を切ってあふれだし呑まれる、かと思えば、わたしを呑んでいるのはきみという人だった。
支配してしまいたい。そう感じた時点で支配されている。
思い通りにならないあなたが憎く愛らしい。
「こうされるのが好きだっただろう?」
抵抗する彼女の身体を押し倒し、覆い隠す。世界のだれにも見つからないようにふたりが闇に溶けこむ。
彼女の器をなぞるように触れた。頬を撫ぜて、首にくちびるを押し付ける。それが許されるのは世界でわたしだけでなくてはいけなかった。
(ああ、あなたの、あまい、におい………狂ってしまいそうだ。)
鼻腔から脳みその奥まで、また彼女の痕跡が上書きされる。ふうふうと息が荒くなり、わたしの指が同一化を求めてあなたのちいさい手をしまい込んだ。
電気もつけていない部屋に月あかりが差し込んでいる。やわらかい光だけが救いのように降ってくるのだ。
だからこのなかへ落ちて、赦されようと思った。罪を。天国へゆくその道導を。
「そのさようならを聞くのはわたしじゃあない。」
彼女をさわるわたしの手は分不相応だ。わるいばけものと美しい姫そのものだ。だがそのばけものはヒトの心に取り憑いて愛を喰らう。
あなたの体温がわたしをとろかし、そそのかし、キスのあたたかい安堵と疑心暗鬼と、興奮とが、どうしようもなくおとしめてゆく。
「あなた。……愛しているから、」
きみの内側。誰も知らない肉色の。炎よりも熱い!わたしたちはまた融けるのだ。
…この温度がもうどこにも行かないで欲しい。彼女の唇が切れて、ぼんやりと血の味。その味を忘れることは永遠にない。
…。あなたが泣いている。あなたがうしなわれてゆく。流れて消えて掴めなくなってしまう、のが、悲しくてたまらない。
そうさせているのがわたしだとしても。
愛しているから。その続きはきみを縛り殺すだろう。
ぐちゃぐちゃになったきみのついた、わたしから離れないという嘘がまだ、まだ夜を廻っている。
(赤、青、緑の順で色が消え失せる。いち、にい、さんの声で次に、きみのまぶたが帷を下ろす。)