短編
おなまえ
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あなたはとってもいいこ。誰にでも優しくて、真面目で、笑顔がかわいい。目を合わせて、手をつないだり、抱きしめあったり、……恋の話をしたり。
いつだって笑い合って至って平和。あたしはあなたには、絶対優しくするの。あなたは、あたしのいいこ。
だったけど。
「わたし、好きな人ができたの」
だからずっと友達だよって言ったあなたの笑みが気持ち悪く見えた。
どこまでもおそろしい。弧を描くあのまなこの輪郭がついてくるみたいに、ぞくぞく、不安な気持ち。
嫌。嫌。嫌。いやだ。
あたしだけのあなたでいてよ。嘘、だめ、そんなことしちゃいけない、の、に、あ、ああ、これって愛ってことなの?
「ち、ちがうよ、徐倫ちゃん、わたしは、」
この世で一番わるいキスをした。あたしとの共通項が生まれて死んでゆく。つまさきから腐ってゆく。唾液どうしがとけあって、べたべたになっても構わなかった。
あなたと息が混ざってそれのせいで生きてる今が、すっごく動いてるあたしの心臓が嫌でたまらない。それなのにやめられないで、呼吸と、彼女のかわいい声だけが頭じゅうに響いていた。
あなたに馬乗りになったあたしは、結局どうにもならないままだった。あたしの口紅が彼女のくちびるを染めきったのを、見下ろしていた。
「…あたしは、あたしだって、好きで恋なんかしたわけない。こんな気持ちになりたくなかったから、だって、どうせ、あなたのこと、あたしだけが独り占めできるはずないから……!」
じわじわ熱くなる腹の底から、言わなくたって良いことがつらつら溢れ出てくる。ふと、あなたがあたしの頭をなでて、ゆっくり抱き締めてくれた。
あなたは泣いてるのに。あたしが泣かせたのに。あなたはきっと、自分を可哀想がるあたしに同情して抱き締めたんだ。だって手が震えてる。彼女はやさしいの。
解ってるのに、胸が勝手にどきどきしはじめる。
ガラスをさわるように、割れないように、あなたを抱きしめ返す。ふたりでまだ、全部から目を逸らしたままで、とけていたかった。
「……ごめん。」「謝らないで」
「だ、だけど、わたし、徐倫ちゃんのそばにいたいよ…」
「………嘘。」「嘘じゃないよ、」
あなたが、子供がするみたいにあたしの頬にキスをした。
「……好き。あたしあなたがずっと好きだったの。」
なんだか夢みたいにくらくらする。だけど夢みたいに忘れてしまわないように、離してしまわないように、今度は強くだきしめる。
「キスしていい?」
「………優しくしてね」
「…もちろん」
世界で一番ただしいキスをする。不意に、あたしの指先から糸がのびて、祝福するようにゆれながらあなたの指へ絡まった。
いいこじゃなくていいから、ずっとあたしだけのそばにいてほしいって、いまなら言える気がした。
いつだって笑い合って至って平和。あたしはあなたには、絶対優しくするの。あなたは、あたしのいいこ。
だったけど。
「わたし、好きな人ができたの」
だからずっと友達だよって言ったあなたの笑みが気持ち悪く見えた。
どこまでもおそろしい。弧を描くあのまなこの輪郭がついてくるみたいに、ぞくぞく、不安な気持ち。
嫌。嫌。嫌。いやだ。
あたしだけのあなたでいてよ。嘘、だめ、そんなことしちゃいけない、の、に、あ、ああ、これって愛ってことなの?
「ち、ちがうよ、徐倫ちゃん、わたしは、」
この世で一番わるいキスをした。あたしとの共通項が生まれて死んでゆく。つまさきから腐ってゆく。唾液どうしがとけあって、べたべたになっても構わなかった。
あなたと息が混ざってそれのせいで生きてる今が、すっごく動いてるあたしの心臓が嫌でたまらない。それなのにやめられないで、呼吸と、彼女のかわいい声だけが頭じゅうに響いていた。
あなたに馬乗りになったあたしは、結局どうにもならないままだった。あたしの口紅が彼女のくちびるを染めきったのを、見下ろしていた。
「…あたしは、あたしだって、好きで恋なんかしたわけない。こんな気持ちになりたくなかったから、だって、どうせ、あなたのこと、あたしだけが独り占めできるはずないから……!」
じわじわ熱くなる腹の底から、言わなくたって良いことがつらつら溢れ出てくる。ふと、あなたがあたしの頭をなでて、ゆっくり抱き締めてくれた。
あなたは泣いてるのに。あたしが泣かせたのに。あなたはきっと、自分を可哀想がるあたしに同情して抱き締めたんだ。だって手が震えてる。彼女はやさしいの。
解ってるのに、胸が勝手にどきどきしはじめる。
ガラスをさわるように、割れないように、あなたを抱きしめ返す。ふたりでまだ、全部から目を逸らしたままで、とけていたかった。
「……ごめん。」「謝らないで」
「だ、だけど、わたし、徐倫ちゃんのそばにいたいよ…」
「………嘘。」「嘘じゃないよ、」
あなたが、子供がするみたいにあたしの頬にキスをした。
「……好き。あたしあなたがずっと好きだったの。」
なんだか夢みたいにくらくらする。だけど夢みたいに忘れてしまわないように、離してしまわないように、今度は強くだきしめる。
「キスしていい?」
「………優しくしてね」
「…もちろん」
世界で一番ただしいキスをする。不意に、あたしの指先から糸がのびて、祝福するようにゆれながらあなたの指へ絡まった。
いいこじゃなくていいから、ずっとあたしだけのそばにいてほしいって、いまなら言える気がした。