短編
おなまえ
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それはパラダイムシフト。
おれのこれまで築き上げてきた経歴・思想・価値観もろもろすべてが、弱々しいおまえのパンチたった一発で崩れ去っていった!それは最早修復不可能だ。破片が散らばって、何もわかっていないあなたの履くヒールに踏み潰された。
「ギアッチョ。」
「あなた。」
ああ、俺、あなたの匂いが好きだったんだな。おまえが歩くたびにはらはら花が散るみたいに、やさしいあまい匂いがいつも、俺の頭をくらくらおかしくさせてた。
その酩酊が愛だと、勘違いしたまでのことか。
(……その香水、誰のためにつけ始めたんだよ?)
「………………」
「あなた。」
心にも無いおめでとうと、望んでいた一般的で退廃的な幸せを目の当たりにした。させられた。もう滅茶苦茶だった。内臓をいじくりまわされるような際限なしの不快が、俺を絶えず襲い続けていた。
あなたとの出会いをふと思い出して、指でなぞったりして、いたはずだったのにそれはもう、違うだれかが塗り替えてしまうんだと思った。
生活に組み込まれたあなたという項を、どうやって消そうか俺は悩んでいた。裏腹に、薬指の指輪がうつろにきらめくたびに、細胞のすべてへとより深くあなたの名前は刻まれていく。
薄ら寒い雰囲気の中で、死んだ目で拍手した日。その日に殺された恋がゾンビになって甦った。
それで気温が下がった。
全員が凍結して、俺は白い息を、ため息をついて、頭をかきむしる。一番上まで締め切ったボタンをブチブチ開けた。
もう自分が、悲しいのか、怒っているのか、あなたが好きなのか、憎いのか、なぜ今泣きそうなのかもわからなくなっていた。
薄氷にくるまれたなら、もうその花は枯れきってしまう。冷気のヴェールに隠された白い顔に、唇にくちづける。
だれもいない教会、だれもいない世界。がらんどうの中で、ああ……もうなんの匂いもしねえ。
ドレス姿が、くるおしいほどよく似合っていた。永遠に。永遠に。