シレーナ

水の国には、とある廃墟があった。
昔は賑わう商業施設だったであろうこの土地は、時代の変化で客足は途絶え今はこの有様だ。
汐風に打たれ、古ぼけた建物は今にも潰れそうだった。
そんな廃墟から似つかわしくない声が聞こえてきたのだった。

「ほんっとうに、この田舎臭くて水しか取り柄がないような島はうんざり。希少価値の高いペルラ・シレーナ。人魚の身体の一部から作っただなんて伝承は気色悪いけど、、やっぱり欲しいわ!」

机上を荒々しく叩く赤髪の女は血眼にして言い放った。彼女の熱量とは打って変わって気だるそうに見つめるメガネの男と、そんな彼女をふんと鼻で笑っている金髪の男がいた。


「めんどい」

「また金の話してるびょん」


2人の反応を見て、気に入らなかったらしい赤髪の女は更に声を張り上げた。

「あったりまえじゃない!それが手に入れば大富豪も間違いなし。何なら真珠じゃなくて原料の人魚でも良いけど」

「ひゃっはー、無理無理。ぜってーいるわけないびょん」

「ふん、犬にはロマンってものがないのかしら。」

「人魚が美味いなら話は別らびょん」

「食べるわけ?!キモくて無理無理!」

2人は周りも気にせず、キーキーと声を荒げて言い争いを始めたのだった。
もう1人の男は、仲介するでもなく言い争う2人を気だるそうに見つめ、メガネをくいと持ち上げたのだった。

赤髪の女が言ったペルラ・シレーナとは、昔から言い伝えられているこの「水の国」に存在する「人魚」の涙から作られたという美しい真珠のことだった。

だが、人魚がいるかどうかも不確実な故、その特別な真珠を見た者がいるかどうかも不明だった。
伝承では、一般的な真珠よりも粒が大きくこの島を囲む海と同様クリスタブルーに輝くそうだ。
そんな真珠を偽造する者もいたが、すぐに偽物であることがバレて捕まった輩は少なくはない。
なぜなら、人工的に作られた真珠はその伝承通りに輝きを見せないからだった。

「ほんと、食べることしか考えてないんだから!真珠を探すの手伝いなさいよ」

「いやだぴょん、M・Mと違ってそんなもん追っかける暇はないびょん」

いまだに彼らの言い争いは続いていた。
御伽話の領域でもある人魚や真珠を発端に、大の大人が言い争うのは滑稽であった。
痺れを切らしたのか、今思い出したのか、さっきまでずっと黙っていたもう1人の男が口を開いた。


「、、そういえば」

とても小さくか細い声だったが、言い争っていた2人にも聞こえたらしく会話を止め、気だるそうにしている男の方をみた。



「骸様が言ってた。捕まったらしいよ。人魚」

3/5ページ
スキ