シレーナ

ここは島国だ。
島全体を囲っている、クリスタルブルーに染まった海はとても美しかった。
また、海産物は豊富で水は美味しく、島中にも川や池が多かった。
「干ばつ」という言葉には一生縁がないと言ったらそうかもしれない。実際に、今までこの国での水不足が起こったことは一度もなかった。
水とゆかり深いこの島は他国からは「海の国」と言われているほどだ。
それからもう一つ、その呼び名がついた理由がある。
ここには、人魚がいると噂で有名だ。
実際に見た者がいるかどうかも不明であるが、古くから人魚がいると噂されており、その人魚を一目見ようと、他国からの観光客も後を絶たなかった。

だが、その噂も噂ではなくなってしまったのだった。


ーーーーー


「1億」

「1億5000万」

「1億7000万」


私の目の前には、血眼になって競り上げている人間達がいた。
辺りは薄暗くて、ここに何人いるかも分からない。そこまで広くもなさそうな建物の中に、ぎゅうぎゅうになって入り込んでいる光景が広がっている。
私は海の中にいたはずだった。だが、人間がいるということはここは陸地であって、今は小さな水槽の中に入れられているようだった。
私は、いつの間にか彼らの「商品」になっていたのだった。

「10億」

「12億」

私の気持ちを他所に、どんどん競り上げられている金額に眩暈がしそうだった。
もう一度目を閉じて、考えた。

私は、私は確か、海の中に落ちてきた小さな子供を助けたはずだった。
その子を助けて、陸に近づいて、、、

あぁ、だからか。

その時私は、網をかけられてまんまと人間に捕まってしまった。

今思うと、人前に軽率に姿を現した自分の責任。自業自得だ。
溺れた子に罪はない。
むしろその子供が助かって本当に良かったと思っている。それに、人間に見つかったことを恨んでいるわけではない。

ほんの少し、昔を思い出してしまっただけ。
また、あの子に会えるんじゃないかって。

海で溺れている子を助けたのは今回で2度目だった。

だが、昔と違って今回は時期が悪かったらしい。
今は観光客や漁師も盛んに動く時期だった故に、多くの人目に晒されてしまった。

運が悪かった。

そう、それだけ。

だから、全部私のせい。


どうせこんなことになるなら、またあの子に会えたら良かったのに。なんて
もう一度目を開いても、変わり映えのない景色が広がっていた。



「100億」


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