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生産者というのは、実に多忙だ。イベント期(どき)は特にだ。
クリスマスやハロウィン等々、イベントやシーズンによって商品や看板を取っ替えて、販売している姿がよく目に映った。
また、私達消費者も多忙という面では負けを知らず。毎年同日にやって来るであろうイベントに備え、楽しみに心を踊らすのだった。
ちなみに、今日という日はその代表的なイベントのひとつに含まれるであろう。
五月の第二日曜日。
街路樹に混じって、ハタハタと揺れる横断幕には大きな文字で「母の日」と書いてあった。
今日は、並盛の商店街で母の日フェアが行われている。
母の日と言えば、カーネーション。カーネーションと言えば赤というような勝手な固定観念が根付きそうなほど、
見渡す限り赤色が目立った。案の定と言えば、案の定。である。
ちなみに。私には母親はいない。物心ついた頃にはいなかった。物心つく前から居たかどうかも知らない。
だからこそ、カーネーションを上げる様な人はいないのだ。
世の中にとって、代表的なイベントであっても私には全く関係のないイベントだった。
ここには特に用はなく、商店街を横目に通り過ぎようとした時だった。
ふと、紫色の花に目を奪われた。
「ムーンダスト、、?」
そう看板に記されていたが、よく見るとこれもカーネーションらしい。
花自体は完全に紫色に見えるのだが、これは一応「青いカーネーション」と称されていた。
そして、このムーンダストを特集している張り紙にもこう書いてあった。
“青いカーネーションは、まるで幸せの青い鳥を探し求めるように、長い年月をかけて開発を続けた結果生まれました。その花言葉は『永遠の幸福』です。 ムーンダストを贈ることで、お世話になった母親にいつまでも幸せでいて欲しい思いを伝えてはいかがでしょうか。”
紹介文を読んだあとも頭の中でずっと、とある言葉が反復した。
一際目立つ紫、いや青いカーネーション“ムーンダスト”に目を奪われたままだった。
「永遠の幸福、、か」
ぼそっと呟くと、この花を売っている気前の良さそうな店主が話しかけてきた。
「お姉さん、お母さんに贈りたいのかい?
このムーンダストはオススメだよ。この色はね本当に珍しいんだ。
もともと、カーネーションには青色の色素がなかったから、青系のカーネーションは存在してなかったんだ。だが、遺伝子組み換えってあるだろう?その技術のおかげで青いカーネーションの生産ができる様になったってんだよ」
「そうなんですね。」
「それにこの紙にも書いてあるが、母の日にぴったりだろう」
そう店主が言うと、私がさっきまで読んでいた張り紙を指さしていた。
まあ、ここまできて「実は、私には母親は居ないので贈る相手はいません」なんて言ったら気まづいことこの上ないだろう。それに、店主の商売人たるきらやかな瞳も一気に色を失ってしまうのではないかと思う。
「えぇ。そうですね。でしたらそちらのを頂けますか」
私は小さくて可愛らしいブーケを指差した。
ーーーーー
「おや、遅かったですね、、?」
アジトに帰り着く頃、当たりはすっかり暗くなっていた。
扉を開けた先には、先にソファでくつろいでいる彼の姿があった。
しかし、彼は私の体勢を見るなり、怪訝そうな顔をしたのだった。
まあ、無理もないだろう。彼の目には見えないだろうが、背中にあるものを隠し持っていた。
背後が見えない様に、そのままソファへ座る彼へと距離を縮めた。
「ふふふ、ただいま。ねえ骸さん。これ受け取ってくれる?」
彼の目の前に、先ほどのムーンダストを差し出した。
思った通りだった。怪訝そうな顔をしていたのに、彼は一瞬にして呆気にとられた。
「、、、これは。」
「ムーンダストだって。紫に見えるけど、青いカーネーションなの」
「僕が聞いているのは、花の種類ではなくて」
「なに?受け取ってくれないの?」
しゅんと効果音が着きそうなほど、あからさまに悲しそうな顔をして見せてみたら、
彼は一瞬、ほんの一瞬強張った様に見えた。
そして、ブーケを持つ私の手ごと彼の方に引き寄せられた。
「受け取らないとは言っていません。ただ、なぜ僕に花を?」
そう聞かれて、私も言葉に詰まった。
正直に言ってしまおうかとか。いっそのこと、ここではぐらかすのも悪くないかもしれないとか。色々考えた。
そうだな。「店主があまりにも熱心に教えてくれて、断りきれなかった。」とか「母の日だから」とか。
あれでもないこれでもないと考えているうちに、話さなくなった私を見て彼は一層困ったような顔をした。
「何か僕に隠し事でもあるのですか」
そう彼は言ってきた。
これは、下手をすればまずい方向に転がりかねないような気がした。でも考えれば考えるほど、なんだか恥ずかしくなって来てしまって言うタイミングを逃してしまった。どうせ彼のことだ本当のことを言えば「そんなに僕が好きなんですか」とか、からかわれるに違いないいのだ。
「いや。そんなんじゃないよ。ただ、なんとなく。なんとなく買ってみただけだから」
と半ば強引に彼の胸へ押し付けて、走り去った。
ーーーー
「おやおや。可愛らしい人ですね。本当に」
僕の手には、先ほど彼女が置いていった小さな紫色のブーケがあった。
今日は五月の第二日曜日。「母の日」とやらにあたる日だ。
母親へこのカーネーションを贈る風習がある様だが言うまでもなく、僕はもちろん彼女の母ではない。
だが、彼女がこのブーケを僕に贈った理由は、このブーケの中にあるメッセージカードに記されていたのだった。
今すぐにでも貴方を抱きしめて、愛でて、口付けてしまいたいほどの幸福感に満たされた。
“ムーンダストの花言葉は永遠の幸福、
大好きなあなたがずっと幸せでいられますように”
(あぁ、もうどうしよう。あれ読んじゃったかなあ。読んじゃったよね、、。)
黄泉が勝手に気まずくなったのはまた別の話。
クリスマスやハロウィン等々、イベントやシーズンによって商品や看板を取っ替えて、販売している姿がよく目に映った。
また、私達消費者も多忙という面では負けを知らず。毎年同日にやって来るであろうイベントに備え、楽しみに心を踊らすのだった。
ちなみに、今日という日はその代表的なイベントのひとつに含まれるであろう。
五月の第二日曜日。
街路樹に混じって、ハタハタと揺れる横断幕には大きな文字で「母の日」と書いてあった。
今日は、並盛の商店街で母の日フェアが行われている。
母の日と言えば、カーネーション。カーネーションと言えば赤というような勝手な固定観念が根付きそうなほど、
見渡す限り赤色が目立った。案の定と言えば、案の定。である。
ちなみに。私には母親はいない。物心ついた頃にはいなかった。物心つく前から居たかどうかも知らない。
だからこそ、カーネーションを上げる様な人はいないのだ。
世の中にとって、代表的なイベントであっても私には全く関係のないイベントだった。
ここには特に用はなく、商店街を横目に通り過ぎようとした時だった。
ふと、紫色の花に目を奪われた。
「ムーンダスト、、?」
そう看板に記されていたが、よく見るとこれもカーネーションらしい。
花自体は完全に紫色に見えるのだが、これは一応「青いカーネーション」と称されていた。
そして、このムーンダストを特集している張り紙にもこう書いてあった。
“青いカーネーションは、まるで幸せの青い鳥を探し求めるように、長い年月をかけて開発を続けた結果生まれました。その花言葉は『永遠の幸福』です。 ムーンダストを贈ることで、お世話になった母親にいつまでも幸せでいて欲しい思いを伝えてはいかがでしょうか。”
紹介文を読んだあとも頭の中でずっと、とある言葉が反復した。
一際目立つ紫、いや青いカーネーション“ムーンダスト”に目を奪われたままだった。
「永遠の幸福、、か」
ぼそっと呟くと、この花を売っている気前の良さそうな店主が話しかけてきた。
「お姉さん、お母さんに贈りたいのかい?
このムーンダストはオススメだよ。この色はね本当に珍しいんだ。
もともと、カーネーションには青色の色素がなかったから、青系のカーネーションは存在してなかったんだ。だが、遺伝子組み換えってあるだろう?その技術のおかげで青いカーネーションの生産ができる様になったってんだよ」
「そうなんですね。」
「それにこの紙にも書いてあるが、母の日にぴったりだろう」
そう店主が言うと、私がさっきまで読んでいた張り紙を指さしていた。
まあ、ここまできて「実は、私には母親は居ないので贈る相手はいません」なんて言ったら気まづいことこの上ないだろう。それに、店主の商売人たるきらやかな瞳も一気に色を失ってしまうのではないかと思う。
「えぇ。そうですね。でしたらそちらのを頂けますか」
私は小さくて可愛らしいブーケを指差した。
ーーーーー
「おや、遅かったですね、、?」
アジトに帰り着く頃、当たりはすっかり暗くなっていた。
扉を開けた先には、先にソファでくつろいでいる彼の姿があった。
しかし、彼は私の体勢を見るなり、怪訝そうな顔をしたのだった。
まあ、無理もないだろう。彼の目には見えないだろうが、背中にあるものを隠し持っていた。
背後が見えない様に、そのままソファへ座る彼へと距離を縮めた。
「ふふふ、ただいま。ねえ骸さん。これ受け取ってくれる?」
彼の目の前に、先ほどのムーンダストを差し出した。
思った通りだった。怪訝そうな顔をしていたのに、彼は一瞬にして呆気にとられた。
「、、、これは。」
「ムーンダストだって。紫に見えるけど、青いカーネーションなの」
「僕が聞いているのは、花の種類ではなくて」
「なに?受け取ってくれないの?」
しゅんと効果音が着きそうなほど、あからさまに悲しそうな顔をして見せてみたら、
彼は一瞬、ほんの一瞬強張った様に見えた。
そして、ブーケを持つ私の手ごと彼の方に引き寄せられた。
「受け取らないとは言っていません。ただ、なぜ僕に花を?」
そう聞かれて、私も言葉に詰まった。
正直に言ってしまおうかとか。いっそのこと、ここではぐらかすのも悪くないかもしれないとか。色々考えた。
そうだな。「店主があまりにも熱心に教えてくれて、断りきれなかった。」とか「母の日だから」とか。
あれでもないこれでもないと考えているうちに、話さなくなった私を見て彼は一層困ったような顔をした。
「何か僕に隠し事でもあるのですか」
そう彼は言ってきた。
これは、下手をすればまずい方向に転がりかねないような気がした。でも考えれば考えるほど、なんだか恥ずかしくなって来てしまって言うタイミングを逃してしまった。どうせ彼のことだ本当のことを言えば「そんなに僕が好きなんですか」とか、からかわれるに違いないいのだ。
「いや。そんなんじゃないよ。ただ、なんとなく。なんとなく買ってみただけだから」
と半ば強引に彼の胸へ押し付けて、走り去った。
ーーーー
「おやおや。可愛らしい人ですね。本当に」
僕の手には、先ほど彼女が置いていった小さな紫色のブーケがあった。
今日は五月の第二日曜日。「母の日」とやらにあたる日だ。
母親へこのカーネーションを贈る風習がある様だが言うまでもなく、僕はもちろん彼女の母ではない。
だが、彼女がこのブーケを僕に贈った理由は、このブーケの中にあるメッセージカードに記されていたのだった。
今すぐにでも貴方を抱きしめて、愛でて、口付けてしまいたいほどの幸福感に満たされた。
“ムーンダストの花言葉は永遠の幸福、
大好きなあなたがずっと幸せでいられますように”
(あぁ、もうどうしよう。あれ読んじゃったかなあ。読んじゃったよね、、。)
黄泉が勝手に気まずくなったのはまた別の話。