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誕生日に読む話
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「誕生日、おめでとうございます」
夕飯の片づけも終わり、一息つき始めた時、いつ渡そうかと迷っていた物をカバンから取り出す。小さな紙袋を差し出すと、彼女の手は一瞬挙動不審に宙で止まった。
「あ、ありがとう~。わぁ、まさかジュンくんからコスメを貰える日が来るなんて……」
あぁだから驚いたのか。オレ自身も、まさか化粧品を贈ることになるとは思わなかった。
「ねぇ、開けても良い?」
「どうぞ~。気に入ってくれるといいんですけどね」
と言いつつ、気に入るだろうと思っていた。化粧品メーカーなんてよく知らないが、これなら間違いない、らしいから。
「……リップだ」
丁寧に包装されていた紙を、これまた丁寧に解いていき出てきたのはタヌキの手に収まるサイズの箱。さすがに女の子はそれだけで何か分かるのかと妙に関心してしまう。
タヌキは「へぇ」と小さな声を漏らしその箱も開けて行く。箱から取り出した口紅……リップは蓋の上部に花の形があしらわれていて、その見た目の可愛さからも人気があるんだそうだ。
リップを手に取りながらタヌキは隅々まで調べるように角度を変えて眺めている。もしや、気に入らなかった?いやそんなはずはない、だってこれは……。
「日和さんと選んだ?」
「えっ!?」
考えていることが読まれたのかと思い声が上擦ってしまった。その通りなのだが、彼女への誕生日プレゼントを男2人で選んだとなんとなく思われたくなくて、答えを濁してしまう。とは言っても、タヌキはもう分かっているみたいでにやにやとオレの方を見てくる。
隠してもしょうがないか。
「えっとー、はい、まぁ……おひいさんと選びました。やっぱり、バレました?」
「だって、まずジュンくんからリップっていう選択肢があるのがおかしいもん」
タヌキはケラケラと心底楽しそうに笑う。
確かに、最初に何を贈ろうかと考えた時、化粧品なんてものは頭になかった。何にしようかと、何なら喜んでくれそうかと考え、とりあえず参考になるかもとおひいさんに女の子が好きそうな物は何かを聞いてみることにした。
色々面白そうに提案してくれた(中には下着なんていうのもあった)内で「でもタヌキちゃんもそろそろこういう物を持ってても良いんじゃない?」と見せてもらったのはメイク道具だった。そんなもんかと思ったけど、おひいさんが言うには「女の子へのプレゼント定番アイテム」なんだそうだ。
化粧品については疎いが、スマホで幾つか見せてもらったそれらは本当に化粧をするための道具か疑うほどキラキラしていて、使い心地は知らないけれど、タヌキが持っていたら可愛いなと思えてからはもうそれしか考えられなかった。
「いや、でもオレだって化粧品ぐらい候補に考えますよ~」
「ほんとにぃ?」
「……嘘です。おひいさんに言われてそれもアリかもって思ったんす」
笑いながら「だと思った」とタヌキは手の中にあるリップを見つめる。「ジュンくんにしてはセンスが良すぎる」なんて散々な言われようだ。
「あ、でも、ちゃんと選んだのはオレですよ?……あんたが持ってたら、その……似合うかなって」
面と向かって可愛い、とは言えず語尾を濁す。
「ふふ、ありがとー。ねぇ、これも日和さんの入れ知恵?」
ここ、と蓋の側面を見るとそこにはオレとタヌキのイニシャルが一文字ずつ刻印されていた。「女の子はこういうのも好きだからね」とおひいさんに言われ、店員にも「彼女さんへのプレゼントなら……」と言われ、うかれて入れてもらったものが、今ではなんだかとても恥ずかしいものに見えてきた。
「あーもーそうっすよ。全然似合わないことしてんのは分かってますよ」
穴があったら入りたい。嬉しそうに刻印をなぞるタヌキを見ていられなくなって顔を伏せる。買う時に散々おひいさんにからかわれ、店員にも「彼女さんが羨ましいですー」と持ち上げられたことを思いだし、余計に恥ずかしさが募っていく。
「ねぇジュンくん、似合う?」
やっぱりあげるんじゃなかったかと後悔が巡り始めた頭を上げると、少しだけ照れくさそうに首を傾げるタヌキがいた。
化粧品のことなんて禄に分からない。正直どの色もそれほど違いが無いように見えた。おひいさんの「タヌキちゃんなら……」の言葉も、店員の「彼女さんのイメージからすると……」という言葉も参考にはしたけれど、最終的に選んだのはオレだ。……可愛い。
「当たり前じゃないですか。選んだのは、あんたをよく知るオレなんですよ」
そう言ってオレ色に染められたそこに唇を重ねた。