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誕生日に読む話
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『絶対、ぜぇったい、おれが最初にお祝いするからねぇ!』
最後に会った日、藍良くんがそう念押しして別れた。多分藍良くんのことだから、日付が変わった瞬間、メッセージか、電話かしてくれるんだろうと思う。
普段はもう寝てる時間だけど、そうかも、と思うとなんだかそわそわして寝付けず、あと何時間、と何度も時計を確認していた。
もうそろそろかな、とスマホを見ると今日が終わるまであと数分だった。もう来るかも、とホーム画面から眺める。画面は2人で出掛けた時、一緒に食べた期間限定のパフェの写真。本当は、それを美味しそうに食べている藍良くんを待ち受けにしたかったけど、彼はアイドルだから、うっかり何かの拍子に誰かに見られたらと思うと、堂々とは設定できなかった。
でもいいんだ、こうやって見るだけで思い出せるから。
日付が変わるまでまだ少しあるかと写真フォルダをタップする。そこにはちゃんと、藍良くんの写真も、私と藍良くんの写真も残っている。最初の方は、ぎこちなくて、一緒に写るのも、藍良くんを撮るのもなんだか恥ずかしくて、風景や食べ物の写真ばかりだ。それさえも、2人の足跡のようで愛おしい。
横にスクロールして一枚一枚眺めていると、ふっと画面が切り替わり、藍良くんの文字が映し出された。
やっぱり電話くれた!と嬉しさに胸を高鳴らせ通話ボタンをタップする。
「も、もしもし?」
『あ、タヌキちゃん?お誕生日おめでとう!』
「うん、ありがとう」
『えへへ、ねぇ、おれ、ちゃんと一番だった?』
「うん、藍良くんが一番。嬉しい」
実は寝ちゃってないかなーって心配だったんだ、と藍良くんが言う。
最初にお祝いしてくれるって言ってたから期待して待ってたんだ、と私が言う。
なんでも話をして、2人で笑いあう。夜中だから、いつもよりはひそひそと、まるで内緒話をしているように。
『あーぁ、本当はちゃんと会ってお祝いしたいんだけどなぁ』
「仕方ないよ、藍良くんお仕事あるし。私も学校あるし」
『そうなんだけどさー』
忙しいのに、お祝いをしたいと思っていてくれるだけで嬉しくなる。そりゃ、本音をいえば、私だって……。
「……会いたいね」
『ほんと?タヌキちゃんも、そう思ってくれてる?』
「うん、ごめんね、面倒なこと言って」
『ちっとも面倒じゃないよぉ。むしろ、俺だけじゃなかったんだって思えて嬉しい!あ、ねぇねぇ、近い内に、また一緒にお出かけしようね』
「うん、楽しみにしてる!」
『それで、その時にプレゼントを探そうかと思うんだけど……あ、違うよ?一応おれ、自分でも探してみたんだけど、何が良いか迷っちゃって……全部あげたくなっちゃったけどそれじゃ困るでしょ?だから、一緒に選ぼう?』
「うん、分かった、ありがとう藍良くん」
あのお店やこのお店とお店の名前をあげてくれる藍良くん。話を聞きながらそれはどれも私の好みそうで、一緒に選ぶのが楽しみになった。早く予定が合えばいいな。
『……って感じで考えてるんだけど、どうかなぁ。あ、もちろん、この中のじゃなくて、タヌキちゃんが欲しいものでもいいよぉ?』
「欲しいものか……うーん」
何かある?とスマホの向こう側で首を傾げている様子が目に浮かぶ。
欲しいもの、藍良くんとの時間、なんて言えば困らせてしまうだろうか。なんでもいいよ、なんて言われると逆に困ってしまう。
欲しいもの、欲しいもの、と最近何か合ったかなと頭を巡らせ一つ思いついた。
「あ、あった。あるよ、欲しいもの」
『え、なになに?』
「あのね、藍良くんの自撮り写真」
『……へ?』
「さっきね、写真フォルダ見返してて、最新の藍良くんが欲しいなって思っちゃった」
『えっと、そんなものでいいの?』
藍良くんは割と自撮りを撮って見せてくれるアイドルだからそんなものなんて言うんだろうけど、それは大衆に向けたものだから。私は私のためにだけ撮ってくれた藍良くんの写真が欲しかった。
って言ったら重たく感じられるかもしれないから言わないけど。
『そんなのでよければいっぱい送ってあげるよぉ。楽しみにしててね』
「うん、楽しみにしてる!」
『えへへ、じゃあそろそろ切ろっか。本当はずーっと話してたいけど、そういうわけにもいかないもんね』
「電話してくれてありがとう。また会えるの楽しみにしてるね」
『うん、俺も!じゃあおやすみ、タヌキちゃん。良い誕生日にしてね』
おやすみと言い合い通話が切れたスマホは寂しく真っ黒な画面を映す。寝て起きたら学校かと憂鬱になったけど、誕生日を一番に一番好きな人に祝ってもらえたと思うとその憂鬱も吹き飛んでしまう。良い夢が見れるかもしれないと寝る準備を始めると、ブブブとスマホが揺れた。こんな時間に誰だと確認すると、さっきまで話していた藍良くんがメッセージを送ってくれていた。
『改めて、お誕生日おめでとうタヌキちゃん!』
メッセージと共にハートマークを作ったポーズで満面の笑みを浮かべている写真も添付されていた。私だけの藍良くん。今日だけは、ホーム画面にしてもいいかな。