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短編
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「ジュンくーん、そろそろ始まるよー」
「うぃーっす」
脱衣所には時計が無いので慌てて頭と体を拭く。明日は休みだからとタヌキの家に押し掛ければ、Edenが出演しているドラマを一緒にリアタイしていいなら、と条件つきで泊まらせてもらえることになった。正直、自分が出ているドラマなんて彼女と見たくないが、会いたい思いには代えられない。ドライヤーでブオォーと勢いよく頭の水分を飛ばし、ソファで待つタヌキの隣に急いで腰掛けた。
「あんたいっつもリアタイしてくれてるんすか?」
「うん、もっちろん。録画もしてるけどね」
うきうき、と言った様子でタヌキはドラマが始まるのを待っている。まぁ視聴者の反応が見れる機会は貴重かと思うことにし、一緒に見ようとタヌキの太股に頭を預けた。何も言わずタヌキが頭を撫でてくれる度、疲れが薄れていくのを感じる。
テレビの中ではEdenのメンバーがブレザー姿で映っている。ドラマは一言で言えば謎解き青春物で、てんでバラバラだった4人がなんやかんやで事件に巻き込まれて色々合った末段々と友情を育むストーリー……?一生懸命演じてはいるが、面白いか?と思う事もあるのでちらり、と視線をタヌキに向ければキラキラした目で画面に喰いついていた。……茨も「戦略通りです!」って言ってるから間違ってないのかもしれない。
タヌキの膝の上で自分の演技ひでぇな精進しようと思っている内にドラマも今週の佳境に入っていく。そしていい所でCMに入った時、なんの脈略も無く彼女は言った。
「ジュンくんて、太股好きだよね」
「はぁっ!?」
驚いて上体を起こせばタヌキは起きるの?と首を傾げている。
「え、いや、え?な、なんで?」
「えっだって、あ、まってCM終わる」
タヌキの目は完全にテレビのオレ、じゃない、ナギ先輩に熱い視線を送り始めた。……ちょっとこっち見てくれませんかねぇ?
画面の中のEdenに熱い視線を注ぐ彼女から、こっそり視線を太股に移す。
なんでバレた?
白状すれば、オレは太股が好き。いや、正しくは彼女の太股が好き。ほどよく太くて、むちむちしてて、白くて、すべすべで……気持ちが良い。そこに頭を乗せて優しく撫でてもらえば仕事のストレスも茨の小言もおひいさんのわがままも全部吹っ飛ぶぐらい癒される。なんて本人に言った覚えはないし、ぜってーに言わねぇけど。……なんでバレた?
それからドラマが終わるまで約15分。彼女はオレの方を見なかったし、オレは彼女の太股が気になって仕方がなかった。緩めのショートパンツから伸びたもちもちの白い足が、触ってくれと言ってるようで。
「うぅ、今週も凪砂さんお美しかった」
「あんた本当ナギ先輩好きっすよね」
「顔が良い」
「ははっ今度本人に伝えときます。じゃなくて」
ドラマの感想を聞かせてくれるのは嬉しいが、そうじゃなくて。さっきから脳内をぐるぐる回っている彼女の言葉を伝えると、次々と自分の痴態が露わにされることになるとはこの時は思っていなかった。
「だってジュンくん膝枕好きでしょ?」
「うん!?ん、んんー……?」
咳こんでごまかしてみるが核心を突かれて気が気じゃなかった。一応そんなことはないと否定はしても、もちろんタヌキは信用しない、それどころか迷いなく言う。
「一緒にテレビ見る時なんかはすぐ頭乗せてくるじゃん?」
……その通りです。ぶっちゃけ、隙あらば乗せてる。ちょっと疲れたふりなんかして。バレてて恥ずかしくて頭を抱えるオレに彼女は尚追い打ちをかける。
「それに横で並んで座ってても太股触ってくるよね」
「えぇっ!?なんすかそれ!」
誰っすかそんな変態!……オレ?そんなことしてたっけなーと頭を抱えた。いや、これはして、ない。してない。覚えがないから。
「それは……してない」
「えーしてるよー。こうやってーさわさわって言うか、むにむにって触ってるよー」
「うわっ」
太股に置かれたタヌキの手がゆっくりと肌を掴む。手の位置は動かさず、指圧したり、指や手の平で感触を確かめたりするような動きは、たしかにむにむにという表現が似合っていた。
「えー……オレこんなんやってます?」
「うん。まぁ別にいやじゃないから放ってるんだけどね」
無意識なんだ、と笑うタヌキと反対にオレの心は沈む。無意識の内にそんな変態みたいな行為をしていたなんて。どうせならもっと感触を覚えておけよ。
「あのー、さすがに、もう変なことしてないっすよね?」
「あるよ」
無意識に彼女の太股を触る、なんて変態行為以上はもうさすがに無いだろうと縋るように聞いたのに、タヌキはあっさりと答えた。……あるのかよ。
「聞きたいよな、聞きたくないような……」
「面白いから言っていい?」
「……はい」
「あのね、ジュンくんは私が足の出てる服装だと喜ぶの。それで、足が隠れてるとがっかりしてる」
「はぁ!?」
嘘だろとつい言葉が漏れた。何してんすかオレ。そんなに分かりやすいのかオレ。
「足が出てる時は“今日の格好、似合ってますね”って笑って言ってくれるんだけど、出てない時はちょっと残念そうに“可愛いっすよ”って言う」
「いや、それは絶対タヌキの考えすぎ」
「うぅん、気づいてから意識してたから絶対そう」
「ぅあ゛ーーー」
タヌキの方が一枚上手だった。それも無意識だから確かめようはないが、タヌキが言うならそうなんだろう。そうか……そうかも。いや、でも、それは、ただ単に……
「あ、あんたに似合うのが、そのっ短い丈の方ってだけなんで……」
決して足が見たいわけじゃない。
「ありがとう。でも太股好きだよね」
「うぐっ……」
彼女の目は純粋に真っ直ぐにオレを見ていた。さっきも別に触られるのがイヤと言われたわけじゃない。白状したとこで嫌われることはない、はず。
「あーもー!はいはい!オレは太股が好きですよー!これで満足ですかー?」
「開き直った……」
「っていうか、好きなのはあんたの太股ですからね?そのちょっとむちむちで白くてすべすべなのが好きなだけで、他の太股も好きって思わないでくださいよー?」
「……言葉にされるとなんか恥ずかしいな」
白状すればなんのことはない、恥ずかしさもどっかいっちまった。それよりも今はカミングアウトした勢いでその太股に触りたい。
「ってわけで今から頭乗せていいっすか?」
「えっあ、このタイミングでする?」
「こっちはさっきからお預けくらってる状態なんですけどぉ?」
少しオロオロしていたタヌキだけど「ジュンくんが言うなら」と足を揃え座り直してくれた。彼女の了解を取る前にぽすん、と頭を預ける。……やっぱり気持ちが良い。
「うぅ、言い出したの私だけど意識しちゃって恥ずかしい……」
くぐもった声が聞こえて振り向けば、案の定タヌキは手で顔を覆っていた。
「恥ずかしいのはこっちっすよ。まさか無意識にあんたの太股触ってたなんて……」
「あはは、気にしなくて良いよ?イヤじゃないし」
そんなこと言ったら次からは意識して触りまくってやる。なんて言ったらあんたはきっと顔から手が離れなくなるからそれはこっそり心に留める。今はそれより触ってほしい所があるから。
「……恥ずかしいついでにもう1ついいっすか?」
「うん?なに?」
「……オレ、あんたに頭撫でられるのも好きなんすよね」
撫でてくれます?と見上げれば、タヌキの指の隙間から目が合った。「ジュンくん、可愛いっ」の声と共に優しくて暖かい手が頭に触れる。恥ずかしい思いをした分、次からは遠慮なく太股を堪能させてもらおうと心に誓った。
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