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短編
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金色の髪に太陽のような笑顔。ひまわりみたいだと思った。
転入して早々、そんな彼に恋した私は単純にもひまわりを育てることにした。
彼の噂で1番聞いたものは女の子が大好き、というものだった。
そして最近の彼は転入生ちゃんにご執心らしい。私じゃない方の。
「あ、やっほー、あんずちゃーん」
自分の名前が呼ばれたわけではないのにその声にうっかり振り向きそうになった首を止めて、花壇への水遣りを再開する。
横目で見れば、名前を呼ばれた女の子はちょっと困ったように応える。
放課後、花壇の前で見慣れた光景だ。
彼は女の子が大好き、な割に私への興味関心は薄いようで話かけられた記憶は数えるほど。
目が合えば挨拶をする。
私と彼、羽風先輩の関係はそんなもんだ。
それでも先輩を見れるだけで、声が聞けるだけで嬉しくなってしまう私はなんて単純なんだろう。
今日もあんずちゃんと話せてご機嫌な羽風先輩を見れて私の1日はハッピーに幕を閉じた。
・・・
「今日はどうしても衣装作りを終わらせたくて!」
ごめんね、とあんずちゃんが両手を顔の前で合わせ謝ってくる。
いつの間にか花壇の手入れが私の日課になってから2人ですることが増えたけど、
別に強制ではないからもちろんそれを受け入れた。
むしろ衣装作りを手伝おうかと申し出たが
「私の仕事だから!」
と意気込む彼女の邪魔はしたくなかったのでそれも了承した。
着々と実績を積んでいくあんずちゃん。
そりゃみんな好きになるよねと納得する。
一生懸命な女の子は可愛い。
それに比べて私は……気づけば土いじりばかりしているし、
気づけば日中も花壇の世話が頭の大半を占めている。
いいのかそれで。いや良くない。
土いじりとアイドルを絡められないだろうか……。
生徒会長に秒で却下されそうだ。
花でステージを飾るならなんとかいけるか……数が問題だな。
やっつけにも程がある企画をなんとか形にできまいか、と黙々を草を引いていく。
もちろん自分でもやっつけだと自覚があるのでそんなものは形になる前に虚しく霧散していった。
「あれ?」
そんな私の頭の上から聞き覚えのある、もっと聞いていたいと思う声が降ってきた。
顔を上げれば想像通り羽風先輩が立っていた。
先輩はちょっと困ったように周りをキョロキョロ見回す。
……あぁそうか。
「あんずちゃんなら、今日は来ませんよ?」
外せない用事があるそうで、と付け足せば先輩は残念そうに眉を下げ「そっかー」と呟いた。
そのまま去って行くだろうと思ったのに、羽風先輩は事もあろうか花壇の近くに座り込んだ。
「元気に育ってるねー」
予想外の出来事に驚き反応が出来ずにいると「これ」と一画を指さした。
そこで育っているのは私が彼をイメージして植えたひまわり。
「えぁ、そ、そう、ですね」
まさか本人に見られるとは思わず挙動不審になってしまう。
ひまわりを植えた理由は誰にも伝えていないから気持ちがバレることは無いだろうに。
「さすがにこれは俺も知ってるよ。ひまわりだよね」
と、一足早いひまわりのような笑顔を浴びてしまった。
恥ずかしくて目を逸らす私は本当に可愛げがない。
しまったと思い先輩を盗み見れば、困った顔で笑っていた。
「ごめんね、タヌキちゃん」
「はぇっ!?」
「俺のこと苦手なのに、相手してもらっちゃって」
「は?え?いえ?」
むしろ好いてますが?
とはさすがに言えなかったし名前を呼ばれたことに混乱して頭の上をハテナが飛び回る。
「えっと苦手では、ないです」
間抜けな返答だったため、とりあえずその誤解は解きたいと出た言葉は更に私の使えなさを露呈させた。
……もっと気の利いたことが言いたかった。
「ほんと?迷惑じゃない?」
「え、はい……」
「じゃあもうちょっといても良い?」
「……どうぞ」
気の利かない言葉だったが羽風先輩は「良かった」ともう少し居座ってくれるらしい。
どうしよう、2人っきりだ。
話すことなんて思いつかない。私はやっぱり黙々と草を引く。
「いつも世話しててエライなーって思ってたんだぁ」
羽風先輩はちょいちょいとひまわりの葉っぱを触りながら話しかけてくれる。
可愛い。優しい。好き。
「えっと、ありがとうございます」
でも不慣れな私は可愛くない返事をしてしまう。
そしてまた訪れる沈黙。
……これで私に好意を持って欲しいなんておこがましい。
2人で話せる奇跡に感謝はしつつ、やっぱり憧れは憧れでこっそり胸に仕舞っておこう。
なんて思ったのに
「ひまわりってタヌキちゃんみたいだよね」
「えぇ!?絶対違うと思いますけど?」
反射で答えて思い当たる。
たしかあんずちゃんのことは“たんぽぽちゃん”と呼んでいた。
そんな感じできっと何人もの女の子を花に例えているんだろう。
とりあえず目の前にあったから、言ってみただけだろう。
私がひまわりなんてそんな事あるわけがない。
名も無き草がお似合いだ。
なのに私の言葉なんて聞こえなかったかのように羽風先輩は言葉を続ける。
「水やりしてる姿がさー、周りの雑音なんて聞こえてないって感じで、凛として立ってんの。すごいきれいだなって思ってたんだ」
何を言ってるんだろうこの人は。
それは本当に私だったんだろうか。
あんずちゃんと見間違えてやしないだろうか。
「あ、いつも見てるわけじゃないからね!目に入って来るから……いや、ほんと、別に深い意味も、ないし……」
無言の私に羽風先輩は慌てて弁解する。
ほら、やっぱり、深い意味はないみたい。
「あ、はい、大丈夫です!分かってます!」
何が大丈夫だか分からないが2人で「そうだよね」「そうそう!」なんて言い合った。
危ない、うっかり勘違いをする所だった。
深い意味はない、私はその言葉を頭で反芻する。
「あーごめんね。作業の邪魔しちゃって」
「そんなことも、無い、ですけど」
一緒に話せて良かったです、ぐらい言えれば良かったのに、
すぐにその言葉は出てこずそのままタイミングを失った。
「もう行くね」と立ち上がる羽風先輩に、せめて、せめて何か……
「あ、あの!」
背中を引き留めてみたが言葉が出てこない。何か、何か……
「あ、ひまわり……」
羽風先輩の髪が夕日に照らされオレンジがかって見える。そうだひまわり。
「咲いた頃に、その、また見に来て下さい!」
「え……あ、ありがとう!また来るね、タヌキちゃん」
頑張って捻り出した言葉に先輩は笑顔で応えてくれた。
私が恋に落ちた笑顔だった。
あぁどうか顔が赤いのは夕日のせいだと思ってくれますように。
転入して早々、そんな彼に恋した私は単純にもひまわりを育てることにした。
彼の噂で1番聞いたものは女の子が大好き、というものだった。
そして最近の彼は転入生ちゃんにご執心らしい。私じゃない方の。
「あ、やっほー、あんずちゃーん」
自分の名前が呼ばれたわけではないのにその声にうっかり振り向きそうになった首を止めて、花壇への水遣りを再開する。
横目で見れば、名前を呼ばれた女の子はちょっと困ったように応える。
放課後、花壇の前で見慣れた光景だ。
彼は女の子が大好き、な割に私への興味関心は薄いようで話かけられた記憶は数えるほど。
目が合えば挨拶をする。
私と彼、羽風先輩の関係はそんなもんだ。
それでも先輩を見れるだけで、声が聞けるだけで嬉しくなってしまう私はなんて単純なんだろう。
今日もあんずちゃんと話せてご機嫌な羽風先輩を見れて私の1日はハッピーに幕を閉じた。
・・・
「今日はどうしても衣装作りを終わらせたくて!」
ごめんね、とあんずちゃんが両手を顔の前で合わせ謝ってくる。
いつの間にか花壇の手入れが私の日課になってから2人ですることが増えたけど、
別に強制ではないからもちろんそれを受け入れた。
むしろ衣装作りを手伝おうかと申し出たが
「私の仕事だから!」
と意気込む彼女の邪魔はしたくなかったのでそれも了承した。
着々と実績を積んでいくあんずちゃん。
そりゃみんな好きになるよねと納得する。
一生懸命な女の子は可愛い。
それに比べて私は……気づけば土いじりばかりしているし、
気づけば日中も花壇の世話が頭の大半を占めている。
いいのかそれで。いや良くない。
土いじりとアイドルを絡められないだろうか……。
生徒会長に秒で却下されそうだ。
花でステージを飾るならなんとかいけるか……数が問題だな。
やっつけにも程がある企画をなんとか形にできまいか、と黙々を草を引いていく。
もちろん自分でもやっつけだと自覚があるのでそんなものは形になる前に虚しく霧散していった。
「あれ?」
そんな私の頭の上から聞き覚えのある、もっと聞いていたいと思う声が降ってきた。
顔を上げれば想像通り羽風先輩が立っていた。
先輩はちょっと困ったように周りをキョロキョロ見回す。
……あぁそうか。
「あんずちゃんなら、今日は来ませんよ?」
外せない用事があるそうで、と付け足せば先輩は残念そうに眉を下げ「そっかー」と呟いた。
そのまま去って行くだろうと思ったのに、羽風先輩は事もあろうか花壇の近くに座り込んだ。
「元気に育ってるねー」
予想外の出来事に驚き反応が出来ずにいると「これ」と一画を指さした。
そこで育っているのは私が彼をイメージして植えたひまわり。
「えぁ、そ、そう、ですね」
まさか本人に見られるとは思わず挙動不審になってしまう。
ひまわりを植えた理由は誰にも伝えていないから気持ちがバレることは無いだろうに。
「さすがにこれは俺も知ってるよ。ひまわりだよね」
と、一足早いひまわりのような笑顔を浴びてしまった。
恥ずかしくて目を逸らす私は本当に可愛げがない。
しまったと思い先輩を盗み見れば、困った顔で笑っていた。
「ごめんね、タヌキちゃん」
「はぇっ!?」
「俺のこと苦手なのに、相手してもらっちゃって」
「は?え?いえ?」
むしろ好いてますが?
とはさすがに言えなかったし名前を呼ばれたことに混乱して頭の上をハテナが飛び回る。
「えっと苦手では、ないです」
間抜けな返答だったため、とりあえずその誤解は解きたいと出た言葉は更に私の使えなさを露呈させた。
……もっと気の利いたことが言いたかった。
「ほんと?迷惑じゃない?」
「え、はい……」
「じゃあもうちょっといても良い?」
「……どうぞ」
気の利かない言葉だったが羽風先輩は「良かった」ともう少し居座ってくれるらしい。
どうしよう、2人っきりだ。
話すことなんて思いつかない。私はやっぱり黙々と草を引く。
「いつも世話しててエライなーって思ってたんだぁ」
羽風先輩はちょいちょいとひまわりの葉っぱを触りながら話しかけてくれる。
可愛い。優しい。好き。
「えっと、ありがとうございます」
でも不慣れな私は可愛くない返事をしてしまう。
そしてまた訪れる沈黙。
……これで私に好意を持って欲しいなんておこがましい。
2人で話せる奇跡に感謝はしつつ、やっぱり憧れは憧れでこっそり胸に仕舞っておこう。
なんて思ったのに
「ひまわりってタヌキちゃんみたいだよね」
「えぇ!?絶対違うと思いますけど?」
反射で答えて思い当たる。
たしかあんずちゃんのことは“たんぽぽちゃん”と呼んでいた。
そんな感じできっと何人もの女の子を花に例えているんだろう。
とりあえず目の前にあったから、言ってみただけだろう。
私がひまわりなんてそんな事あるわけがない。
名も無き草がお似合いだ。
なのに私の言葉なんて聞こえなかったかのように羽風先輩は言葉を続ける。
「水やりしてる姿がさー、周りの雑音なんて聞こえてないって感じで、凛として立ってんの。すごいきれいだなって思ってたんだ」
何を言ってるんだろうこの人は。
それは本当に私だったんだろうか。
あんずちゃんと見間違えてやしないだろうか。
「あ、いつも見てるわけじゃないからね!目に入って来るから……いや、ほんと、別に深い意味も、ないし……」
無言の私に羽風先輩は慌てて弁解する。
ほら、やっぱり、深い意味はないみたい。
「あ、はい、大丈夫です!分かってます!」
何が大丈夫だか分からないが2人で「そうだよね」「そうそう!」なんて言い合った。
危ない、うっかり勘違いをする所だった。
深い意味はない、私はその言葉を頭で反芻する。
「あーごめんね。作業の邪魔しちゃって」
「そんなことも、無い、ですけど」
一緒に話せて良かったです、ぐらい言えれば良かったのに、
すぐにその言葉は出てこずそのままタイミングを失った。
「もう行くね」と立ち上がる羽風先輩に、せめて、せめて何か……
「あ、あの!」
背中を引き留めてみたが言葉が出てこない。何か、何か……
「あ、ひまわり……」
羽風先輩の髪が夕日に照らされオレンジがかって見える。そうだひまわり。
「咲いた頃に、その、また見に来て下さい!」
「え……あ、ありがとう!また来るね、タヌキちゃん」
頑張って捻り出した言葉に先輩は笑顔で応えてくれた。
私が恋に落ちた笑顔だった。
あぁどうか顔が赤いのは夕日のせいだと思ってくれますように。
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