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言葉にならない絶望に

言葉も出ないほどの絶望に

僕には好きな人がいる
名前は折原 新太 (オリハラ アラタ)
見た目は怖いけど優しくて世話焼きな人だ
今日も学校帰り、おばあちゃんの荷物を持っていたのを見た
ストーカーだと思われるかもしれないが、これは観察
ストーカーじゃない、はず

今日は声をかけてみようと思う
「あの、折原くん」

コンビニにいた折原くんを見かけた僕は早速声をかけた

「んあ?」

こっち見た!

「お前、隣りのクラスの四ノ宮 遊助(シノミヤ ユウスケ)か」

「し、知ってくれてるんだ…」

「まぁな」

そうなんだ、なんで知られてるか分からないけど、嬉しいな

自然と笑顔になる

「どうかしたのか?」

折原くんは首をかしげる
そうだよね、急に話しかけたらそうなるよね

「いや…ここのコンビニでよく見るな、と思って…このお菓子、好きなの?」

そうして指さしたのは、マシュマロ
金髪にピアス、着崩した制服
その見た目で好きなのが、マシュマロなのか
気になってしまった

「あぁ、ここのマシュマロ、美味しいんだよな」

少し微笑みながら話す折原くんにキュンとする

「マシュマロ僕も好きだよ、美味しいなら買ってみようかな」

マシュマロを1袋手に取り、レジに向かう

折原くんとコンビニを出て公園でマシュマロを食べながら沢山話した

実は折原くんには妹がいるとか、マシュマロ以外にはメロンソーダが好きだとか、折原くんのことを沢山知った

「ねぇ、また明日…ここでマシュマロ食べよう?」

折原くんと約束した 

それから毎日折原くんと公園で話しながらマシュマロを食べた

毎日お互いのことについて話して、楽しい日々だった

「なぁ、明日…伝えたいことがあるんだ」

折原くんは真面目な顔で僕に伝えた

「伝えたいこと?今じゃダメなの?」

純粋な疑問だった
なぜ明日なのか、と、

「心の準備が必要なんだ、明日またここで会おう」

そうして折原くんは空になったマシュマロの袋を握りしめて帰ってしまった

「どうしたんだろう…?」

好きな人からの伝えたいことなんて、ちょっと期待してしまうじゃないか

色々妄想してしまう頭を抑えて、僕も帰路に着いた

次の日、コンビニに折原くんはいなかった
少し遅くなるのかな、そう思って先に公園に着いた

「遅いな…」

2時間経っても折原くんは来なかった
それでも待っていると、中学生くらいの女の子が僕を見つめていた

そのままこっちに向かってくる

「あの…四ノ宮 遊助さんですか?」

そう問いかけてくる女の子に

「そうですけど…」

と返す
なぜこの子が僕の名前を知っているのか

「折原 新太の妹の優香です…今日は四ノ宮さんに伝えたいことがあって」

伝えたいこと?折原くんもそんなこと言ってたような

考えていると衝撃的なことが優香ちゃんから告げられた





昨日の夜、折原くんは心不全で死んだと


「え…?」

絶望に襲われた

マシュマロの袋を強く握りしめる
もうマシュマロの形はぐちゃぐちゃになっているだろう

優香ちゃんは言葉を続けた

「昨日の夜、急に苦しみ出して…救急車に運ばれたんですが、もう遅くて…」

救急車の中で死んだと、そう告げる優香ちゃんの言葉は半分しか聞こえていなかった

折原くんが、死んだ

その事実が受け止められなかった

そのあと優香ちゃんはこう告げた

「四ノ宮さん、兄のことどう思ってますか?」

どうって、どういう意味だ
好きか嫌いかなら間違いなく好きだ、大好きだ
面倒見がいいところも、話上手なところも、優しいところも、ちょっと頭が悪いところも
全部好きだ

「どうって…好きだよ」

「それは、どういう意味ですか?」

さっきから、なんだ
これは正直に伝えた方がいいのか
もうどうにでもなれと、僕は正直に「恋として、好きです」


そう伝えると、優香ちゃんはゆっくり微笑んで

「よかったです」

と、そう言った

優香ちゃんが、伝えてくれたのは
折原くんも僕が好きだった、という事だった
今日本当はそれを伝えてくれるつもりだったのだと

僕の名前を知っていたのは、前から好きだったから

僕のちょっとドジなのところ、ほっとけない所が好きだったのだと

涙が止まらなかった

もう一緒に食べることは出来ないマシュマロをもう一度強く握りしめた

「伝えてくれて、ありがとうございました」

そう言うのが、精一杯だった

軽く会釈をして帰って行った優香ちゃんを見送り、1人公園に残る

「言い逃げなんて…ズルいよ」

もう形もめちゃくちゃなべとべとしたマシュマロをひとくち食べる

「あぁ…美味しくないじゃないか」
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