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普通になれない僕たちは

「すごいじゃない、草間!」

 朝一で報告した内容は、会議室を大いに沸かせた。

「ええ……ただし、条件が、厳しいんですけど……」

 アシスタントとして、そして唯一のモデルとして自分が指名されたことを伝えると、藤田は一瞬虚を突かれたような顔をして聞き返した。

「え、草間がモデルするの?あの川上秋一の?」
「はい、それ以外だと人は撮らないと言い張っています。契約も結ばないと。なので、暫定ではありますが契約は結んできました」
「中々条件が厳しいね、草間は昔モデルしていたとか?」 

 どう考えてもモデル向きではないよな、という遠回しな言い方に肩を竦めて、全く?と返す。苦笑する藤田に、分かっているとばかりに苦笑を返す。

「きっと、交渉相手に俺を出してきたのに対するいやがらせでしょう。本気ではないと思いますが、最悪人は撮らせなくても話題はもらえます。大手獲得のチャンスでは?」
「そうだね。草間はアシスタント業務は大丈夫なの?通常業務はこちらで人員配置を変えて対応するからいいけど、業務負荷は?」
「ありがとうございます。アシというほどではないですけど、以前あいつの撮影を手伝っていたのであまり苦ではないですね。ただ、時間が不定期になるので、その辺を……」

 訳の分からない業務が増えたといっても、藤田はてきぱきと人員を割り振って今回の一大顧客獲得のために対応してくれる。クライアント獲得は自分で行いたい、という願いも聞き入れてもらい、満足していると胸ポケットから業務用のスマホが呼ぶ。

「あ、川上です。ちょっと行ってきます」

軽く手を振っていってこいと言われると、そのまま電話をとる。

『もしもし?』
『春?』
『そうだけど……今更断りの電話ではないよな』
『いや、本当に春と仕事ができると思ったらなんか嬉しくて』
『……揶揄ってるんだったら切るけど』
『またうちに来てくれよ』

 ふふふ、と笑ってから電話が一方的に切られる。特に用事もなく電話をしてきて、勝手に去っていく。腹立たしいのに少し懐かしいのが癪に障る。 

「でも、俺の選択は間違ってはいなかった。よな」

 あのひどい別れ方についてのコメントはまだ来ていない。もしかしたら自分が気にしているほど相手は気にしていなかったのかもしれないという希望的推測をしてしまう。
 そして、自分の選択を確かめるような呟きを一度して、一人で頷く。誰かにこんなに求められることは過去にこんなことは一度もなくて、きっとこれからもない。もうこれからはただの仕事関係としてだけ、秋一のことを考える。過去とは全て決別したのだ。

『夕飯何か買ってきて』
『面倒』
『ええ!冷凍の餃子でいいから頼むね』

 ポップアップで浮かぶメッセージを見下ろして、割り切っていけるのか少し心配になる。
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