普通になれない僕たちは
秋一と最後にあったのは、その撮影が終わった日だった。少し先に帰ると言った秋一と春樹は駅の改札で別れたきり、もう三年近く会っていない。連絡を取ろうと思えば取れる現在、彼は全ての連絡手段を置いて飛び立っていった。
撮影を終えた後に秋一の部屋に戻った春樹が見たのは、絵を描いている自分のポートレイトと指輪だった。『藤田さんに渡して』というメモ付きの。
顔の写っていないその写真は、春樹が嵌めた指輪を光に翳してその模写をしているものだった。モノクロであるのに、春樹がその指輪に心動かされているのがよくわかる、力強い作品だった。加えて、写真を撮っている男の姿も正面の鏡に映っており、お互い同じ指輪をしているのが分かる。
「これ、すごくいいじゃない。草間がモデルの才能なくても、撮る人が撮ると違うのか」
逡巡した末、藤田に見せたが二人の関係については何も触れられなくて、人からの目を気にしていた自分がばかばかしくなったのも事実だ。
どうしてもという強い要望で先方に送られ、たまに雑誌を繰ると自分の写真が飛び込んでくるという弊害をしばし被ったが、それももうすっかりなくなった。
そして、秋一とは相変わらず連絡が取れないままだが、時折届く差出人の住所のない手紙が生息を伝えてくれる。いつかその手紙に住所が書かれたときには足を運ぶことはとっくに決意していたが、その日は中々訪れなかった。
また年が一巡した冬。便りがないのは良い報せ、という先人の教えを信じるようにしていたが帰ればポストを覗き込んでしまうし、ポスト一杯に詰められたローン住宅のチラシに肩を落とす。
「ん?」
いつもの習慣のように、要らないチラシを取り出して捨てているその間に、一枚だけ草臥れたエアメールの文字をポストの中に見つけて、今度はどの国に行ったのだろうと玄関で封筒を開く。
「うそだろ!すげえ!」
『ロンドンで会おう。秋一』
簡素な一文と、日時、そしておそらく航空券の予約番号が記載されている。まるで自分の事のように喜んで叫ぶと、たまたま帰宅した同じマンションの住人にびくりと肩を竦められる。そんなことも気にならないほどテンションが昂っていた。有給をとって、何が何でも表彰式に参加しよう。もちろん、あの指輪を嵌めて。
早く会って抱きしめて、祝福と礼を言いたい。この狭い世界の普通がなんだというのだ。
撮影を終えた後に秋一の部屋に戻った春樹が見たのは、絵を描いている自分のポートレイトと指輪だった。『藤田さんに渡して』というメモ付きの。
顔の写っていないその写真は、春樹が嵌めた指輪を光に翳してその模写をしているものだった。モノクロであるのに、春樹がその指輪に心動かされているのがよくわかる、力強い作品だった。加えて、写真を撮っている男の姿も正面の鏡に映っており、お互い同じ指輪をしているのが分かる。
「これ、すごくいいじゃない。草間がモデルの才能なくても、撮る人が撮ると違うのか」
逡巡した末、藤田に見せたが二人の関係については何も触れられなくて、人からの目を気にしていた自分がばかばかしくなったのも事実だ。
どうしてもという強い要望で先方に送られ、たまに雑誌を繰ると自分の写真が飛び込んでくるという弊害をしばし被ったが、それももうすっかりなくなった。
そして、秋一とは相変わらず連絡が取れないままだが、時折届く差出人の住所のない手紙が生息を伝えてくれる。いつかその手紙に住所が書かれたときには足を運ぶことはとっくに決意していたが、その日は中々訪れなかった。
また年が一巡した冬。便りがないのは良い報せ、という先人の教えを信じるようにしていたが帰ればポストを覗き込んでしまうし、ポスト一杯に詰められたローン住宅のチラシに肩を落とす。
「ん?」
いつもの習慣のように、要らないチラシを取り出して捨てているその間に、一枚だけ草臥れたエアメールの文字をポストの中に見つけて、今度はどの国に行ったのだろうと玄関で封筒を開く。
「うそだろ!すげえ!」
『ロンドンで会おう。秋一』
簡素な一文と、日時、そしておそらく航空券の予約番号が記載されている。まるで自分の事のように喜んで叫ぶと、たまたま帰宅した同じマンションの住人にびくりと肩を竦められる。そんなことも気にならないほどテンションが昂っていた。有給をとって、何が何でも表彰式に参加しよう。もちろん、あの指輪を嵌めて。
早く会って抱きしめて、祝福と礼を言いたい。この狭い世界の普通がなんだというのだ。
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