第二章
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剣術を習うべく、道場で竹刀を振って練習をしていた。そしていつも通り組み討ちになれば銀時が圧勝する。やっぱり歩んできた道が道だから強くならざる得なかったのだろう。決して誰にも負けなかった。松陽は書類整理が残っているらしく道場にはいない。私は教えるというよりは、皆が怪我をしたりしないように見守っているだけ。銀時はずっと勝っているもんだから休憩が取れていなかった。だから組み討ちが切れの良い所で終わったところに銀時に声を掛けた。
「取りあえず銀時は休憩ね。あとのみんなは水分補給をちゃんと摂って各自練習。怪我には気をつけてね」
「「はーい!」」
元気な返事が返ってきた後、こちらに銀時を呼んだ。それに気付いた銀時はこちらに向かって歩いてくる。
「やっぱり強いね、銀時は。はいこれ、お水」
「水じゃなくていちご牛乳とかないの?」
「授業中だから駄目。…あ、でもそういえばいちご牛乳切らしてたな」
「おいおいー、糖分摂らないと死ぬんだけど」
「糖分摂らないぐらいで死なないわよ、まぁちゃんと明日買いに行くから」
絶対だからな!と銀時に念押しされて、素直に冷たいとも言えないぬるい水を手にして飲んだ。案の定、ぬるっと口にして。
「ふふ、ぬるくてごめんね」
「別にいいけどさ」
そう言って銀時は、私の膝に頭を預けて寝転がった。何故かこれが落ち着くのかは分からないが、よくこうして膝枕をせがまれる。最近は毎日だからせがまれる前に、自分から正座して、いつでも頭を預けられるようにしてある。つい可愛くてしょうがなく、はいはいと言って膝を貸してしまうが、ただいつもそのまま銀時は眠りについてしまい、やってしまったと後悔する。だけど可愛いもんはしょうがないし、甘えさせてあげたい。だから断ることもしなかった。
「そんなに寝心地いい?」
ふわふわした白髪の頭を撫でながら尋ねると、なんとも眠たそうな声で呟く。
「なんか…名前の膝は落ち着く…」
「…そっか」
自分もそんな銀時を見ていると眠たくなってきて、自然に欠伸が出た。控えめに口元に手を覆う。目を擦り、向かい側の障子戸の方に目を向けると見覚えのある、だけど松下村塾 の教え子ではない男の子が佇んでいたのだ。
「あれ、あの子…」
スタスタとこちらに向かってくる男の子は私の膝で眠っている銀時のことを見下ろしていた。軽く睨んでるかのような目つきで。人の気配で銀時はそのことに気づき、薄く目を開いて彼を見据えた。
「何?お前。こんなところに何しにきたの?道場破りか?今時流行んねぇぞ。分かったらさっさと…」
「俺と勝負しろ」
「……は?」
この空間にいる教え子達は一斉にして銀時とその言葉を口にした紫髪の男の子に視線が飛び交った。銀時は身体を起き上がらせて、言い放つ。
「勝負はいいけど、松下村塾 は誰にも渡さねぇし壊させねぇよ。道場破り野郎」
その一言で二人の少年の組み討ちが始まった。
___
勝負は銀時の圧勝だった。だが相手の彼もここまでやり合ったのは凄かった。だいたい他の子はものの数分でやられる子が多いのに、彼はかなり粘っていた。感服感に浸っていると、その場で男の子はぶっ倒れる。
「ちょっ!君、大丈夫!?」
急いで駆けつけると、深く息をして酸素を取り込んでいた。一時的な疲労が意識を奪ってしまったのだろう。取りあえず寝床に連れて行かないと、そう思って彼を上に向けさせ、横抱きをする。
「みんなはそのまま練習していて。すぐ戻るから」
「「はーい」」
教え子たちの反応が先ほどとは違い、元気がなかった。多分本当はもっとこの組み討ちを見ていたかったのだろう。誰が見ても二人の勝負には迫力があり、自然と目を引き付けてしまうくらい凄かったのだ。ただこの子が倒れて負けと分かった以上、このまま組み討ちをやらせるわけにはいかない。
それにしてもそんな相手でも引けを取らない銀時の凄さにも圧巻した。本当に怖いものなしと言ったところだ。そんな銀時とやり合い、少し傷を負っている彼の眠ってる顔をみて、よく頑張ったねなんて思いながら寝床へ向かったのだった。
寝床へ着き、布団の上に寝かせる。棚に置いてある救急箱に伸ばして手に取る。中を開けて湿布があるかと確認すると丁度1枚残っていた。それを傷の大きさと顔の大きさに合わせて小さめに切る。少し深めの傷がある右頬に起さない様に優しく貼り付けた。湿布独特の薄荷の匂いが鼻につく。
手当てが終わったら毛布をかけ直してあげて、立ち上がった。丁度、道場に戻ろうとしたところに障子戸が開く。そこで現れたのが松陽だったのだ。
「あ、松陽。丁度良かった。報告する事が…」
「全てはあの子達から聞きました。銀時とやり合ったみたいですね」
クスクスと微笑む松陽。
「あの子たちから聞いたって…道場に戻ってたんだ」
「ええ。書類整理が終わったので戻ってみたところ、道場破りさんが松下村塾 に来て銀時とやり合ったと大騒ぎしていましたよ。それでその噂の道場破りさんとやらの様子を見に来た所ですが…顔見知りでしたね…」
「でもなんで松下村塾 にきたんだろう」
「さぁ?取りあえず目覚めるまでは私が看取っているので、名前は道場に戻って教え子達をお願いします」
「分かった。じゃあ後のことは宜しくね」
そう言い残して私は教え子たちのいる道場に戻った。道場では壁にもたれ掛かりながら眠っていた銀時を見据えて、ホッと胸をなで下ろし、笑みを浮かべた。
「ほんっとこの子は…何も動じないんだから」
図太いのか、無神経なのか、鈍いのか…よく分からないけど銀時の動じなさが、たまに無性に羨ましく感じてしまう。自分には持ってない他人の魅力。どうかこの子はこのままでいて欲しいと強く願っていた。
___
後日。買い物の帰り。剣術の授業の間に松陽に買い物に行くと告げ、両手にパンパンに入った袋を持って帰宅路を辿っていた。袋には銀時に頼まれたいちご牛乳とアイス、そして今日の夕飯の材料などが入っていた。
今日は松陽がちゃんと剣術を教える日。その日だけは、子供たちは松陽に頼めるから自分も好きなように出来る。普段、ずっと世話をするのもやっぱり大変で…。この機会でしか自分の時間が過ごせなかった。でもいくら大変でも楽しいから続けてられる。それは少なからず、面倒見の良い松陽のお陰だろう。私一人じゃ絶対にどうにもできない。そう考えると大人って凄いなぁ、カッコいいなぁと思う。
ウキウキ気味で今日は味噌汁にはなんの具を入れようかなぁと、どうでもいい事考えていると見覚えのある紫髪の男の子を見かけた。咄嗟に口から、その子を呼んだ。
「おーい、そこの君〜!」
ただ名前が分からない為、その男の子は気付かない。咄嗟に松陽との間で呼び合っていたあだ名を使って呼んでみた。
「ねぇ、君!そこの道場破りくん!」
そう呼ぶとクルッとこちらに気づいて振り返ってくれた。なんでここにいるんだと言わんばかりの顔を向けられる。私はそのことに気付いてない振りを装い、やっぱり君だったか!と、その男の子の元に近づく。ただ男の子は不服そうな顔して呟いた。
「…その呼び方……」
「ご、ごめん…。君の名前、まだ聞いていなかったから」
私がそういうと少年はポツリと呟いた。
「……高杉晋助」
高杉…というとここらへんではボンボンのお家だと有名だった気がする。なんか聞き覚えのある名字だった。
「晋助くんね!やっとこれで名前で呼べるようになった。それで私の自己紹介も遅れたけど…名字名前です。まぁ、銀時には呼び捨てにされてるし、同じく名前って気軽に呼んでね」
よろしくと付け足すと、おうぅ…と反応に困ったように目を逸らされた。中々心を開いてくれないなぁと感じながらも、もっと晋助くんについて知りたかった私は先程買ったアイスを思い出した。
「あ、ねぇ晋助くん。あそこのベンチでアイス食べない?これ銀時が好きで買ったんだけど、少し買いすぎちゃったし…」
「アイツのために買ったやつ食ってもいいのかよ」
「あはは…多分このこと言ったら怒られちゃうかも…。うーん…じゃあ銀時には内緒ってことで!二人だけの秘密にしよ」
そうそう、秘密にすればいいだけの話だ。
***
松下村塾であの銀髪のヤツと組み討ちをした帰り。ふらりと歩いていると後ろから女の声がした。しかも、聞き馴染みのある、何処か癒される声色。その声の主はあの松下村塾で助手として働いている女だった。ただ道場破りくんと大きな声で呼びかけられるもんだから、少しイラつきながら後ろを振り返る。
ごめんと謝られるが、ホントに申し訳なさそうな顔で言われ、こっちが調子狂う。だが道場破りと言われ続けるのは気が引ける為、自分から名前を名乗った。
「……高杉晋助」
自分の名を名乗ると、この女は明るい声と表情で嬉しそうに笑った。…やっぱり、この女…可愛いよな……。なんてガキながらに素直にそう思う。勿論、口にはしないが。
そしてその女は名字名前と言うらしい。女と話すことなんて滅多にないし、正直殆どない。だから距離感がイマイチ掴めなかった。
そんな俺を見兼ねてなのか、明るい声で
「あ、ねぇ晋助くん。あそこのベンチでアイス食べない?これ銀時が好きで買ったんだけど、少し買いすぎちゃったし…」
と言ってきた。なんでこんなお人好しなんだ。意味が分からない。ただ、“銀時が好きで買ったんだけど”の一言が引っかかった俺は、少々苛つきながら口にする。
「アイツのために買ったやつ食ってもいいのかよ」
苛ついてる自分にも意味が分からない。こんな気持ちは初めてで戸惑う。そんな気も知らずに名前は少し困った顔しながら笑った。でもその女から出た言葉…。
“二人だけの秘密”__
顔に熱が集まるのが、自分でも嫌になるくらい分かっていたが、あえて気づかない振りをして
「…食べる」
と一言だけ静かに呟いた。
「取りあえず銀時は休憩ね。あとのみんなは水分補給をちゃんと摂って各自練習。怪我には気をつけてね」
「「はーい!」」
元気な返事が返ってきた後、こちらに銀時を呼んだ。それに気付いた銀時はこちらに向かって歩いてくる。
「やっぱり強いね、銀時は。はいこれ、お水」
「水じゃなくていちご牛乳とかないの?」
「授業中だから駄目。…あ、でもそういえばいちご牛乳切らしてたな」
「おいおいー、糖分摂らないと死ぬんだけど」
「糖分摂らないぐらいで死なないわよ、まぁちゃんと明日買いに行くから」
絶対だからな!と銀時に念押しされて、素直に冷たいとも言えないぬるい水を手にして飲んだ。案の定、ぬるっと口にして。
「ふふ、ぬるくてごめんね」
「別にいいけどさ」
そう言って銀時は、私の膝に頭を預けて寝転がった。何故かこれが落ち着くのかは分からないが、よくこうして膝枕をせがまれる。最近は毎日だからせがまれる前に、自分から正座して、いつでも頭を預けられるようにしてある。つい可愛くてしょうがなく、はいはいと言って膝を貸してしまうが、ただいつもそのまま銀時は眠りについてしまい、やってしまったと後悔する。だけど可愛いもんはしょうがないし、甘えさせてあげたい。だから断ることもしなかった。
「そんなに寝心地いい?」
ふわふわした白髪の頭を撫でながら尋ねると、なんとも眠たそうな声で呟く。
「なんか…名前の膝は落ち着く…」
「…そっか」
自分もそんな銀時を見ていると眠たくなってきて、自然に欠伸が出た。控えめに口元に手を覆う。目を擦り、向かい側の障子戸の方に目を向けると見覚えのある、だけど
「あれ、あの子…」
スタスタとこちらに向かってくる男の子は私の膝で眠っている銀時のことを見下ろしていた。軽く睨んでるかのような目つきで。人の気配で銀時はそのことに気づき、薄く目を開いて彼を見据えた。
「何?お前。こんなところに何しにきたの?道場破りか?今時流行んねぇぞ。分かったらさっさと…」
「俺と勝負しろ」
「……は?」
この空間にいる教え子達は一斉にして銀時とその言葉を口にした紫髪の男の子に視線が飛び交った。銀時は身体を起き上がらせて、言い放つ。
「勝負はいいけど、
その一言で二人の少年の組み討ちが始まった。
___
勝負は銀時の圧勝だった。だが相手の彼もここまでやり合ったのは凄かった。だいたい他の子はものの数分でやられる子が多いのに、彼はかなり粘っていた。感服感に浸っていると、その場で男の子はぶっ倒れる。
「ちょっ!君、大丈夫!?」
急いで駆けつけると、深く息をして酸素を取り込んでいた。一時的な疲労が意識を奪ってしまったのだろう。取りあえず寝床に連れて行かないと、そう思って彼を上に向けさせ、横抱きをする。
「みんなはそのまま練習していて。すぐ戻るから」
「「はーい」」
教え子たちの反応が先ほどとは違い、元気がなかった。多分本当はもっとこの組み討ちを見ていたかったのだろう。誰が見ても二人の勝負には迫力があり、自然と目を引き付けてしまうくらい凄かったのだ。ただこの子が倒れて負けと分かった以上、このまま組み討ちをやらせるわけにはいかない。
それにしてもそんな相手でも引けを取らない銀時の凄さにも圧巻した。本当に怖いものなしと言ったところだ。そんな銀時とやり合い、少し傷を負っている彼の眠ってる顔をみて、よく頑張ったねなんて思いながら寝床へ向かったのだった。
寝床へ着き、布団の上に寝かせる。棚に置いてある救急箱に伸ばして手に取る。中を開けて湿布があるかと確認すると丁度1枚残っていた。それを傷の大きさと顔の大きさに合わせて小さめに切る。少し深めの傷がある右頬に起さない様に優しく貼り付けた。湿布独特の薄荷の匂いが鼻につく。
手当てが終わったら毛布をかけ直してあげて、立ち上がった。丁度、道場に戻ろうとしたところに障子戸が開く。そこで現れたのが松陽だったのだ。
「あ、松陽。丁度良かった。報告する事が…」
「全てはあの子達から聞きました。銀時とやり合ったみたいですね」
クスクスと微笑む松陽。
「あの子たちから聞いたって…道場に戻ってたんだ」
「ええ。書類整理が終わったので戻ってみたところ、道場破りさんが
「でもなんで
「さぁ?取りあえず目覚めるまでは私が看取っているので、名前は道場に戻って教え子達をお願いします」
「分かった。じゃあ後のことは宜しくね」
そう言い残して私は教え子たちのいる道場に戻った。道場では壁にもたれ掛かりながら眠っていた銀時を見据えて、ホッと胸をなで下ろし、笑みを浮かべた。
「ほんっとこの子は…何も動じないんだから」
図太いのか、無神経なのか、鈍いのか…よく分からないけど銀時の動じなさが、たまに無性に羨ましく感じてしまう。自分には持ってない他人の魅力。どうかこの子はこのままでいて欲しいと強く願っていた。
___
後日。買い物の帰り。剣術の授業の間に松陽に買い物に行くと告げ、両手にパンパンに入った袋を持って帰宅路を辿っていた。袋には銀時に頼まれたいちご牛乳とアイス、そして今日の夕飯の材料などが入っていた。
今日は松陽がちゃんと剣術を教える日。その日だけは、子供たちは松陽に頼めるから自分も好きなように出来る。普段、ずっと世話をするのもやっぱり大変で…。この機会でしか自分の時間が過ごせなかった。でもいくら大変でも楽しいから続けてられる。それは少なからず、面倒見の良い松陽のお陰だろう。私一人じゃ絶対にどうにもできない。そう考えると大人って凄いなぁ、カッコいいなぁと思う。
ウキウキ気味で今日は味噌汁にはなんの具を入れようかなぁと、どうでもいい事考えていると見覚えのある紫髪の男の子を見かけた。咄嗟に口から、その子を呼んだ。
「おーい、そこの君〜!」
ただ名前が分からない為、その男の子は気付かない。咄嗟に松陽との間で呼び合っていたあだ名を使って呼んでみた。
「ねぇ、君!そこの道場破りくん!」
そう呼ぶとクルッとこちらに気づいて振り返ってくれた。なんでここにいるんだと言わんばかりの顔を向けられる。私はそのことに気付いてない振りを装い、やっぱり君だったか!と、その男の子の元に近づく。ただ男の子は不服そうな顔して呟いた。
「…その呼び方……」
「ご、ごめん…。君の名前、まだ聞いていなかったから」
私がそういうと少年はポツリと呟いた。
「……高杉晋助」
高杉…というとここらへんではボンボンのお家だと有名だった気がする。なんか聞き覚えのある名字だった。
「晋助くんね!やっとこれで名前で呼べるようになった。それで私の自己紹介も遅れたけど…名字名前です。まぁ、銀時には呼び捨てにされてるし、同じく名前って気軽に呼んでね」
よろしくと付け足すと、おうぅ…と反応に困ったように目を逸らされた。中々心を開いてくれないなぁと感じながらも、もっと晋助くんについて知りたかった私は先程買ったアイスを思い出した。
「あ、ねぇ晋助くん。あそこのベンチでアイス食べない?これ銀時が好きで買ったんだけど、少し買いすぎちゃったし…」
「アイツのために買ったやつ食ってもいいのかよ」
「あはは…多分このこと言ったら怒られちゃうかも…。うーん…じゃあ銀時には内緒ってことで!二人だけの秘密にしよ」
そうそう、秘密にすればいいだけの話だ。
***
松下村塾であの銀髪のヤツと組み討ちをした帰り。ふらりと歩いていると後ろから女の声がした。しかも、聞き馴染みのある、何処か癒される声色。その声の主はあの松下村塾で助手として働いている女だった。ただ道場破りくんと大きな声で呼びかけられるもんだから、少しイラつきながら後ろを振り返る。
ごめんと謝られるが、ホントに申し訳なさそうな顔で言われ、こっちが調子狂う。だが道場破りと言われ続けるのは気が引ける為、自分から名前を名乗った。
「……高杉晋助」
自分の名を名乗ると、この女は明るい声と表情で嬉しそうに笑った。…やっぱり、この女…可愛いよな……。なんてガキながらに素直にそう思う。勿論、口にはしないが。
そしてその女は名字名前と言うらしい。女と話すことなんて滅多にないし、正直殆どない。だから距離感がイマイチ掴めなかった。
そんな俺を見兼ねてなのか、明るい声で
「あ、ねぇ晋助くん。あそこのベンチでアイス食べない?これ銀時が好きで買ったんだけど、少し買いすぎちゃったし…」
と言ってきた。なんでこんなお人好しなんだ。意味が分からない。ただ、“銀時が好きで買ったんだけど”の一言が引っかかった俺は、少々苛つきながら口にする。
「アイツのために買ったやつ食ってもいいのかよ」
苛ついてる自分にも意味が分からない。こんな気持ちは初めてで戸惑う。そんな気も知らずに名前は少し困った顔しながら笑った。でもその女から出た言葉…。
“二人だけの秘密”__
顔に熱が集まるのが、自分でも嫌になるくらい分かっていたが、あえて気づかない振りをして
「…食べる」
と一言だけ静かに呟いた。
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